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アルラウネの憂鬱  作者: 優衣羽
19/43

ep.3.4


「先程、堤大尉が別隊に呼ばれたみたいなので伝えておいてほしいと言われました」


「そうか、羽衣…梅園少佐はいるか」


「梅園少佐なら医療テントの方に。うちの部隊が一番疲弊しているので、その様子を見に行って下さいました」


ああ、なるほど。確かにそうだ。私は隠す事も無く舌打ちをした。

直属の上司が現場での一番偉い人間だと、自分直属の兵を使う事は少なく、自分の部下の部隊の兵を使うのは当たり前のことで。今回に限った事ではなくとも、腹が立つのは当たり前のことで。

そもそも、あの人にとっての自分の兵の中には自分達も入っている。若くしてこの位置に立つ私が憎いのか。それとも千歳が自分には振り向かなかったから、それの意趣返しか。


多分後半だろう。あの人は私が一番嫌がる方法を知っている。部下が大事だから、死なせたくないから。最小限に被害を抑える私の戦い方を知っているからこそ、私から部隊の指揮を出来ないようにして、自分が指揮を執り彼らを無残に扱うのだ。元々、私の部隊の人間は個々の戦闘能力が高いからこそ派手な損害はないものの、連日、医療テントはうちの部下でいっぱいだった。


酷く腹が立った。自分自身に。私のせいで彼らを巻き込んでいると言っても過言ではない。そうでなければ前線に出て、戦う事は無かったのだ。


「…何人死んだ」


「…うちの部隊では、西園寺様の部隊と共に特攻をしていた兵が全滅したと聞きました」


「全滅だと?」


私は驚いて彼の肩を掴む。木場は悔しそうに唇を噛むだけだった。


「はい、三千人、皆英霊になりました」


「そんなはずがないだろう、あいつらは強い。例え、全員で帰ってくる事は難しくても必ず生還出来るはずだ、何故」


「隊長…特攻爆弾です」



顔から血の気が失せていくのが分かった。木場が震えながら涙を流している。木場の肩を掴んでいたはずの手は、力が抜けて落ちていく。私はひたすら「おい、おい、待て」と戯言のように呟いていた。


「そんなの聞いていない。特攻爆弾はずっと前に禁止されたはずだ。あれは人道に反すると。禁止されたはずだろ」


「今回…、この地区を奪還するために西園寺様の部隊五百人と、うちの兵士三千人が自らを爆弾にして死んでいきました。隊長、見ませんでしたか。二時間ほど前に、鳴りやまぬ爆撃の中で空が光ったのを」


絶句した。異形を倒して同胞を送った時だ。西の空が一瞬光って半径一キロ先に異形の姿が見えなくなった。それを見た後に、帰還命令が出たのだ。


特攻爆弾。戦争をしていればよくある話だ。兵士が爆弾を自らに着け、死の間際、それを発動させ敵を巻き沿いにする。しかし、異形との戦いでは、特攻爆弾を使い過ぎて兵士が少なくなった過去があるから数年前に禁止されたものだった。


それを、他でもない全隊一戦闘能力に優れたうちの部隊に使った。分かるだろう、これは無駄な行為だ。悪意しか感じられない行為だ。


普通なら、使えない兵士や先がない人間を使うのだ。それが作戦の度に貢献してきた、私の部隊の人間でやった。自隊の人間は五百人程度しか出さなかったのに。その五百人は何だ。どうせ使えないけれど、身分だけ高いから使い勝手が悪くて消し去りたかった人間だろう。


でも、こちらは違う。新人でも、弱いわけでも、使えないわけでもない。共に戦場を駆けて生き残ってきた仲間だ。私の仲間だ。それを、こんな所で使い捨てにするか。木っ端微塵にして、遺物さえ残らないように殺すか。彼らの家族に、私はもう何も届けられない。


泣き出す木場の肩を、今度は優しく数回叩く。


「報告ご苦労だった、木場。お前も早く休め。周りの事は気にしなくていい」


「隊長…すみません」


「謝るのは俺の方だ」


そして彼の隣を通り過ぎて、再び外へと歩き出す。向かう先は既に決まっていた。


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