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出遅れたヒロイン  作者: ナツキカロ
本編
4/20

さん

 


 私は今日から(今までもそうだったけど)ヴィクトル先生には決して自分からは近づかないと新たに心に誓って家を出た。




 学院に着くと、丁度先ほど私を追い越して行った馬車が一台、馬車寄せに停まった。扉が開き一人の体格のいい赤髪の青年が降りてきて、振り向くと左手を差し出している。

 すると遅れて中から白いほっそりとした手が伸ばされて、その掌の上に重ねられた。

 後から降りて来たのは私と同じ学年の2組の女の子。確か伯爵令嬢だったはず。

 そして彼女をエスコートしているのは騎士団長である子爵の次男坊で騎士科クラスの2コ上の青年。何を隠そう、彼は攻略対象なのだ。

 彼とヒロインの出会いはヒロインが学院に入学する前。街中で破落戸に絡まれたヒロインを彼が助けて知り合うんだ。その時はお互い名前も名乗らずに別れるんだけど、学院で再会した二人は言葉を交わすようになり、まぁ、細かい所は端折るけど、段々と距離が縮まって行き…

 なんて感じになるはずなんだけど、私、出会って無いんだよねー、彼と。

 破落戸? どこにいたんでしょ? 居眠りでもして、出番忘れてたんじゃないデスカ?

 あーあ。

 それに、今目の前で仲良く手を取り合う二人は、もう言わなくても分かると思うけど、婚約者同士なのよね。

 彼女が入学するのを待ち兼ねていたらしいわ。

 こうして毎日、朝から彼女を家に迎えに行って、登校をエスコートしてるのよ。

 学院じゃ"溺愛"って評判の仲の良さ。

 無いわー。

 ここに割って入れる程、私も神経図太く無いんですけどー。


 騎士ルート、没。 コレ、決定ね。




 二人が建物の中へと消えて行き、私も軽く息を吐くと止めていた歩みを再び進めた。


 カサカサカサ……


 ん? 何か今、音がしなかった?


 気になって音が聞こえた辺りを振り向いてみたけれど、特に何もないようで。 うーん?

 ま、いいか。今日の一限目はミニテストがあるからね。早く行って見直ししないと。




 ◇◇◇◇◇



 あれから一カ月。 私は出来うる限りヴィクトル先生を避けた。避けて避けて避けまくった。

 そして今、放課後、私は魔法科教務主任ヴィクトル先生の教務室で一人、黙々とペーパー問題を解いている。同じ室内には勿論ヴィクトル先生。


 解せぬ。


 何故にこうなった? 授業態度は元より、提出物はきちんと全て出して完璧だし、テストも平均は超えている。

 私はちろりと、先ほどからのんびりと窓際で本を眺めているヴィクトル先生に視線をやった。


「なんだ、分かんないのか?」


 分かるわい。

 分かんないのは、アンタの頭ん中!


「先生、どうして私だけ居残り補習なんですか?」


 先生はうん?という表情を見せると次の瞬間口の端を薄く上げた。


「そりゃ、お前がテストで0点取ったからだろう」



 そう、おかしな事に私は数日前にあったテストで0点を取った事になっている。 何故か解答が全て一問ずつ、ずれて書かれていたのだ。

 私は不満気な顔で先生を見上げた。


「俺は面倒見がいいからな。迷える仔羊は救ってやらんこともない」


 迷ってないわい。

 ってか、なんで先生、そんなに嬉しそうなんだろう? 私を虐めて楽しいの?

 もう、早く終わらせてチビ達迎えに行かなくっちゃ!



「出来ました。 帰っていいですか?」


 ヴィクトル先生は問題を受け取るとサッと目を通して私の顔をじっと見た。


「茶でも飲んでくか? 俺は淹れるの上手いぞ」


「いいです。妹弟が待っているので」


 先生は短く息を吐くと、帰っていいと言ってくれた。やった。

 失礼しますと言って部屋を出ようとすると、先生が付け足すように言った。


「これに懲りたら、二度と俺のこと避けたりするなよ」


 おい〜〜〜〜〜っ!!!!





 腹黒ヴィクトル先生のお陰ですっかり遅くなってしまった私は街中を急いで家に向かって歩いていた。

 途中、見知った顔が視界の端から手を振ってくる。

 テオともう一人自警団の人だ。

 勢いを殺して足を止め、息を整える。


「こんにちは。 巡回中ですか?」


「ああ、アリサは学院の帰りか? 遅くまで大変だな」


 自警団の一人、ヤールカさんが労ってくれる。


「それにしてもお前、すんごい顔して歩いてたぞ。親の仇でも討ちに行くみたいだった」


 そう言って隣でゲラゲラ笑っているテオは、どうやら今は自警団の任務中のようだ。

 私とテオがいつものように言い合いをしていると、ヤールカさんがおいおいと止めに入ってくれた。


「団長も心配しているようだから、気をつけて早く帰れ。 まぁ、滅多に変な輩は声かけてこないだろうけど、それでもな」


 確かに自警団の団長の娘に好き好んで粉かけてくる奴もいない。

 それなのに団長もとい、私の父は過保護だ。こうやって自警団の皆に私のお目付け役を押し付けている。職権濫用じゃん。

 それもこれも、私のこの目立つ銀髪のせい…


「いやいや、髪の色だけじゃないから。違うから…」


「いいんだよ、アリサはあのまま気が付かなくて。余計な事言うなよ」



 あれれ?なんか二人がごちゃごちゃ言い争ってる?

 あ、マズい。お迎えが。


「お邪魔しちゃってすみません、それじゃ私、妹弟のお迎えもあるんで失礼します。さようなら」


 うーん、すっかり遅くなっちゃった。妹たち待ち草臥れてるだろうな。拗ねられたら後が面倒だ。パンケーキでも焼いてご機嫌取ろうかな。

 などと考えながら、私は若干暗くなりかけた家路を急いだのだった。




 私の父と母は近所でも評判の鴛鴦夫婦だ(因みにおばさんとこは割れ鍋に綴じ蓋と言われている)。銀髪に体躯の立派な父と栗色の髪の緩いウェーブが優し気な印象を与える美人な母の出会いは、少しロマンティック。

 この王都のお祭りで女神様の乗る輿に共に乗る花娘の一人に母が選ばれて、パレードをしていた時、それを見た父が一目惚れしたそうだ。

 その頃一介の自警団員でしかなかった父は、そこから必死でアプローチしたらしい。

 花娘に選ばれた娘達には箔がつく。その後は何処か裕福な商家や騎士や中位の神官役人辺りに嫁ぐ事か出来るんだって。前世でも有名なお祭りで大役を熟すと縁談の格が上がるとかあったな。

 その上、母はその年の花娘の中でも群を抜いて美人だったというからとんだ高嶺の花だ。

 どういう奇跡が起こったか知らないが、父は母の心を掴むのに成功し、周囲の祝福を受け二人は目出度く結婚。今に至るという訳だ。因みに私の年齢=二人の結婚年数。そりゃ、周囲も反対出来ないでしょ。やるな、父よ。

 私の銀髪は父譲り、顔は母に似てるって言われるけどせいぜい中の上。ルシエラの方がもっと母に似ていてきっととても美人になるだろう。銀髪だけが取り柄の私より将来が楽しみな妹だ。



 二人と別れて急ぎ足で進む私の横を馬車が通り過ぎて行く。掲げられた旗には騎士団長家の子爵紋。キャッキャウフフ組だな、あれは。本日も仲良く溺愛送迎コースのようで、何よりだ。









お読みいただきありがとうございました。

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