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私が嫌いなもの……

ストックが溜まってきたので少し放出します。

この話の前に1話投稿しているのでよかったらそちらを先にお読みください。

目が覚めた。体がなんだか温かいなにかに包まれていた。安心できる良い匂いがした。

ぼんやりした頭の中でゆっくりと思考は巡っていく。

あれ……なんだかこの状況覚えがあるような……、

 「って、あぁ、将也だ……おはよう」

そりゃ覚えがあって当然だ。だって前回の目覚めと同じ状況なのだから。

 「えっと、どうして僕ってばこんな嬉し恥ずかしな状況にいるのでしょう?」

こんな状況を認識して寝起きの思考力が続くはずもなかった。それはもう、さながらジェットコースターのような加速度で脳は活性化する。

それでもこの状況はわからなかったのだ。

 「どうしてって、覚えてないのか?」

 「ん?」

不思議な事を言う将也、そう思った。

覚えてない? なんのことだろう? 記憶喪失の物語の冒頭みたいだ。

一応眠る前のことはちゃんと覚えているはずなんだけど。

 「ここは誰……? 私はどこ……?」

 「……」

将也が冷えた目をしている。ちょっと古すぎたようだ。

ちなみに、ここは僕の家で、僕は水波 鈴だと思われる。

そして、もちろん僕の人生でも恐らくこれ以上にない事件であるところの、僕が女の子になっちゃったって事もちゃんと覚えている。

 「えっと、覚えてる、はずなんだけど……」 

 「あれ、これ覚えて……いや、もしそうなら……教えないほうが……」

 「えっと……?」

おふざけをやめてちゃんと返事を返しても将也は難しそうな顔をするだけだった。

 「……ちょ、ちょと」

 「……」

とんとん、肩を叩いてみた。

 「お、おーい」

 「……」

耳元で声を出してみた。

 「ね、ねえ……ねえ」

 「……」

頭を叩いてみた。

 「う、うぅ……しょーや」

ちょっと声が滲んでしまった。


こうも反応が無いとどうしても不安になってしまうわけで。

たとえば僕が覚えていると思っている事が実は数年前の事、だったりとか。

いや、そもそも記憶自体が偽者で、とか。可能性はないわけではない、

 「ねえ……しょーや……。お、お願い、返事して。おねがい、だから……」

 「……、……っと。……ん? 鈴、どうし、た?……っ! やばい、やらかした! す、鈴。すまん、考え事しすぎた。だ、大丈夫、大丈夫だから。大丈夫、泣き止んでくれ、ほら、大丈夫だぞ」

どんどん弱気になっていく心。連動するように涙が溢れてきて……。

僕ってこんなに弱かったっけ……? もっと色々抑えて生きてきていた筈じゃなかったっけ? 将也の前でこんな醜態さらした事、そうは無いはずなんだけど。でも、なんでだろう。抑えられない……。ダメ……止まらない。

せめて顔、隠さないと……。そう思って頭を腕の中に隠そうとした瞬間、僕の頭上から声が聞こえた。僕の聞きたかった声だ。こんな恥ずかしい姿を曝してしまうほど聞きたかった声。

 「しょーや……。将也……」

将也の声が聞こえたんだからもう大丈夫。何時までも泣いていられない。

袖で目元をごしごしと擦り涙を拭う。 

 「う、よしょ……うん。大丈夫、泣いてない」

もう涙は出ていない。目元がちょっと赤いかもしれないけれど、すぐに直る筈……。

 「ねえ、将也、どうして僕を無視したりしたの? 僕将也の反応が無くて、不安だったよ……。ねえ、どうして?」

 「あ、いや……無視したわけでは」

言い訳しようとする将也……。その姿にちょっとだけカチンときた。

 「無視、したよね? したよね、将也? 言い訳、するの?」

 「いや、ちょっと……あの、考え事を……していまして……はい」

 「考え事? どんな? 僕何回も呼んだよ? 肩トントンってして、耳元で呼んで、頭だって叩いてみて……それでも無視したじゃん。ね、そうでしょ?」

だ、だめ……なんか感情が制御出来ない……。次から次へと将也を責める言葉が浮かんで、そのまま口から出てしまう。

 「だいたいさ、将也は僕の気も知らないで。好き勝手に優しくして。ほん本当に優しくして……僕が男の子だって、わかってないのかな……。誰のせいで、誰のせいで……。苦しかった……苦しかったんだよ」

唐突に話題が変わって、なんだか責める対象がおかしくなっていく。

ちょ、ちょっと待って。僕は何を言おうとしている? ちょっと、待ちなさ、

 「こんなに、好きにならなければ、好きに……」

これ、本当に待って、だめ言っちゃダメ。口閉じなきゃ、早く。

本当に取り返しのつかないことに……、

 「どうして僕がこんなに苦しい思いをしなくちゃいけないの? 僕が何をしたって言うの? こんなのもう嫌だよ」

 「鈴……」

 「僕を、僕を苦しめるものは全部きらい! しょうやも大嫌い!」

言っちゃた……。こんな思ってもいないこと……。

ううん、ごめんなさい。きっと本心だね。僕って本当に弱いから。苦しみに耐えられないくらい、弱いから。僕に苦しみを与える存在はきっと皆大嫌いなんだ……。

それに、もうこんな事言ったら取り返しつかないよね……。

 

 「(取り返し、ね……。もう、仕方ないわね)」 

どこかから、声が聞こえる……。もう、どうでも、いいけど……。

意識が暗闇に、引きずりこまれて……。僕が弱いから……何度でも意識は闇の中に……。

何度こんな事を続ける気なんだろう……。


 「(引き受けるわ。私に、任せなさい)」

 

 




次回、うふふ、味方だと思った?(予定)

次回もお待ちしています。

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