はち
恥ずかし気もなくわんわんと泣いたあの日。私は自分をよく見つめ直す事となった。
今の私って何?私はどうして学院に通ってるの?私はこの先、どうしたいの、どうなりたいの…?
私が学院に通うと決めたのは、光属性の魔力を高め操作を覚え、出来る事ならゆくゆくは王宮で働く魔術師団に入団したいと考えていたからだ。だって魔術師団は魔法を生業とするなら業界ナンバーワンに位置するのだから。誰だって憧れるよね?
魔術師団のお仕事は、魔術の研究や調査の他、魔法を使う仕事の依頼先へ派遣されたり、騎士団の任務に同行したりと多岐に渡る。あ、魔術具っていうのも作ったりしてるけど、実際に物を作る作業は外注らしい。城内の部所だけど。授業で習ったの。
私は其処に入って、何をしたいかと云うと、やはり自分の魔力の研究だ。せっかく希少な光属性の魔力を備えているのに、私自身、この魔力で何が出来るのか正直言ってよく分かっていない。てか、光属性自体、あまり解明されて無いようだ。此れ迄も誰も何も教えてくれなかった。子供の頃は「学院で教えてくれるよ」と言われ、学院では「もう少し魔力操作が上達したら」と言われた。他の属性の子達は色んな事やれてるのにね。でも確かに私の魔力の操作は難しい。他の子と同じ様にしても同じにならない。真っ直ぐ飛ばした魔力の矢が私だけ曲がったり、皆で合わせた魔力の渦が私が入ると竜巻になったり。結構凹むよ。
その他にはね、これまでの文献や記録も見せて欲しいし、他の属性との比較ももっと細かくしてみたい。そうしたらきっと色々と分かると思うんだ。私は自分でそれを解明していきたい。
けれど魔術師団は超エリートだから、超優秀でないと採用されない。今の私の成績では正直言って微妙。でも、私には光属性の魔力って言う強みがある。魔術士団にだって興味がある人がいる筈だ。
とはいえ、あまりにポンコツでは目も当てらんないので、此処は一念発起して魔力操作の技を高めようではないか!
そう決意した私は朝に夕に、魔力操作の練習に明け暮れた。
そういえば最近、るるがあまり動かないけどどうしたのかな?何だか寝てばかりいるなぁ。
魔力の練習の時には起き出してキラキラを待ち構えているけど、それ以外は殆ど寝てる。どこか具合でも悪いのかな。
私はあれから自称学院一勤勉な生徒になり、熱心に魔法を学んだ。どれくらい熱心かと言うと、先生方が質問攻めしたりしつこく指導を請う私と目が合うのを避ける位だ。あのヴィクトル先生ですら、私を見かけると気が付かなかったフリをして道を変えようとする。失礼な。
今日も今日とて、私は朝から中庭で自主練に励む。
この中庭はヴィクトル先生の教務室から見渡す事が出来る為、魔力操作の自主練は此処でするようにと言われている。
「お前は無茶しそうだからな」
と言われたが、そうお?そんな事しないよ?
最近少しずつ操作出来るようになった気がするんだ。あとちょっと、後もう少しでコツが掴めそうな気がする。
「ん、ん、ん、んーー、」
掌を胸の前で向かい合わせにして、身の内を流れる魔力を感じながら胸の前で大きな魔力の渦を練り上げようと、私の眉間には徐々に皺が寄ってきた。
もう少し、あとちょっと。焦らずに、ゆっくりとバランスを保って…。
リーーン、ゴーーーン。リーーン、ゴーーーン。
はぁ〜〜〜。鐘の音と共に私の掌の間から魔力が霧散して消えていく。この鐘は始業の予鈴だ。もう教室に行かなくてはいけない。
あと少しで何か分かりそうだったのに。残念だったな。
私はそう思い乍ら、るると教室に向かった。
放課後、居残って練習をしてたら思いの外遅くなり、ヴィクトル先生に自主練の終わりを告げて慌てて帰る。学院内に他の生徒はもうほぼ居ないようだ。私、最後?
門前でるるに見送られ、いつものように手を振ろうとした時、横から大きな影に覆い被さられ、顔を布で塞がれる。最後に目に映ったのはるるがびっくりした顔で翼を大きく広げた姿だった。その後私はそのまま意識を失った。
ガッタンッ!
急に身体に響いた衝撃に眠っていた私はぼんやりと意識が戻った。何だろう。何か…へん。ここは何処?
