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出遅れたヒロイン  作者: ナツキカロ
本編
12/20

じゅう

 



 後日、この日の事件の全容が解明された。


 犯人はとある宗教団体の一味で、その宗教団体とは光の輝神(てるかみ)と彼らが呼ぶ神様を崇め奉るとても古くて、けれど殆ど知られていない少数派の宗教らしい。彼らはずっと彼らの唯一の神様ー光の輝神様ーがこの地に降臨するとして光の輝神様を探していた。そして手に入れた手掛かりから先日学院の発表会で遂に彼らの光の輝神様を見つけた。しかも嬉しいおまけ付きで。

 その後誘拐(彼らはおわすべき所へお連れすると主張)を計画して機会を伺い実行したのだ。盲信、狂信、恐るべし。


 そう、おまけーーつまりお世話係である私を確保し、準備万端、光の輝神様ーーるるを他国にある彼らの本陣へお迎えしようと。

 なんてこったい、本命はるるで、私はおまけで拐われたのだ。道理であの待遇の差にも納得がいく。


 るるは希少種の魔法鳥の中でも幻と言われる程貴重な鳥で、彼らは大昔からこの魔法鳥を神として祀ってきた。そして彼らに伝わる教典にはこの魔法鳥ーー光の輝神様には常に光属性の魔力を持つ人物が側仕えとして仕えるものらしい。その役目は彼らにもよく分かっておらず、とにかくそういうものだの一点張り。そんな理由で誘拐されたなんて、私、納得いかないよ。


 犯人達は全員捕まり、これで事件は解決となった。こんなに貴重な鳥であるにも関わらずるるはこれまで通りにヴィクトル先生が学院で飼っている。そしてるるは相変わらず私の膝の上な訳で……。





 るるの大きさは元に戻ったままだ。

 ヴィクトル先生の推測によると、るるの成長にはやはり私の光属性の魔力が深く関わっていて、今回一瞬るるが大きくなったのはこれまで私の魔力を取り込み続けて成長したからではないかと。あの眠り倒していたのは体内に溜まった魔力が体を変化させる前兆だったのではないかというのだ。

 では何故また小さくなったのか。大きさが自在になるのか、あれが一時的な姿で、緊急事態故にああなったのか、また魔力を使う時には大きくなるのかは、今後の研究の課題のようだ。



 それよりも………



 私は本日、あの事件以来訪れていなかった魔法科主任ヴィクトル先生の教務室にやって来た。

 来たくて来たのでは決して無い。是非にと請われて仕方無しに来てあげたのだ。



 つーーん、つーーん。



 私の目の前の机には可愛らしいギンガムチェックのテーブルクロスが敷かれ、その上には三段のケーキスタンドと白地に愛らしい小花柄のティーセットが載っている。

 ケーキスタンドのお皿には上から順に小さな焼き菓子にナッツ入りクッキー、オレンジピールの砂糖漬け、プチスコーンとフルーツタルトとクリームで飾られたケーキ、一番下は三種類のフィンガーサンドウィッチだ。

 蝶の飾りの付いたボンボンボウルには色とりどりのゼリーキャンディ、ガラスの小皿にはスコーン用のクロテッドクリームと私の好きな木苺ジャムも用意されている。

 ほう、ほう、ほう。一輪挿しにお花まで飾って念入りですな。



 つーーん、つーーーん。




「ささ、アリサお嬢さ〜ん、どうぞ召し上がれ〜。美味しそうだよ〜」


 目の前には腰を折り曲げ私の顔を覗き込むようにして眉を下げ情け無さ半分に必死に笑顔で話しかけてくるヴィクトル先生。

 そんな様子を横ではるるが不思議そうな顔で眺めてる。

 顎を反らしそっぽを向いてつんつんポーズだった私はちろりとテーブルに視線をやる。

 カップの紅茶からはふくよかな香りが漂ってくる。お菓子からは甘く食欲を唆るいい匂い。


「ほら、紅茶が冷めないうちに、ど〜ぞ。ケーキは"ポワンロワン"の新作、焼き菓子とクッキーは"ココ・マダム"の期間限定のものだよ」


 何! "ポワンロワン"に"ココ・マダム"とな!? 何方も庶民には手の届かない、お貴族様でさえ予約しないと手に入らないという超人気菓子店ではないか!!ぐぬぬぬ…ひ、卑怯な!

