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出遅れたヒロイン  作者: ナツキカロ
番外編
16/20

学院での日々

 



「ちっ、ちょっとよろしいかしら!?」



 首から上を真っ赤に染め上げて話しかけられ、連れて来られたのは恒例の体育館裏ならぬ日の当たるポカポカ陽気の中庭だ。目の前にいるのは、隣のクラスの伯爵令嬢(注;婚約者は攻略対象の騎士団長子息)とそのお友達の令嬢二名。



 来ちゃった、来ちゃったわよ!イベントが!!


 すっかり忘れてたけど、これ、そうよね?


 えっ!? 呼び出しって、騎士団長子息のルートでも発生するんだっけ?覚えてないなー。ダメじゃん、私。よく復習さらっときなさいよー。



 などと一人ワクワクドキドキしながら付いてきたんだけど、どうもおかしい。何がって、何かが。いや、どこもかしこもかな?

 場所も、人目に付かない処か、周りからの見晴らしもいい極々平和的雰囲気の溢れる中庭で。

 相手は威圧感たっぷりに此方を見据える傲慢な令嬢処か、切なげに両手を組み顔を紅くしてモジモジしながら潤んだ瞳で見つめてきて。


 何だ、何だ、一体何なんだ―――!!




「あ、あの…?」



「わ……、×○;△じっ、……☆◎+⁈、あぅぅっ、」



 よく分からない言葉を発した後、遂には両手で両頬を抱えこんじゃったわよ。どした?

 だ、大丈夫?この方。どっか具合が悪いんじゃ!?

 だけど、後ろのお友達二名は何とも言えない表情でただ苦笑して見守っているだけ。何これ、通常運転とか言わないよね?彼女がこんなキャラだなんて、聞いてないよー、私。


 コホンッと咳払いし握り拳で胸を軽くたたき「んんんっ」と喉の調子を整え漸く彼女は話し出した。

 はぁーっ、良かった。



「わた、私、隣のクラスのシャーロッタ・リアナ・フェスラ、です。あの、ア、アリサ・ターナーさんに、お願いがあります、の」



 勢い込んで話し出した様子は真剣だ。気迫が違う。何やら鬼気迫る感が漂い、逃げを許さない。



「は、はいぃ、なんでしょう?」



 私まで吃っちゃったわよ、恥ずかしい。



「っ、私達も、るるちゃんのお友達にならせて下さいませ!」



 ……そうきたか。

 私が少しばかり遠い目になったのは、仕方ないと思う。ははは。


 勿論その場で快諾し、中庭はるると三令嬢の自己紹介という流れからのふれあい広場と化した。それは小一時間程続き、最後に卒業された筈の騎士団長子息が帰りの遅いシャーロッタさんを捕獲、もとい撤収…むにゃむにゃ、お迎えにきて漸く解散となった。

 どうやら私の記憶と実際のお二人の関係には齟齬があるらしい。シャーロッタさんが山で群れから脱走している仔山羊に見えたのは私だけだろうか。今後、婚約者の騎士団長子息の事は密かに"ペーター"と呼ばせて頂こうと思う。がんばれ、ペーター。


 この後彼女達からるるへの怒涛の差し入れ攻撃が始まり、るるが不名誉な"飛べない鳥"と化してしまった。

 その為、ヴィクトル先生に呆れられながらも前世の記憶を頼りに必死に特製ダイエットメニューを組み、なんとか元のるるに戻る事が出来た。ホッとした。


 さて、そんなある日の事。

 すっかりお馴染みの場となったいつもの中庭でるるを構い倒しながら三令嬢を交えた皆でお喋りに花を咲かせている時だった。

 私は話しのついでに最近、我が家で盛り上がりをみせているある事柄について触れた。


「それをしているルシエラは本当にとっても可愛くて、るるに息をぴったり合わせようと必死な処がまたなんとも…」


 私は姉馬鹿振りを発揮し、話しについて来れない皆を置き去りにして滔々と語り出した。

 気付けば皆が目を丸くして口をポカーンと開けている。ん?私、また何かやらかした?


「待って下さい。え? 今、何の話しを…」


「だから、ルシエラがね、必死な姿が」


「いえ、その前です。るるちゃんとルシエラちゃんとアリサが、何をしてると?」


「ダンス」


「「「「「「「「………………」」」」」」」」


「?」



 ダンス。あるよね?この世界。あ、ワルツやら舞踏会で踊るようなのじゃないよ。アレだよ、アレ。よく街で普通に皆、踊ったりしてるじゃん、お祭りとかちょっとお酒入ったりした時とか気分が乗った時とか。私、何か変な事言ってる?