重い瞼を少し持ち上げると見えてきたのは木の床、何かの座面、そして…
るる? るるがいる… その前に棒。
るるの前には幾つかの黒い棒が見える。るるは私と目が合うやきゅるるるる〜と鳴いて羽をバタつかせ顔を棒と棒の間に突っ込んだ。…顔が挟まってるよ?るる。ふふ。
ああ、肩が痛い。私床の上に?手が…動かない。何で、な…ん…。
そうして私の意識は再び沈んでいった。
ユラユラ揺れる振動が徐々に私の意識を覚醒させた。遠くから人の声や物音が聞こえてくる。それらは段々はっきりと聞こえるようになり、私は自分が目が覚めた事が分かった。何処だろう、ここ。
薄目を開けてみると先程と同じ木の床が見えた。もう少し開けて見ると座席の上に檻が置かれ中にはるるがいるのが見えた。るるは檻の棒と棒の間に頭を突っ込んだまま、此方をじっと見つめていた。もしかしてあれからずっと?
「るる、ダメよ。型が付いちゃうよ。ハゲちゃうよ」
周りを見ても、誰もいない。と言うか狭い。どうやら私は手を身体ごと縛られて箱馬車の中の床に転がっているようだ。
どうにか起き上がって何が起こっているのか考える。確か学院から帰ろうとして門を出て何かに襲われて。きっとあの時変な薬でも使われて意識を失い、拐われたのだろう。るるは私と一緒に捕まったのか。ご丁寧な事だ。るるが一緒ならきっと私達が居なくなった事に少なくともヴィクトル先生は気が付いただろう。探してくれる筈だ。
我ながら冷静にそう考えると、不安や怖さも治まってきた。
それにしてもこの馬車さっきから止まってない?外から聞こえる水音はきっと街中を流れるアプテ川に違いない。良かった。誰か助けを呼べるかも。
けれど馬車の窓は内扉が固く閉じられ外の景色は見えない。扉の取手が回らないのは言わずもがなだ。何とか馬車が動き出す前に外に助けを呼べないだろうか。
「るる、何かいいアイデアない? るるだけでも逃げて助けを呼べたらいいのに」
しがない希望を言葉にしてみるも、返事はない。私は無駄と思いつつ檻の横に屈んで指で檻に触れてどうにかして開かないかと探ってみた。ほんとに無駄だった。うーん。
るるは自分の状況が分かっていないのだろう、時たま「くる、くるる」と小さく鳴きながら不思議そうに私を見ている。へぇ、るるってば、なんだか座り心地の良さそうなクッション敷いてるのね。ふっかふか。檻に入っているとはいえ、床に転がされていた私とではえらい待遇の差だ。
ん?と言う事はだ。最初からるるも一緒に拐うつもりだったの?
そんな事を考えていたら、るるが徐ろに羽を広げいきなりキラキラを撒き散らし始めた。キラキラはやがて室内に充満し、其れは扉の隙間から外へと流れていく。そこでるるは羽を折り畳み、ふかふかのクッションに蹲って目を閉じた。やっぱり体の調子が良くないのかな。最近のるるの様子を思い出して少し心配になる。
その時、床下からトントンと叩く音がした。
…? 気のせい?
トン、……トトトン、トン、
私は屈んでノック音を返した。
トン、トトン、トトン、トトン、
これは小さい頃、お父さんが私とテオに教えてくれた仲間同志の合図。お父さんは私達と一緒に遊びながら危険な目に遭ったらどうするかを教えてくれた。この銀髪と魔力のお陰でそれなりに色々あったもんね、私。
何か声がするかと床に耳を着けてみたが、何も聞こえなかった。でもきっと大丈夫。この馬車がまだ街中にいるなら周りは自警団の皆に囲まれている筈。もうすぐ助けて貰える。
私も足手纏いにならないよう、この縛られた縄を解こうと身体を捩ったり床に擦り付けたりしてみるが、意外に緩まない。困ったなぁ。
どうにかならないかと思案していると急に外が騒がしくなり、箱馬車も何かぶつかるような振動が何度か伝わる。私は床に座ったまま、慌ててバランスを取った。るるの入っている檻はどうやっているのか分からないが、上手く座面に固定されている様で転がったりしないで済んでいる。
その内前方に誰か飛び乗った様な気配がし、馬車が乱暴に動きだした。私は身体を座席と座席の間で突っ張らせて体勢を整えようとするが、上手くいかない。
馬車はぐんぐんとスピードを加速する。
キャア〜〜、誰か〜、助けて〜!
お読みいただきありがとうございました。




