名探偵鈴ちゃん爆誕
「きゅうけー終わりー」
「おう。おつかれ。相変わらず鈴の入れる紅茶は旨いな」
「むふふ。でしょ? 紅茶、コーヒー、ノンアルカクテル、ドリンクの事なら何でもオールオッケーの鈴ちゃんですから」
ドリンクは僕の数少ない趣味の一つ。将也は紅茶を褒めてくれるけど、僕が一番得意なのって紅茶じゃなくてコーヒーなんだよね。
お豆は家から自転車で30分の場所にある行きつけのコーヒー専門店でマスターと長い長いコーヒー討論の末購入してくる。マスター&僕が自信をもって出せる一品、それをペーパードリップで丁寧に入れるんだ。いつか将也にも飲んで欲しいんだけど、この人コーヒー飲めないからなぁ……。まあ、望み薄かな。
「とと、大事な事を良い忘れていたよ。僕、アルコールはまだ何にも覚えてないよ。本当だからね。わざとらしいフォローじゃないからね」
「突然何を言い出すんだよ。当たり前だ。逆に怪しくなってくるからやめとけ」
「はーい。……くぷくぷ……」
若干温くなったコーヒーを一気に飲み干し、よいしょっって立ち上がると将也の隣から前へと移動する
「じゃあ、一段落付いたという事で、続きをお願いします」
「お、おう。いいけどお前から話を本筋に戻すなんて珍しいな」
おと、これは本気で驚いている顔ですね。まあ基本的に話を脱線させる犯人って僕だから仕方ないけどね。
ちなみに脱線させるだけさせて元の位置が分からなくなったりってことがよくあったりもする……。
「えっとね。コーヒ飲み終わったらなんだか色々なことが気になってきちゃって。なんかいろいろ知ってそうな様子の将也に諸々説明して欲しいかなって思ったわけです」
「ま、まあちょうど良いか。いろいろ説明しなくちゃいけない事が沢山あるのは確かだからな」
「じゃあ、状況説明行ってみましょう。どうぞ」
321キュー、なんちゃって。
「えっと、先ずは僕がどうして女の子になっているのか、だよね。やっぱり将也は原因を知ってるんだよね?」
「まあ、知っている、っていうか知っている人から聞いているっていうか。そういう感じだけどな」
「なるほど、僕をこんなにした犯人に会ったって事だね?」
「そうなるな。これは数時間ことだった……俺は家でぐっすりと寝ていたんだがな」
と回想に入り始める将也、何時もの僕ならこのまま話を聞いて、さらにあっちこっちへ話を脱線させたりするんだけど……、
「すとっーっぷ! 回想ストップだよ将也。なんとなく分かったから、答え合せだけで大丈夫です。あなたに回想やらせると絶対長くなるから」
「お、おお、おおう」
「さて、将也の家に僕を女の子に変えた犯人が来たことから始まるんだよね。そして、その犯人とは……あなたです!}
ピシィ。
そう言って僕が指を刺したのは天井、ではなくそのもっと上。
街行く人にそれはどこにいる? と問うときっとほとんどの人がそこを指を指すだろう場所。
「つまり犯人は憎むべきあんにゃろう、神、その人です!」
「な、なんだと……正解だ」
どうやら僕の推理は正解したらしい。推理と言うほど何かを考えたわけでは無いけれどね。なんか頭に浮かんだから言ってみただけ。
「ふふふ、簡単な推理です。そしてそうですね。目的はおそらく……」
「……ごくり」
一瞬の静寂が作られた空間に将也の息を呑む音が良く響く。
目的、それはおそらく、
「まだ、明かされていない。まさに神のみぞ、そうですね?」
「そ、その通りです。探偵さん」
あ、将也も楽しくなってきたみたいだね。じゃあ続けるよ。
「まあ、それはいずれアレの口から開かされることでしょう。こればかりは私達が考えても詮無きこと、というやつです。答えを出そうとしても無駄です。先に進みましょう」
さて、次に考えるべき事は何でしょうか……。
そうですね、神、で女の子、でもって、能力、で……うむ……なるほど。
「そうですね、次は貴方のことについて解き明かしていきましょうか。将也君」
「な、なんのことです探偵さん? 俺がこの事件の犯人だと疑っているのですか? 犯人は先ほど貴女が言い当てたではありませんか」
「いやいや、貴方の謎のことですよ。それとも、貴方の能力について、と言ったほうが良いですか?」
「んなっ」
まさか将也まで巻き込まれていたとは驚きだった。
恐らくこのタイミング、僕と無関係ではないだろう。
「何を驚いているんです。驚くような事でも無いでしょう。貴方が先ほど自白したではないですか。あんなの僕が余程の馬鹿では無い限り気付きますよ。こんなのは推理ですらありません」
そう、休憩に入る前、よくは覚えていないけれど将也はなんか盛大に自白していたのだ。
「まあ流石にどんな能力をどれだけ持っているか、そこまでは分かりません。ですが一つだけ確かな事、それは貴方が人を回復させる能力をもっている事です」
「な、なぜ……まさか覚えて……?」
「いえ、僕がやったこと、正確に覚えているわけではありません。ですが、証拠が一つだけありました。勉強机の脚、よく見てください。何か気付く事はありませんか?」
そう、僕は未遂ではなかった、間違いなくやっていたのだ。証拠は……、
「ま、まさか拭き残しが? いや、そんなばかな……っは!」
あ、あれ? なんか犯人が誘導尋問に引っかかって自白したみたいになっちゃった?
「い、いやいや、違うよ? あ、じゃなかった。違いますよ。決して貴方の自白が欲しかったわけではありません。よく見てください。僕の部屋の床は少しだけ高くなっている部分があるんです」
僕の部屋の勉強机は壁にあわせて置かれている。そして僕の部屋はその壁から数センチだけ何故だかフローリングが少しだけ高くなっているのだ。
「つまり僕の部屋の勉強机は前の部分だけ少し浮いているんですよ」
「ま、まさか……はっ!」
将也は勉強机を少しどかした。すると出てきたのは……。
「そう、それが何よりの証拠です。フローリングの溝まで綺麗にした貴方にしてはお粗末でしたね。その血の痕が何よりの証拠です」
「た、探偵さん……そうです。俺がやりました……俺が鈴の傷を直したんです」
こうして将也が僕の傷を直した事が発覚し……、あれ? いや、ちょっとまって。おかしくない? どうして僕こんな人事みたいに言ってるの?
死にそうな僕の傷を治して、心配させまいと血の痕まで消した将也にお粗末でしたねって、そんな……言って良いことじゃないよね……。
急に頭から血の気が引いていく。
「ぼ、僕……ごめんなさい。な、なんか変になってて、それで……ごめんなさい。謝って許される事じゃないけれど」
僕、なんであんなこと……?
なんだか、すごく頭が冴えたように錯覚して……それで……。
「え、な、なにが? どうしたんだよ鈴? な、泣くなって? 大丈夫だから。あんなの何時もの遊びじゃんか。俺は楽しかったよ。だから気にすんなって。ほらほら、泣き止め、ほら」
しゃがみこむ僕の頭に将也の手がのっかり、さわさわとその手がゆっくりと動く。気持ちが良くて、蕩けてしまいそうな感覚。
「え、ふぁあ。あ、しょう、や。なで、えっと。んっ」
あ、だめ、なんだか眠たく、だめ。
あ、瞼が、落ちる、なんか頭が疲れて……。
「ごめ……さい。お……すみ」
次回、私の嫌いなもの(予定)
次回もお待ちしてます。