 お菓子の宣伝に釣られた私の頬がピクンと反応する。それを見計らったように、ヴィクトル先生は焼き菓子を一つ摘んで目の前のお皿にのせた。


「………」


「さささ、遠慮せずにど〜ぞ」


 まるで何処ぞの営業の様に三日月目でニッコリ微笑みながら菓子を勧めてくる。

 私はフンッと小さく鼻を鳴らすとフォークで焼き菓子をグサリッと刺して口に運ぶ。…ああ、この鼻に抜ける風味がなんとも…素直に美味しい。仕方ないじゃない、お菓子に罪は無いもの。



「ケーキはどれがいいかな?お取りしましょうか、アリサお嬢さん。それともサンドウィッチがいいかな?」



 私が一口食べたのを機に、此処ぞとばかりに勧めてきた。



「甘いな」



「え、そーかな。じゃ、サンドウィッチなら…」



「ちっがーう!」



 私はフォークを握った手で机をダンッと叩く。



「甘い!お菓子で私が誤魔化されるとでも思ってるの!?」



 いや、実際少し誤魔化されかけだが! だが!



「ま、まぁ、落ち着いて」



 先生は両の掌を此方に向けて眉毛をハの字に下げる。



「勿論、思ってないよ。あの時は本当にすまなかった。君が怒るのも無理はないと思う。だからこれは俺からのささやかなお詫びの印だ。な?ほら、いい加減、機嫌直して」



「私は…!」



 私はヴィクトル先生に文句を言いかけて、後の言葉が続かなかった。あの時を思い出せばただ、ただ自分が恥ずかしい。

 黙り込んでしまった私にヴィクトル先生は小さく溜息を吐くと話し出した。



「本当にごめん。怖い思いをさせた上、川にまで落として。釈明させて貰うとあの時、お前の親父さんが駆け出すのが見えたから、咄嗟の判断でお前は親父さんに任せて俺はるるを助ける方にまわったんだ。勿論、るるを掴まえた後に魔法でお前を助けるつもりで…」



 ヴィクトル先生は私が川に落ちる寸前に間に合う筈が、思いがけない私からの助けを求める呼び声に魔法の発動が遅れたと言い訳した。



「まさかあそこでお前が俺に助けを求めるとはな」



 はは、と笑っているが、何がおかしい。



「だってそうだろう?お前の元カレだって傍にいたのに」



 誰がだ! テオは! 元でも! カレでも! ないー!!



「ま、お前もなんだかんだ言っても、俺を頼りにしてたって事だな。遅れたがちゃんと魔法で助けたぞ?水に呑まれずに済んだろ?」



 どうやら父が私を掴まえる前に感じた得体の知れない力は彼の魔法によるものらしい。ふーん。

 私は温くなった紅茶を一息で呷ると生クリームの載ったケーキに手を伸ばす。

 パクパクパクパク、ゴックン。

 その間にヴィクトル先生は無言で紅茶のお代りをカップに注いだ。次はスコーンを取る。

 パクパクパクパク、ゴックン。ゴクゴク、ゴックン。


 ポットの中で程よい温度になっていた二杯目を飲み干してカップを置くと、私は先生に告げた。


「分かりました。では私は先生に助けて頂いたという事ですね?この度は助けて頂いて誠にありがとうございました。幸い、怪我も無く、犯人も捕まったので、今回の事はこれで終わりという事で。私もきっぱりさっぱり忘れます」



「おいおい、そんな…」



「忘れます!この話はこれでお終い。いいですね?」



 私は射るような目をヴィクトル先生に向けた。先生はまだ何か話したそうに此方を伺っていたが、やがて諦めたようで、「分かった」と言った。



「それと、残ったお菓子は持ち帰らせて頂いても?」



 勿論、ヴィクトル先生に否やは無く、持ち帰ったお菓子とサンドウィッチは帰宅後我が家の皆で美味しく頂いた。何故か机に載っていた量より増えていた気がしなくもなかった。






 分かっている。先生は私を見捨てた訳じゃない。私だってあの時、るるを見捨てて私を助けて欲しかった訳でもない。ましてや裏切られたなどとは烏滸がましく…。

 ただあの時のヴィクトル先生の表情を私は覚えている。何と表現していいのか。驚きに見開いた目は私を真っ直ぐに見つめ、全ての動きが止まったあの瞬間。あれが胸に焼き付いて忘れられないのだ。

 いつからだろう。一体いつから私はこんな風にヴィクトル先生の事を頼りにしていたんだろう。こんな事って…。ダメダメダメ。だって、あれは決して信用してはいけないこの世で最低の舌先三寸男だ。




 こうして私はこの一件で、ミヨンちゃんとは別の意味で大人への階段を一つ上ったのだった。







お読みいただきありがとうございました。

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