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出遅れたヒロイン  作者: ナツキカロ
番外編
18/20

ヴィクトル 

 





 学院の卒業式を終え、去り行く生徒達と最後になるかもしれない言葉を交わすと後片付け等の雑事は学院の事務員達がするので俺は特にする事もなく。るるを連れて一度教務室に戻るとそこには長らく顔を見なかった知り合いが俺のカップを片手に椅子にふんぞり返って座っていた。



「よお、お疲れ」



 相変わらずマイペースな奴だ。

 此奴はいつもこうやって突然訪ねて来る。まぁ、事前に連絡を貰っても俺も困る。逃げ出す訳にもいかないしな。

 前回訪ねて来たのは三年半程前。厄介な手土産付きだった。今その手土産は自力でこの部屋を動き回っているのだが。



「紅茶しかなかったぞ。珈琲ないのか」



「今度はなんだ」



「うわっ、挨拶も無しか」



 その言葉、自分に言えよ。



「まぁいいや。それよりひょっとしてソイツ? あの卵から出て来たのって」



 るるは客にも目もくれず、トテトテっと部屋を横切るとこの部屋に不似合いな豪華で花柄の愛らしい一人掛けソファの上に飛び乗り、二、三度脚を踏み踏みして場を確かめると蹲った。どうやら昼寝タイムらしい。


 それ程広くはない俺の教務室に何故こんな無駄に場所をとるソファが置かれているかというと、話は数ヶ月前に遡る。あの日、俺がこの部屋に帰ってくると…



「キャー!! やっぱりピッタリですぅ! るるちゃんにはこのソファが似合うと思いましたの。そうしていると百獣の王の風格が漂いましてよ」



 窓辺に近いこの部屋の特等席に、見慣れない一人掛けソファが鎮座し、その上にちんまりとるるが座っていた。


 ーーーそこにあった俺の愛用の長椅子は何処いった?


 俺が戸口で立ち尽くしていると横から声がかかった。



「ごめん、先生。止めようが無かった」



 振り向けば苦笑いの三組男子。家は確か、王宮出入の商家だったな。

 なるほど。事情は大体察した。無理もない。伯爵家からの御用命じゃ何も言えないだろう。

 一列に並んで、未だるるにキラキラの熱い眼差しを向けている女生徒達ーーフェスラ嬢他に俺は若干引きながら説明を求めた。ーーーおい、そこ、並ぶな。恐いだろう。今から何か始まるのか!?


「可愛い!似合う!ラブリー!きゅんきゅん!」と最後には説明には不適切な意味不明の単語に押し切られ、済し崩しに置かれる事が決定されたソファはその日からるる専用となり今に至る。




 ともかく、話は伝わっているらしいな。何処で聞いて来るんだか、此奴はいつも色んな事を知っている。

 それなら話は早い。そのつもりでこっちも話すぞ。



「ふーん、面白い魔力を感じるね。出会った事の無い魔力だ。…うん、なる程、とてもいい感じだ。とても興味深い」



 組んだ手の上に顎を乗せて、じっとるるを目で追う男。なんだ、今更るるの所有権でも振りかざそうってのか? それはそれで厄介事が一つ減ってこっちは助かるぞ。


 だが、しかし…



「ふふん、そう眉間に皺を寄せるなって。何もしないよ。そっちに渡したんだ。今後も任せるよ」



 にやりとした顔を俺に向けて男は言うが、何かすっきりしない。何か含んだ言い方だ。



「で? 用件はなんだ」



 本日二度目の問いかけだ。これでもまだはぐらかすなら追い出すか?



「そう尖るなって。次いでがあったからな、様子見だ、様子見。こっちの方はどうなってるかなって」



「心配いらない。此奴は引き続き俺が手元に置く。このまま一緒に魔術師団に連れて行く。記録は取って重要事項は纏めて王宮(うえ)に挙げてある。今の所、前回の事件より大きな変化は見られない。報告書通りだ」



 それならお前の目にも入るだろ?



「りょーかい。じゃあ、あっちは?」



 あっち?


 あっちと問われて、俺の眉間の溝は益々深まった。



「相変わらず、超お気に入りみたいだな、魔術師団にまで連れ込むだなんてなぁ。いや、もう、ほんとびっくり。俺にはムリだわー。引くわー。大体お前いつからあの子の事見てたと思ってんだよ。確かこんくらい…え、何、お前、ロリコンだったの? 年の差いくつだよ。もう唾つけたの?ーーーわっ、すまん、ごめんっ、ごめんなさいっ。俺が悪かったーもう言いませんっ!」



 俺が掌の上に枕位の大きさの火炎球を浮かび上げると、口の悪い知人は先を急いでいたのか、「また来る」と言い置き窓から早々に退出された。



 やれやれ。一体何がしたかったんだ、彼奴は。



 ついさっきまで奴の座っていた椅子に座りー地味に温さが残ってて気分が下がるがー手元の書類に目を落とす。そこには彼女に関する諸々の報告と関係者の注意事項等がまとめてあった。

 その内の一枚に目を止め、注視する。先程の卒業式で見た姿を思い浮かべて、やや苦虫を噛み潰したような表情になる。



「ったく、こっちはこっちで、この王子サマは何やってんだ。隣の杏は甘そうに見えるってか?」



 昔からあるわらべ唄「杏の木」

 それを基にした物語が民間に広く知られているが、あんな話の何処が面白いんだ?



「……そうやって羨ましく見てたら気が付いた時には自分ちの杏は隣の奴に食われてたってオチだったよな、そう言えば」



 いやいや、そんな縁起でもない話は置いといて。



 俺は明日からの予定を考える。

 明日には多少の荷造りをして出所の手配をし、るるは一旦俺が連れ帰るかー?いや、先に魔術師団に連れて行くか。るるが先だな。明日の午前中に連れて行こう。それからーーーー


 今後の行動を思い浮かべて僅かに自分の口角が上がっていくのを俺は気付かない。


 三日後、アイツはどんな顔をするだろう?







作中のわらべ唄「杏の木」に因んだ小噺を別作品に仕立て投稿しました。ご興味頂けましたら幸いです。但し、内容はこちらの作品とは一切関係ありませんので、ご了承下さいませ。


お読みいただきありがとうございました。

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