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日本きりとってみた  作者: 香野 柚彦
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第1話

新しい国ができた。俺の隣で困り顔であれこれ呪文を唱えている女神に頼んで、創ってもらったーーいや『切り取ってもらった』というべきか。

事の顛末は数時間前にさかのぼる。


俺が自室で大学の政治学のレポートを書いているとき、突如部屋中に光が満ち、鳥の羽のようなものが舞った。驚いて振り向くと、少女がそこに立っていた。


「・・・はじめまして」


品の良い微笑みを浮かべて彼女はそう口にする。あっけに取られた俺に対し、彼女は淡々と語り始めた。自分が天から遣わされた女神であること、鬱屈した気持ちが強い人間が選ばれ、その者の願いを何でも叶えてくれること、など。


「で、かくかくしかじかであなた、マサキ様が選ばれたわけです」


その愛らしい見た目につい話を聞いてしまったが、その後俺はようやくこの女を新手の詐欺を持ちかけに来た不法侵入者と断定した。彼女の話の矛盾をことごとく突いて追い返そうと思ったのだが・・・自分が疑われていると察した女神は様々な超常的能力を披露した。何だこれは、手品では到底説明がつかない。仮装グッズと思しき羽根を引っ張ってもみたが、彼女は痛がり羽根で俺をひっぱたいた。


「えと・・・じゃあ今までの話、全部マジってこと?」

「ぜえ、ぜえ・・・マジです。あいたた・・・女神の羽根を引っ張るなんて、なんてバチ当たりな」


疑う余地の無くなってしまった俺は途方に暮れてしまう。何でも願いを叶える、唐突にそう言われても・・・どうしたものか。


「で、どんな世界に転生します?職業は勇者がオススメですが、向こうの世界でいつでもジョブチェンジできますよ。パートナーはどんな女の子が好みですか?最初からハーレムにもできますが、初めからだとちょっとやりがいが無くなってしまうので、冒険を進めるごとにだんだんパーティーが増えていく設定の方がゲームバランス的にも・・・」


こちらの願いを何も言わないうちにやたらと具体的な異世界転生プランをまくし立てる女神。待て待て、そうじゃない――彼女の話を静止し、俺は一つの願いを答えた。


「国を・・・創りたいんだ」

「ああ、転生先で国王を目指したいんですね?もちろんできますよ。サクッといきたいなら王子様になるのがオススメです。平民からのスタートもできますがだいぶ難易度が高くて、政治に具体的な着手ができるようになる頃には寿命の心配が・・・」


だから異世界から頭を離せっての。俺は彼女に舞台はあくまでこの次元のこの時代にしたいこと、日本の都道府県の一つを独立国家にしたいことを伝えた。


「あー、ローファンタジーがお好みなんですね。で、テロリズムに憧れてると・・・うんうん」

「人聞きの悪い事を言うな。革命だよ革命」

「あっごめんなさい、別にマサキ様を非難してるわけじゃないですよ。以前担当した人間さんの願いの中には”転生先で魔王になんて人間全員を奴隷にしたい”なんてのもありましたから、これくらいささやかで可愛い方ですよ。ええ」


どっちにしろ失礼なことを言われてる気がするが、とりあえずそれは脇に置いておく。


「しかしこの現代日本みたいな発展しきって規制でがんじがらめな社会でコトを構えたいなんて、マサキ様は物好きですね。アメリカの人間さんなんかはゾンビとかによって文明崩壊なんていうのが好きな方々が多いですけど、やっぱり大抵の人は複雑になりすぎた世界をリセットしたいって願いを持ってるケースがほとんどですよ」

「あー、その気持ちもわからなくはないんだが・・・現代でもけっこう色々面白い出来事が起こってるんだよ。」


俺は発達したインターネットやブロックチェーン技術、人工知能などについてざっくり話し、自分がそうした新しい技術や概念の出現に対し人々の意識が追いついていないことを不満に思っていることなどを打ち明けた。


「あー・・・私より上位の神であるおじさま方が、嬉々としてそういう話をしながら外界を眺めてるのを時々目にします。ただ私が得意なのはハイファンタジーなので、その辺のことはちょっと・・・」

「いや、君自身がそういう技術に詳しい必要はないんだよ。大まかなお膳立てさえしてくれれば、後は俺が自分でやるからさ」

「・・・それもそうですね。で、先程都道府県の一つを独立させたいとおっしゃってましたが、どこがいいですか?」

「そうだな・・・徒串馬がいいかな。籐京以外だと、あそこはかなりIT技術が普及してるから」

「なるほどなるほど。それで、どんなふうにスタートします?」


うーん・・・まず俺が社会に絶大な影響力を持つ実業家にでもなって、SNSとかで徒串馬の日本独立論をぶち上げて、政治家たちと喧々諤々な論争を経て・・・などとぶつぶつ言っていると、女神がげんなりしたような表情をしていた。


「あの、マサキ様・・・そんなかったるいプロセスから始めるおつもりですか・・・?」

「いや、それくらいしか思いつかないというか・・・もっと手っ取り早くやる方法でもあるの?」


ございます!と女神は豊満な胸を叩くと、何やらサンスクリットと思しき呪文を唱え始めた。あの、なんか宗教が違くないですか女神様。

彼女の前に光が灯り、白い不定形の物が現れてきた。


「これは魔法の粘土です。これでいろんなクリーチャーを創り出すことができます。そうですね・・・マサキ様に特にご希望がなければ、手始めに青龍、朱雀、白虎、玄武などはどうでしょう?」


待て、この女、何をする気だ。


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