~何かが蠢く~
7
とりあえず、プヨがいる限り俺は戦えば戦うほど凄まじい成長をするというのがよく分かった。
通常であれば経験値はモンスターを倒す事でしか手に入らないはずなんだが、これならキグナス達と対人戦の修業をするだけでどんどん強くなるってわけだ。
理屈は分からないけど、今まで呪いかってくらいにレベルが上がらなかったのが嘘みたいだ。
「ジェイク、プヨの覚えた新しい技を早速使ってみたらどうだ?」
「うん、そうだな。じゃあプヨ、ちょっとやってみてくれるか?」
「ぷよーっ!」
やる気満々のプヨがぷるぷると震えると羽のようなものがプヨから生えてちょっとびっくりした。プヨは感覚的に使い方が分かってるようで、パタパタと羽の部分を器用に動かす。
すると柔らかい風のようなものがふんわりと俺の顔に当たる。
「これは…風に回復の魔力が含まれてるようですわね。それに何だかいい匂いがしませんか?」
「本当だ、なんだろうこの匂い。爽やかなフルーツのような…」
「ううむ、これは良いものだ。癒されるのう」
回復するだけじゃなくていい匂いもする風か。まぁいい匂いが戦闘に役立つのかはよく分からないけどちょっと嬉しい。みんなも好意的にプヨを受け入れてくれたようで口々にプヨを褒めるとプヨは嬉しそうにその場でぴょんぴょん跳ねた。
「よし、プヨとジェイクなら何も問題なさそうだね。今週末は予定通りキャラビナにある地下ダンジョン"地獣の巣窟"に遠征に向かおう。」
「地獣の巣窟?」
「大陸最大の貿易都市キャラビナにあるダンジョンじゃのう。キャラビナでは毎年初夏に大規模な蚤の市を開催しておるんだが、何年か前に地獣の巣窟からモンスターが大量発生して大混乱になったらしくてな、それから定期的に冒険者によるモンスターの間引きが行われてるんじゃ。だが今年は冒険者の数が例年より少なく、人手が足りないそうなんじゃ。あいにく他のギルドから冒険者を回す段取りも上手くいかなかったとかでな。」
「そこで冒険者養成学校に冒険者派遣の依頼があり、私たちのパーティがそれを受けたわけですわね。」
「へぇ、そういえばキャラビナ蚤の市って聞いたことあるよ。俺のいた村とは王都を挟んで反対側だったから行ったことないんだよな。」
「ジェイク殿、キャラビナはいいぞ!飯はうまいし蚤の市では滅多にお目に掛からぬ掘り出し物もよくある!」
掘り出し物かぁ、俺の装備って普通の革の胸当てくらいだから他の防具とか特殊なアイテムが欲しいな!
プヨが武器になってくれるから、今まで持ってた剣とか余っちゃってるしこの際思いきって売って買い換えようかなぁ。
「この依頼はキャラビナがかなり力を入れてる事業だからね、移動費用だとかそういった必要経費もキャラビナの冒険者ギルドから支給されるんだ。」
えっ、必要経費もキャラビナ持ちなの?おお、なんだかキャラビナ遠征が楽しみになってきたぞ!プヨにも珍しいドロップアイテムとか食べさせてどんどん新技を覚えさせたいしな。
「……っと、そういやマリアずいぶんと遅くないか?」
「む?マリア殿は今日は別パーティのクエストに助っ人として同行するそうじゃ。今日は部室には来ないだろうのう。」
「助っ人?そういうのってアリなのか?」
「ああ、Bクラス以上の生徒は希望するなら助っ人の依頼を受ける事が出来るんだ。僕はやったことないけど、かなり割りのいいバイトだって聞くね」
へぇ、助っ人のバイトか……俺はこの前までFクラスで受けられるクエストが薬草採取くらいしかなかったからそういう仕組みについては細かく知らないんだよな。今後はそういう割りのいいバイトに挑戦してみるのも面白いかもな!
結局その後も、他愛のない雑談や俺の知らなかった上位クラスの優遇制度なんかについて詳しく教えてもらって解散した。
色々とあったけど、こいつらとなら仲良くやっていけそうだな!
。。。。。詳細データノ転送ヲ開始シマス。第一級特務情報規約ニヨリ閲覧ハ担当者、及ビ現執行者ノミトナリマスノデ取扱イニ注意クダサイ。。。。。
ジェイク・マスターハンド
・優先度S+
・レベル39
・Alternative Factor
【AFノ因子ニヨリ急激ナ成長ヲ迎エツツアリマス。適切ナ処理ヲ行ッテクダサイ】
シリウス・ハインベルグ
・優先度A-
・レベル116
【適切ナ処理ノ障害トナル可能性ガアリマス。速ヤカニ適切ナ処理マタハ対象カラノ隔離ヲ行ッテクダサイ】
キグナス・ローレライ
・優先度A+
・レベル36
【AFトノ身体的ナ接触ヲ行ッテイル可能性ガアリマス。優先的ニ適切ナ処理ヲ行ッテクダサイ】
以下、接触率ノ高イ対象者ヲリストアップシマス。優先的ニ適切ナ処理ヲ行ッテクダサイ
ライオネル・バスターバイン B+
マリア・テレージュ B+
シンシア・アークサイド B-
。。。。。etc
全テハ 人類ノ 為ニ。。。。。
モニターのかすかな光だけが室内を照らす薄暗い空間で男は送られてきたデータを食い入るように見詰めていた。
やがてその全てを読み終えたのか、深い溜め息と共に腰掛けていた椅子に深くもたれ掛かり天を仰いだ。
「間違いない。AFの因子は確実に芽生えつつある。」
誰に言うともなく呟いた男の独り言に言葉を返す者もなく、呟きは闇へと消えていった。
「この時をどれ程待ち焦がれたか……次こそは逃がさんぞ」
この世の全てを恨むような苦々しげな表情を浮かべたかと思えば、一転して狂気に満ちた笑みを浮かべ男は薄暗い部屋で夢想する。今はまだ、この男の欲望が世にもたらす災禍を誰も知る事はなかった。