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出遅れたヒロイン  作者: ナツキカロ
本編
7/20

ろく

 


 淑女にあるまじき覗き見をしていた所を現行犯逮捕された私は、ヴィクトル先生の魔法科教務室という名の取調べ室に連行された。

 そして只今はカツ丼ならぬ洒落たクリームティーのセットをご馳走になっている。ふむ、美味であるぞ。余は満足じゃ。


 それにしても先程の光景が脳裏に浮かんで離れない。美少年を慈しむ凛々しい年上の美少女の図…目の保養だったわ……あぁ、誰か画家を呼んで。前世でこのスチルは無かったの!? ヒロインより増し増しで良かったわよ、是非ともFDには此方を上げて!

 私が未だ夢か現実かと先程の余韻に浸って頬を染めていると、ヴィクトル先生の声に現実に引き戻された。


「それで、アリサ・ターナー。お前、あんな所で何してたんだ。」


 へ? なんの話しでしょう?


 私が未だにやける顔を上げて先生を見ると、「おまっ、何て顔してるんだ。こっち見るな」と大きな掌で頭を鷲掴みにされ、グルンと反対に向けられた。

 あ痛た…、先生、首が…。


「ええっと、偶々? 偶然?」


 先生は顔の下半分を掌で覆いながら胡乱な目で私を見る。先生、耳、赤いよ。どした?


「そんな訳あるか。 あんな人気の無い所で。なんかあったんだろ」


 んんぐっ、スコーンが喉で痞えたじゃないか。


 私はすっとぼける事にした。それしかないじゃない。まさか「私の出番だったのですが、横から掻っ攫われました」なんて言えない。


「いいえ、発表会の準備の騒々しさに疲れたので、静かな所で少し休憩したかったんです。 そしたらお二人が見えたので、お邪魔になってもいけないし、どうしたらいいのかと困ってました」


 我ながらなんと素晴らしい返事だろう。いつもこれ位機転が利いたらいいのに。


 なのに私のこの満点の返事を聞いてもヴィクトル先生の疑いは晴れないようで、ズズズイッと私の方へ身を乗り出すと顔を近づけて聞いてきた。いつもは揶揄うような表情ばかりなのに、今は少しもそんな気配が無い処か真剣で紺色の瞳が揺らいで不安気にすら見えた。


「まさかとは思うが、お前、あの公爵家のお坊ちゃんに気があるのか?」


 わーあ、何を言い出すかと思えば、先生、直球だな。

 どうでもいいけど、顔、近いって。









 しつこく食い下がるヴィクトル先生の追求の手を躱し、私はクリームティーをきれいに平らげ礼を述べると教務室を辞した。



 結局何だったんだろう? 学院が発表会の準備で忙しいっていうのに魔法科のクセして随分と暇そうだったな。あ、そうか。一人あぶれちゃったから寂しかったのかな。そんでウチのクラスが魔法(マジック)ショーするのを知って、なんか声かけて欲しかったんじゃないだろうか。それならそうと、素直に言えばいいのに。全くいい年した大人が捻くれて…なんて考えながらクラスの持ち場に戻ってみたら、仕事はすっかり終わって解散してました。私もあぶれそう。


 私も下校するのでるるともこれでお別れする事にした。ばいばい、また明日ね、るる。

 るるは私が下校する時、必ず門まで見送ってくれる。最初の頃はそれこそ私の家まで着いてこようとした。けれどるるはヴィクトル先生の預かる貴重な研究対象。私の拙い光魔法などでは万一の時には守れない。なので私の側にいて良いのは学院内だけだ。るるのビロードの様な羽を撫で、潤む濃緑の瞳を覗き込みながらそう言い聞かせれば、何とか通じたようで、其れからは大人しく教務室で寝て、朝は私の登校に合わせて門の近くに待機するようになった。健気だぞ、るる。一体私の何が良くてるるはこんなに懐いてくれるんだろう? あ、キラキラか。




 妹弟を迎えにおばさん家に寄ると、おばさんに発表会の事を色々聞かれたわ。だから私も調子に乗って私が担当するキラキラショーを簡単にだけど披露してみせた。妹弟も、勿論おばさんとお喋りに来てた近所のおばあちゃんもとっても喜んで褒めてくれた。良かった。この分なら明日もきっと成功間違い無しね。







 発表会は無事に終わった。

 正確には全くの無事という訳ではなかったが。

 何故なら私のクラスのショーの途中、ケージに入っていた筈のるるが現れたからだ。

 ステージ上で色とりどりのライトを浴びた私のクラスのキラキラマジックは観客の、中でも子供達の瞳を釘付けにし、大盛況を迎えていた。

 しかしキラキラしていたのは他にもあった。クラスメイトの話では、ステージの脇に控えていたケージの中のるるの瞳もキラキラだったらしい。キラキラがキラキラを呼び、やがてるるの周りがキラキラしだして…パキンッと音がしたと思ったらケージの全面が外れて倒れ、るるがステージに踊り出た!

 るるはそのまま音楽に合わせるかのように飛び跳ねながらキラキラをパクパク。その度にるるの羽ばたきと共に更なるキラキラが降り注ぐ。観客にはショーの一環と思われたらしく歓声が上がる。私達は動揺を隠しながらもそのまま、るるを交えてショーは終わりを迎えた。

 今思い返してもヒヤヒヤするよ。ショーを観に来てたヴィクトル先生の引き攣った顔も見えたしね。因みにその後るるからキラキラは出ていない。





 数日後。


 帰宅して制服を着替えに二階の部屋に行く。着替え終わって一階に降りて行くとやはり帰ったばかりの母におつかいを頼まれた。


「ごめんね、買い置きがあると思ってたら勘違いしてたわ」


「別にいいよ。 行ってきまーす」


 私は近くの店が閉まる前にと急いで家を飛び出した。


 無事におつかいを終えた帰り道、家の近くの路地の奥に何やら不穏な人影が。なんか小さな呻き声みたいなのも聞こえるし、不審に思った私はそっと近くに寄ってみる。


「ん…」


 なんか小さく声が聞こえる。女の人の声…?


 相手に見えないように用心しながこっそり覗いてみると、若い男女が抱き合っているのが見えた。


 おおぅっ。


 私は口こそ開けなかったが、目は皿のように見開いて凝視してしまった。

 なんか最近こんなの多い気がするな。


 ん? ちょっと待って。



 あれは…… あの背格好にあの髪色は………




 大人になり切っていない細目の肩にしなやかな背筋のライン、見慣れた焦げ茶の硬そうな髪の持ち主は、私の二軒隣に住む幼馴染みでもある又従兄弟のテオではないか!

 そして彼に覆い被されるように抱き竦められ蕩けるような顔をしているのはやはり近所に住むミヨンちゃんだ。年は私より一つ下。

 今正に二人は熱い口づけを交わそう…いや、交わしている。わわっ、テオってばガッツリいって…ひょえーー


 私の許容範囲を超えた二人の盛り上がりっぷりに、私の方こそ身を引っ込め、赤くなった顔を俯けて混乱した頭を鎮めなければならなかった。

 暫く物陰でじっとしていると、近くで足音が聞こえた。マズい。

 私が動くより先に彼方が私を見つける方が早かった。


「何覗いてんだよー、この痴女め」


 ち、痴女ーーぉ!?


 そこにはニヤニヤした顔のテオがいた。あ、あんな所を見られておいて、やけに堂々としてるな。

 私は言葉も無くテオの足を思いっきり踏ん付けて、その場を走り去った。




お読みいただきありがとうございました。

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