いち
入学してから二カ月が過ぎた。
私はクラスにも馴染み、平穏無事に過ごしている。
私の学年は4クラスに分かれている。
1組は王族と生粋の貴族。
2組は傍系王族と1組に混ぜれない貴族と貴族に準ずる身分や裕福な平民。
3組は1組にも2組にも入れれない者と魔力持ち平民。
4組は騎士科クラス。
幸い今年の3組には面倒な身分の人は居ず、受け持ちの先生も普通に生徒に接してくれるいい先生だった。
うん、なんとも居心地のいいクラスだ。
ただやはりお勉強の方はちょっと頑張らないと、1、2組にあまりに差をつけられてはよろしく無い。
自然と宿題や提出物、ミニテストがウチのクラスだけ多めにあり、ここ一月は授業についていくので一杯一杯だった。
よって王子様との接触なんて、ムリ。皆無。
それにさ、、、
実は接触こそ無いけど、王子様は何故かよくお見かけするの。やっぱり目立つのかな。昨日も中庭にいらっしゃった、婚約者を連れて。
そう、婚約者。ゲーム内でいう処の悪役令嬢、
の筈なんだけど。
あの二人、一緒にいるのをたまに見るけど、仲良さげなんだよね。
令嬢もそんなにキツそうに見えないし、悪い噂聞かないし。なんと言ってもやっぱりキレイな人なのよ。お金も手間もかかってるって感じー。
とても乙女ゲームの悪役令嬢になるようには見えない。
え? 彼女がゲームの世界のような悪役になっちゃうのは、私のせい? 私が王子様にちょっかいかけちゃうからなの?
そんな風に考えたら、なんだかねぇ。せっかく幸せそうなのに、私が近づいて邪魔しちゃったら悪いじゃない。私だって、変に波風立てたい訳じゃない。そりゃ、あんな金髪碧眼のザ・王子様!って感じの美貌で微笑まれちゃ、私だってコロッといきかねない。だから決めたんだ。近寄らないって。この先、キケン。立入禁止。
私がボーっと中庭を眺めながら考えていると、ふと視線を感じた。うん? 誰かに見られてる? キョロキョロ辺りを見廻してみるが、誰も居ない。気のせいかな。最近偶にあるのよねーなどと思っていると、後ろから頭にポンッと軽く何かが載った。
「アリサ・ターナー、暇そうだな。明日提出のレポートは終わっているのか?」
そう気安く話しかけてきたのは、ヴィクトル先生。私のクラスの魔法全般を担当している。
ヴィクトル先生は入学式の日に大ホール前でアワアワしていた私に声をかけてきた先生。
黒髪紺眼に眼鏡をかけた無駄にイケメンな人だ。
何故無駄かって?
私の覚えてる限り、彼は攻略対象ではない。
しかも女子生徒に見た目でキャーキャー騒がれる割には生徒に厳しく細かい指導をする為人気が半減。先生、絶対血液型A型でしょ。
かくいう私も苦手なんだけど、何故かやたらと話しかけられるんだよね、この先生に。
きっと私の光属性の魔力が珍しくて、そのうち研究材料にされそうな気がする。ゾワゾワァ〜。乙女の危機!?
「まだ仕上げてないですけど、ちゃんとやってます」
私は頭に載った先生の大きな手をやんわり払うとちょっと唇を窄めて答えた。
するとヴィクトル先生は眉を顰めて私を見ると、また私の髪に指導という名のイチャモンを付けてきた。
「お前のその髪、なんとかならないのか。もっとこう、小さくしろ」
ほへっ? 小さくとは如何様に?
「小さくってなんなんですか。編み込んで頭に括り付けろって事ですか? 私、家で小さい妹弟の面倒も見ているので、朝からそんな手の込んだ事する時間ないです。
前に先生に注意されてからきちんと一つに縛ってます。規則はそれで充分ですよね?それとも短く切れと仰るんですか?」
先生は私の思わぬ反論に言葉をぐっと詰まらせた。
私はこのニカ月で気がついた事がある。
先ずはこの髪の毛。
私の髪は綺麗な銀髪ストレートでちょっと自慢なの。さっすがヒロイン、テンションも上がる。
ウチの近所では髪の綺麗な私はそこそこ有名だったけど、それは井の中の蛙だと思ってた。
それこそ貴族の間では珍しくないだろうって。
そしたらそれはどうやら違うらしい。
この学院の中でも私ほど綺麗な銀髪はそうそういない。だから髪を解いて風に靡かせようものなら要らんモンまで靡き兼ねない。不必要な嫉妬は買いたくないし、学院出て誘拐なんてのも怖いしね。
だから自分としては極力地味にしてるつもりだ。制服だって改造してないし。
そう、髪型に制服! 3組はそこまであからさまな人はそういないが、1組2組は凄いよ、ホント。
先ず髪型。男子はまだいいけど女子。みんなハーフアップや縦巻きロール、凝り凝りに凝った髪型なんて自由自在だよ、規則はどこ行った?
それに制服に至っては、改造どころかもう別物じゃないかって人もいる。
スカート丈を短くしてる人もいれば、ドレスのように長くしたり、レースやリボンは当たり前、果ては違う布地を付けたり貼ったりして原型を留めてないよね、アレ。
男子も凄いよ。
ズボンだって一人一人微妙にラインを変えてたり。
胸元は基本は白のクラバットタイプか黒のネクタイタイプなんだけど、既にカラフル。ストライプに水玉、宝石キラキラピンバッヂにレースに… 釦だって宝石に代わってるの。皆んなお金余ってるんだね、それとも今から財産持って亡命するの!?
ここは王立だから流石に先生達も王族貴族には細かく規則を守らせようとはしない。
それでもヴィクトル先生が何人かの新入生に果敢に注意しているのを私も見かけた事はある。無駄だったけど。
彼らに比べたら私なんて超優等生だ、これ以上どうしろって言うんだー!
ヴィクトル先生は眼鏡を押し上げると溜息を吐きつつ言った。
「そこまでは言ってない。ただお前の為に言ってるだけだ。 分かった、もういい、そのままで」
「それじゃあ、お話が終わりなら失礼します」
そう言って私は先生の横を通り過ぎようとした。
「切るなよ」
「え?」
「髪の毛。勿体無いだろ」
ヴィクトル先生はそう言うと、そのままさっさと行ってしまった。
お読みいただきありがとうございました。