 この頃はるるは学院の外へ出て我が家へも遊びに来るようになっていた。勿論ヴィクトル先生の許可は得ている。まあ、ダイエットの一環に、よく歩き回らせただけなのだが。

 るるは私の自慢の弟妹にもよく懐いた。というか、うちの町内によく馴染んだ。因みに町内には"魔法鳥、餌やり厳禁"という回覧が自警団から回っている。

 そして更に私は効果的なダイエットをるるの為に編み出していた。


 じゃじゃ〜ん。

 歌って踊って楽しくダイエット〜。無敵じゃない?


 きっかけはるるを交えて遊んでいる時に、ルシエラと私が悪ノリして熱唱し出したのが始まりだった。

 そこからいつもの"家族カラ○ケ(ほぼアカペラ。打楽器系と合いの手には事欠かない)"の盛り上がりを見せ出した所、るるがこれまたノリノリで飛び回り出したのだ。

 それがいつしか息の合った動きとなり、そこへ来て…


「え!? 今、なんて? るるちゃんの、歌!?」


「一体何処からそんな…」



 私の大して何も詰まっていない頭から…かな?自分で思って凹むとか。笑える。

 ああ、でもどうしよう。ちょっとお喋りが過ぎたかもしれない。だってほら、今目の前の級友達の瞳はキラキラと輝き出し、頬は盛り上がりを見せ、周囲の空気をなんとも言えない期待感で高まらせている。


「そ、それは、私達は見ることは叶わないのでしょうか?」


「そうです!私達も見てみたいです。お宅へはお邪魔でしょうから、是非この場で…!」



 えぇぇ、今!?此処で!!?

 そんな頬染めたって、ルシエラいないよ?私しかいないよ!?

 私はつい今し方の迂闊な自分を呪った。いや、でもあれは仕方ない。幾度もする内に家族ご近所皆で盛り上がって楽しんだし、お父さんなんて目尻が下がりっぱなしだった。ルシエラの婚期は間違いなく遅れるだろう。うん。

 おばさんはこんな良いものは見せてやらなきゃと、茶飲み友達のおばあちゃんを呼びに行き、ヤールカさんがおばあちゃんを負ぶって走ってきたんだよね。借り物競走か。


 それにしても、しかし。この皆の逼迫した且つ懇願する目付き。

 これは…やはり…一肌脱ぎますか!



 私は「じゃあ、ちょっと恥ずかしいけど〜」などと言いながら、心は裏腹だった。やるからにはビシッと決めてやる。私はやる時にはやる子なんだ。


「るる!」と呼ぶと、私の意を察したるるが皆の前に立った私の横にふんすと並ぶ。

 手は腰に、足は軽く開いて、踵でリズムを刻む。


 1、 2、 3、 はいっ!











 ラスト、決めのポーズを手を銃の形に組んで振り向き様に皆に向けて放つ。ウィンクも忘れずにっと。


 この世界、まだ銃は無いようだけど、似た形の魔道武器はあるらしい。


 歌いながら踊り終わり、やり切った感満載のるると私が見渡すと、先程まで熱心に観ていた筈の皆が何故か顔を手で覆ったりその場で蹲ったりしてた。やだ、皆付き合い良いんだからん。関西人か。



「ドキューンッて…く、苦しい」


「グフッ、む、無理…」


 小さく「反則…」って呟きも聞こえた気がしたけど、なんで?ダンスになんかルールがあったっけ。


 それはそうと、もういい時間になっているようだ。陽が大分突き刺さるし、影も長い。帰って夕飯の手伝いしなくっちゃ。


「あら、随分遅くなっちゃったみたいね。私はそろそろ帰りますね。皆さんさようなら」


 挨拶を終えて、皆より一足早く門へと向かった。令嬢達は馬車の支度とか待たなくてはいけないからね。



 立ち去る時に、重い物が落ちた様なドスンッて音や、茂みからガサガサバキボキッて音があちこちからしてたけど、何の音だろう?今日は植樹伐採の日?



 それにしても、今日はいい汗かいたわー。

 ね!るる!





 翌日。


 登校し、教室に入ってしばらくすると、何となくいつもと違和感を感じた。何だろうと不思議に思い、辺りを見回すと、ユーリク君達数名の男子が目が合うなり凄い勢いで顔を逸らし、何処となく挙動不審の動きをしている事に気がついた。どうしたんだろう?考えてみるけど私にこれと言って心当たりはない。クラスの女子に聞いてみると、「気のせいよ」と微笑まれたけれど、その後男子を凄い顔で睨んでた。ケンカでもしたのかな?


 そう言えば今朝のヴィクトル先生も変だった。髪を結う手つきがいつもよりもたもたしていたし、何より薄ら顔が紅かった。あれは熱があるんじゃないかな、きっと。

 仕方ないなぁ。後で様子を見に行ってやるか。何なら保健室にも付き合ってあげよう。天使だな、私。





お読みいただきありがとうございました。

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