表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
出遅れたヒロイン  作者: ナツキカロ
本編
6/20

 

 あれから王子様は相変わらず婚約者の令嬢と仲睦まじく、品行方正で通し、学院内で謎のカリスマ性を発揮し続け、私との接触もないまま卒業していかれた。

 そう、卒業しちゃったのだ。

 私は今では2年生。学院生活も中盤に差し掛かろうとしている。

 王子様ルートも騎士ルートも出遅れてしまい(騎士科の彼も無事ご卒業。式では見送りに来た婚約者殿の手を握りしめて渋とく離さなかったとか。序でに退出の花道では在校生男子に鬼の様な威嚇を撒き散らしていたらしい)、出番の無かった私だが、神様は見捨てて無かった。


 2年生にはルートが一つある。

 それは今年入学してくる一コ下の公爵子息のルートだ。

 彼は一見クールで落ち着いた、年下というよりはヒロインを保護する大人びた感じのキャラに見えるが実際はそうじゃない。

 彼の家は王弟殿下が臣家に下った公爵家。

 未だ王族とも言える高位貴族なのだ。そして現在の学院に王族の子弟はいない。よって彼以上の高位の者は存在しない。

 なので自身の入学と入れ違いに卒業していった王子や騎士団長子息に代わって、自分が学院を束ね、盛り立てていかなければと、とっても気負って入学してきたのだ。

 15才の男の子が! 魑魅魍魎と言われる王宮のミニ縮図版のようなこの学院を!!

 そんな肩肘張った彼を見兼ねたヒロインが癒してあげるのよ。

 どうやって? くふふっ、それは後のお楽しみ。

 実はこのルート、結構好きだったりする。

 確か最後はこればっかり繰り返してて、肝心のオールクリア後に出て来る隠しキャラルートに進んでなかったんじゃないかな。

 私、普段から妹弟の面倒見てるからか、年下の子の世話、嫌いじゃないんだよね。

 ましてや彼は一度このルートに入れば後は楽勝ツンデレ君。怜悧なアイスブルーの眼差しが、デレて潤潤になるの、見たくない? 見たくない〜? 私は見たい!!

 や〜ん、アリサ、がんばるぅ〜〜。


 そんな事を中庭の木陰で一人妄想して身悶えていると、クラスメイトの女子に「アリサ、こんな所にいたの? ヴィクトル先生が呼んでたわよー」と捕獲され、魔法科教務室に連行されてしまった。るる、助けて〜。





 ◇◇◇◇◇





 昨夜降った雨が嘘のように晴れ渡った青空の下、本日の学院は明日に迫った文化芸術発表会という名の、前世で言えば学祭のような行事の準備の真っ只中である。

 あっちでは金槌がトンテンカンテン、こっちでは脚立がグラグラ、この時期ばかりは貴族も何も入り混じって大わらわだ。ついでに貴族お抱えの従者さん達も混じってたりする。え、殆ど彼らか?

 しっかし暑い。昨日の雨が今日の陽気のせいで蒸気となって立ち上り、変に蒸し暑い。お陰で準備も中々捗らない。

 私のクラスは展示と魔法(マジック)ショーの出し物で、展示は既に準備万端、ショーの方は担当者は練習中で、私も出るけど、光属性を使った子供騙しのキラキラショーだから、そんなにする事もないの。

 実はこれ、昨年の発表会でもしたんだよね。その際私の繰り出した習い立てのキラキラショーは子供達と女性に大人気で、それに気を良くしたうちのクラスは今年も同じショーを出す事にしたの。勿論少し手を加えてね。

 思い出すなぁ。色々あったんだよね…。



 昨年の発表会は私達も初参加とあって右往左往しながら準備を進めてたんだ。

 一年生の私達は展示物がメインでその横に小さなイベントスペースを設けて展示関連のミニミニショーをする事にした。その日、どんな出し物をするか話し合っていると、誰かがアリサ・ターナーの光マジックがいいって言い出したの。えっ!私?確かに授業で習い始めた魔法の演習で私がやると皆と違って辺りがふわっと光るんだよね。でも唯それだけ。まだ魔力の練り方を練習してるだけだから、何が出来る訳じゃない。でも…。

 私は膝の上で蹲るるるをチロリと見下ろした。

 私が魔力を練ると何故かるるが落ち着かない。私の周りをぐるぐるし出す。いや、正確にはその光った中に飛び込んでくるというか。無くなると、まるで"もっともっと"というように鳴いて催促してくるの。でも魔力を練ると私もすぐ疲れちゃうからそんなに何回も出来なくて。

 練習と共に私の練り方も上達すると、唯ふわりとしていた光の空気が細かな粒子となって降り注ぐようになった。

 此れがキラキラショーの正体。唯綺麗なだけ。これに合わせて他の子が花びらを風魔法で吹かせたり、ミニチュアのウサギや栗鼠なんかを幻影で出してダンスを踊らせたりした。う〜ん、ファンタジー!


