よん
ヴィクトル先生の悪戯?に懲りた私は、あれから先生を避ける事を止め、何かにつけて構ってくる先生に只管耐えた。
ただ先生の方もちょっとやり過ぎたと思ったのか、以前に比べたら随分と当たりは柔らかくなった…と思う。
髪の毛の件はあの後、一つに結んでから、母を真似て捻ってお団子にしてたんだけど、私の髪はストレートな為にしょっ中スルッと解けて落ちてしまう。
一度そうなった時に「お前、何やってるんだーーー!!」って怒鳴られて、びっくりして振り返ってみたらヴィクトル先生が顔を真っ赤にして怒ってた。
何もしてませーん、先生…。
何故怒られたか分からない私は、近くでこちらを伺っていた男子生徒たちに視線で問う。なぜか彼らも顔を赤くして俯き加減で早速さと立ち去ってしまった。
それからは毎朝登校するなりヴィクトル先生の教務室に出頭して、先生が一つ結びにしてある私の髪を更に三つ編みにして一つ結びの根元に巻き付けるという高度な技を駆使して下さる事になった。ラクチ〜ン。
そんなある日、その日もヴィクトル先生に頭を仕上げて貰おうと私は朝から魔法科教務室に向かっていた。学院は広い。授業を受ける教室と先生方に割り当てられてる教務室のある棟は建屋が離れているので、順当に建物内を移動していては時間がかかる。なので私はいつも中庭を突っ切って行く事にしていた。それにしても中庭って、いくつあるの?
正直、私は油断していた。学院内で、しかも早めに登校している為人影もまだ疎らで、背後からの攻撃に合うとは思いもしていなかった。
いきなり背中に衝撃を受け、その威力よりも突然な事の方にびっくりした私は一瞬、声も出せずに身を小さくするしかなかった。何?何が起きた?
恐る恐る自身の背後を振り返ろうとした瞬間、次の攻撃がやってきた。頭上だ。
頭に何かが載し掛かり、バッサバッサと音が、風が、、、。 ……バッサバッサ?
「キャ〜〜! 何よ、コレ〜!!」
腕を上げて頭を庇うが、今度は腕が捕まった。奴は腕にしっかり掴まると勝鬨の声を上げた。
「くるるるゥーー!」
顔を上げた私の視界には、鳩ほどの大きさの見た事のない鳥がいた。
首をこてんっと傾げるな。そんな事で私は騙されないぞ。
ヴィクトル先生の教務室に辿り着いた私が「先生〜」と情け無い声を上げると、先生は本を読んで俯いていた顔を上げぐるんとこちらに向いた。
「おう、おはよう。何だ、そのこ……え…」
因みに私の頭上には先程の鳥が陣取り、乱れてボサボサになった私の髪は私達の格闘を物語っていた。
「あーー! その鳥!何処にいたんだ!?」
先生のお知り合いですか、そうですかー。
私は半眼になって先生を見た。
どうやらこの鳥はヴィクトル先生が面倒を見ていた鳥らしい。最近ではしょっ中抜け出しては先生が捕獲して…の繰り返しで、持て余しているらしかった。
しかし侮るなかれ。何を隠そうこの鳥、ただの鳥ではなかった。魔法鳥の一種で"ヌヴィエリエラ・ぺプリュイ・ベ・ラ・デスティヌュイ"と言う有り難い名前がついている。二度は言わない。
この魔法鳥の生態はまだよく分かっておらず、先生のお友達(冒険者)が卵を持ち込んできたのを先生が預かっていたらある日部屋で孵化していたそうだ。
「へぇ〜、魔法鳥なんですか。私、初めて見ました。」
私は今、ヴィクトル先生に髪を仕上げて貰っている。先生、日に日に腕を上げてるなぁ。
「俺も初めて見たよ、こんなに人に懐いてるコイツ」
魔法鳥は私の頭の上から膝の上に居を移してのんびり羽繕い中。やたらと私にピッタリくっつきまくって離れない。なんだろ、刷り込み?いつの間に?
「コイツ、何もかもが中途半端にしか解明されてないんだ。属性もコレに似た鳥が炎だから炎かな?って感じで分類されてるだけだし、何を食べて、どんな環境に住んでて、どれくらい生きて、どうやって成長するのかも正確には分かって無いんだ。まぁ、研究するにはもってこいなんだがな…」
ヴィクトル先生は苦笑いしながら説明してくれた。
そうなんだぁ。何にも分かってないんだねぇ、お前…。
「先生、この子、名前は何ていうの?」
「名前? そういや決めてなかったな」
まさかの名無しちゃん…、
「お前がつけてもいいぞ」
…それでは、お言葉に甘えて。
私は魔法鳥を見つめて暫し考える。
「くるるるる……」
魔法鳥は私の顔を下から覗き込んで小さく鳴いた。その瞳は愛らしくまん丸で濃い緑色をしていた。
「くるる?…るる…。るる! "るる"はどうかしら?」
私の一瞬の閃きにより、この瞬間、魔法鳥"るる"が誕生した。
◇◇◇◇◇
その後暫く私の学院生活は平凡に過ぎた。平穏でなく、平凡だ。るる以外の出会いもなく、るる以外の接触もなく。あ、ヴィクトル先生はあるか。
私は自分の虚覚えな前世の記憶を今更ながらノートにまとめてみた。残念ながら思い出した私の記憶は自分が乙女ゲームをしていた事、そしてそのゲームの内容(しかもやり込んでない!)位しかない。勿論、一般的な常識や社会概念はあるよ?けれど、個人的な記憶があまり無いのよ。…私、死んだんだよね、きっと。どうやって?いつ?乙ゲーしてたって事は、お、女の子だったんだよね…? うぅっ……。
るるは学院内で私のストーカーと化している。授業中も大抵窓枠に止まってたり、私の机の下にいたりする。しかもそれが許されちゃったりするから私も最初はビックリした。今では公認ペット扱いだ。
聞けばなんでも昔から魔力持ちの生徒の中には稀に使い魔という魔法動物(魔力持ちの動物で、その構造は人が魔力持ちなのとは異なるらしい)を持っている者もいたので、そういった場合、授業に支障を来さなければかなり自由に随伴が許されているらしい。
その上るるはヴィクトル先生の研究対象。住居は学院内の先生の個室…だったが、今回魔法科教務室にお引越しして、私が半分くらい世話する事になった。
私も此処まで懐かれると可愛く思えてきて、お世話するのも吝かでは無い。元々面倒見いいから、私。
餌だって私がやるとよく食べる、らしい。らしいとつくのは、だって私は食べてないるるを知らないから。餌は果物や野菜、花の蜜や其処らの葉っぱだったりする。嘘です。花は丸ごと食べてます。
大きさもあっという間に出会った頃より一回り以上大きくなった。頭や腕に乗られるとちょっと重い。肩は無理。私、肩幅そんなにないからね。ヴィクトル先生の肩ならまだ大丈夫だけど、乗せると無理矢理感が溢れてて、肩からるるが生えてる感じになってしまってる。地味に笑える。
成体は大型犬位の大きさになるって記録にあるみたいだから、るるはまだまだ成長期。るる、頑張って大きくなってね。
この頃の私はこんな風に呑気に学院生活を送っていた。まさかこの後、あんな事やこんな事が起きるなんて思いも及ばなかった。
お読みいただきありがとうございました。




