1話 こんな世界の片隅で
春。
桜の舞った町の空にはまだ平和は訪れてはいなかった。
並木通りを自転車で駆け抜けていく学生や、まだ幼い赤ちゃんを大事に抱いた母親。
一見、ただそれだけを見てみれば平和そのものである。
"それだけ"を除けば、世界はどうなっているのだろうか。
だが、そんなものは存在しないしオカルト集団達がただテレビの中で騒いでいるだけだ。
そうやって周りがいっている先のテレビに写っているのは首が二つの巨大な狼。
現代社会は技術の進歩であらゆる合成写真や捏造写真を作ることが容易になってきた。
そんな中で、
「ん?なんだあれ…」
一人の男が指を指した。
そう、今自分達が鼻で笑い、嘲笑っていたのが本当に存在したらの話である。
例えば今日”それ”が人類の敵だとしたら。
例えば今日”それ”が世界各地で生息していたとしたら。
それは…
この世界が終わりに近づいている証拠ではないか。
*
2100年。
世界は混沌に満ちていた。
突然現れた謎の生物。邪神による被害は瞬く間に広がっていった。
科学者からは「増えすぎた人類を減らす為の神の使いだ」などと言っているが、神は人類の敵では無かったようだ。
最初に言えるのは、どこからか流れて来た超高等技術の数々だ。
その一つが、魔法の存在である。
アニメや漫画の世界であったはずのものは今や人類の8割が持っている物とされている。
もう一つが、人間の身体強化である。
魔法の技術を産み出してすぐに、人間には隠された能力があると発表された。
その能力は特殊因子と名付けられ、その能力で邪神に対抗して来たのだ。
中でも邪神をいち早く抹殺し、世界から窮地を救った英雄達がいたのだった。
彼らの名はーーーーー
「起きんかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」
目の前から勢いよく起こされ、椅子ごと転倒。
瞬間、その場から笑いが飛び交った。
まだ事態が把握出来てないのはどうやら自分だけのようだ。
と、いきなり頭に衝撃が走った。
涙目になりながら上を見上げるとそこには怒りで顔を赤くした教師が立っているのだった。
「貴様、一体いつになったら授業を聞く気になるんだ?ああん?」
「痛っ…体罰ですよ先生」
「あ?今なんつった戦!」
説明しよう。
全く反省してないこの青少年の名は里山戦。
この世界の主人公である。
その容貌は超絶イケメン、性格イケメン、モテモテ男子!
これほどまでに恵まれた人間はこの俺を除いて1人といるのだろうか。
否。
いるはずがない!
なぜなら俺はこの世の頂点に君臨する者だからだ!
「ふっ」
教師に胸ぐらを掴まれて怒鳴られているのも関わらず、涙を流しながら謎の笑みをこぼしているこの気持ち悪い青年はどうやら自分が神かなにかと勘違いしているものすごくヤバい奴である。
「先生、そろそろ授業の続きを」
「だからお前は!……はぁ…了解した」
突然離した手から滑り落ちた戦はなぜか誇らしげな顔をして教師を見つめた。
目の隅に溜まった涙を袖口で拭うと、しゃくりながら。
「ぐす…口ほどにも無かったな」
「「「お前がな」」」
そうして今日の1日は半分を過ぎたのだった。
*
「おお!なるほど、分かりやすいな。さすがは俺の戦友だ」
「俺はいつから戦友になったんだよ」
昼休み。
戦の宿題を手伝っているのは月谷雄志郎。
成績優秀、スポーツ万能、イケメン、モテモテ。
用はカリスマ性のある人間である。
なぜこんなカリスマ人間が変人に宿題を教えているのかと言うと、それはただ単に幼なじみという点だけである。
彼のような天才には本当は結ばれるべき恋人と昼休みを共にするのが現実だろうが、そうは行かないのだ。
理由は簡単である。
この変人がそうさせてくれないのだ。
「世界がお前を求めている!」から始まり、やがては「宿題教えてくださあああああい」に変わる。
こんな会話を毎日生徒が大勢いる前でやっているのだ。
そして等の本人にそれを話し、帰って来た言葉といえば。
「え?まじかよそいつサイテーじゃん!我が聖なる剣で罰してくれる!!」
いや、本気で殺そうと思ったわ。