 今年はちゃんとしたステージでショーをするから、もう少し大掛かりな事をするしメインも私じゃなくなったけど、私のやる事は基本変わらないのだ。

 所が問題はるるの方にあった。

 私から金の粒子が出るようになると、るるはその粒子をバクバクと食べるようになった。それはもの凄い勢いで。これではるるが邪魔してショーが出来ない。それで一度心ゆく迄るるに粒子を与えてみるとるるが満足して大人しくなる事が分かった。其れからはショーの前にるるが満足する迄キラキラをあげてから念の為ヴィクトル先生にお願いして用意して貰ったケージに入れておく事にした。明日もそうする予定だ。










 そろそろ時間かな。



 私は予め見当を付けておいた校舎奥の中庭の外れに移動する。るるが私の後をテトテトと付いてくる。


 ここには寂れた四阿があって、周りを囲むように植え込みが生い茂っているから、人が居ても見えにくい。校舎の高層階からは見下ろしたら丸見えだけど、屋根があるから人が中に入り混んでたらやっぱり見えないのよね。

 この四阿は公爵子息ルートでの二人の秘密の落ち合い場所になる。学院の中で只管背伸びしてリーダーシップを発揮し続ける彼の謂わば憩の場なんだ。

 体調を崩した彼をヒロインが優しく介抱したのを切掛に、二人は知り合い、彼もヒロインに心を許していく。身体が弱ってる時って人間心も弱ってるからね。

 ここで勉強や学院生活、外の街中の様子から国の政策の在り方などを話し合ったりして二人で過ごす時間を重ね、やがて互いの将来に夢を馳せていく。そうしていく内に公爵子息は自分の描く将来図にヒロインにいて欲しい、いや、彼女は無くてはならないという自分の強い思いに気づいてしまう。う〜ん、青春だぁ、くうぅっ!


 そして二人が知り合う第一歩が、今日この場になると私の勘が告げている。学祭前、この天気、先程見かけた疲れの滲んだ彼の表情。条件は出揃った。

 私は木立の間に身を潜めた。るる、しーっ、よ。


 校舎の陰から彼が現れた。やはり顔色が悪いようだ。ここ数日の準備の忙しさで体調不良だったのが、今日の暑気にやられたらしい。けれど頑張り屋の彼は周りの皆に気取られまいと、一人ひっそりと体を休めに来たのだ。健気だね。


 私よ、今こそ出番だ。さあ、歩を進めよ!


 私が満を持して出て行こうとした時、もう一つの人影が現れて、彼に近づくと、今にも倒れそうだった彼を支えて四阿へと向かった。


 ぇぇえええーーーーー!!!!!


 あれは、あのスラリとした体型、流れる艶やかな赤茶の髪色、そしてキビキビとした中にも優雅な物腰は。

 物語の姫騎士も斯くやと言われる"薔薇の騎士"との渾名を持つ私と同じ学年の騎士科の女子生徒ではないか。

 私は慌てて私と共に行く気満々だったるるを捕まえて手で囲うと再び身を潜め、二人を見守った。


 公爵子息の方も限界だったのだろう。大人しく言われるがままにしている。やがて薔薇の騎士に促され、彼は四阿に置かれたベンチに腰を下ろすとその隣に彼女が座った。

 これはもしや、あれが見られる? あの夢のスチルシーンが。

 こうなったら見る方でいい。いえ、寧ろ見る方・が・いいです!

 くるかな?やるかな? キ、キターーー!

 憧れの


 ザ ・ 膝 ま く ら ーーーーー !!!



 はわわわわ〜〜、やっぱり美男美女って絵になるぅ。しかも彼女、あんなにスレンダーなのにでるとこでてるのよね。あ、お胸が彼の顔に当たっちゃうんじゃないかしら、うふふ。

 これでは彼の顔が赤いのは、暑さのせいかなんなのか、分かんなくなっちゃったんじゃないの? あ、目を瞑った。そうそう、頑張ってるんだから少し休憩した方がいいよ。そんな君にコレはご褒美さ。

 はぁ〜、眼福〜。こっちまで癒されるわぁ。


 しかし不味いな、此れでは私も立ち去れない。下手に動けば気付かれちゃう。


 ((こんな所で覗きかな? いい趣味してるね))


 いきなり耳元近くで囁かれ、私の胸はドッキーンと跳ね上がった。


「の、覗きだなんて、私…」


 ((しーっ、静かに。声が聞こえちゃうよ))


 そう言って私の横に屈んでニッコリ笑いながら指を一本唇に立てているのは私の天敵、ヴィクトル先生だった。


 はい、すみません。 覗いてました。





お読みいただきありがとうございました。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