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~モンスターを手に入れたい~


俺の名はジェイク、ジェイク・マスターハンド。そう、あの偉大なモンスターテイマーの名を受け継いだ由緒正しいモンスターテイマーだ!



えっ?知らない!?


ウソだろ…マジかよ、ジェイク・マスターハンドだよ?あの万物の魔物を手足の如く操りしまいにはドラゴンをも従えたという……


知らない!?俺の村じゃ超有名な歴史的人物なんだぞ!え?どこの田舎だよって、カカリコ村だよ。


カカリコ村も知らない?うん、まぁカカリコ村は田舎だからそっちを知らないのはしょうがないけどさ、でもジェイク・マスターハンドは知ってるだろぉ?うっかりど忘れしてて思い出したけど言い出し辛いのかな?ん?


ほら、恥ずかしがらずに言ってごらん?


だから!超有名なモンスターテイマーだって!俺の村じゃ知らない奴なんていないぞ!?俺はその子孫としてジェイク・マスターハンドという名誉ある名とモンスターテイマーの才能を受け継いでるってわけだ!どうだ!ビビったか!


え?俺のモンスター?……まだいないけど。


あぁ!?田舎者が夢見るなって言ったの誰だ!コラァ!?

これだけ人数いて、一人も知らないなんてあるかよぉ!?





以上の内容は、俺が王都の冒険者養成学校に入学した初日、自己紹介で自信満々に披露した身の上話である。

俺はそれまで自分には英雄の血が流れてるし立派なご先祖様をもって誇らしいと心から思っていた。


なので「俺はこんなにスゲェんだぜ」と結構鼻高々に自慢するつもりで語ったのだ。

ところがどっこいクラスメイト数十人が揃いも揃って「なんの話してのんコイツ?ジェイク・マスターハンドってだれ?」って顔されてさ、ビックリするくらいみんなジェイク・マスターハンドという人物など知らないという。


そんなバカな、と俺は納得出来ずに必死に食い下がった。


だが、それが余計に他人から見ると滑稽に見えたらしく、俺は見事に入学初日にして"伝説のモンスターテイマー(笑)"とかいう、これまたビックリなアダ名をつけられてしまった。


おかしい、こんなはずではなかったのに。

今まで極普通の村人として平凡に暮らしていた俺の元に、素質のある十代を集めて冒険者養成学校を作るからあなたも来なさいって国からの手紙が来たのが1ヶ月前、俺はそれをまさしく運命だと思った。


これは間違いなく俺の伝説はじまったわー、だってあの有名なモンスターテイマー"ジェイク・マスターハンド"の名を継ぐ俺の物語だもんな!

こりゃ伝説が幕を開けたわ…歴史に俺の名前が刻まれたら、未来の学者とかにご先祖様と同一人物にされたりして議論されたりするかもしれん。おんなじ名前ってこういう時に困るんだよなぁどうしよーとか、入学前夜まで家族が呆れるくらいワクワクしてたのに……。



意気揚々と村を出発し、乗り合いの馬車に揺られること丸2日、ようやく辿り着いた王都でカカリコ村では見たことない人混みにキョロキョロしながらおのぼりさん丸出しで冒険者養成学校の門を叩いた。

入学式の後、採血して体質的な素質やら何やらを念入りに調査された結果、あなたにはモンスターテイマーの素質がありますねと田舎のカカリコ村では見たことないくらい垢抜けた白衣の美人なお姉さんが断言してくれた。


まぁそうだよね、ジェイク・マスターハンドの子孫だもん。

俺は期待した通りの結果に満足しつつそのお姉さんに、ところで魔物を仲間にするにはどうすればいいんでしょーかね?と聞いた。


残念ながらカカリコ村ではモンスターテイマーというものは寂れて久しく、具体的に真祖ジェイク・マスターハンドがどうやってモンスターを使役していたのか詳細は全く分からない。

少なくとも村の周辺に現れるモンスターを退治して仲間になりたそうにこちらを見つめてきた!なんていう話しは一度も聞いたことないわけで、俺としてはぜひその点について詳しく知りたかったのだ。


そして白衣のお姉さんは、少し言い辛そうに教えてくれた。

野生の魔物ってやつはすんごい危険で敵対心が強く、経験を積んだ冒険者が調教技術を習得し、何年もその技術を磨いた上でわずかに使役出来る可能性が少々あるくらいで、モンスターテイマーの素質があるからといって初心者がモンスターを使役するのは不可能である、と。

えっ、じゃ俺みたいな初心者はどうすればいいんですか!?と思わず詰め寄った俺をやんわりと引き離してお姉さんは話を続けた。


モンスターテイマーの素質を持つ初心者はそういった特殊な技術を持つ専門の冒険者が手に入れたモンスターのたまごを孵化させて産まれる前から人間に手懐ける所からスタートするんだそうだ。


なぁんだ、じゃそのモンスターのたまごを譲って貰えばいいんですね!と俺はにこやかに言ったがお姉さんは沈痛な面持ちで首を横に振った。そのモンスターのたまご、ひとつ1万Gはするらしい。

しかも何が生まれるか分からないので、スライムやゴブリンなど最弱と呼ばれるモンスターは戦力にならないので強いモンスターを使役したければ何度も買う必要がある、と。


ちなみに俺の全財産はカカリコ村で貯めたヘソクリ1050Gである。逆立ちしても一個たりとも買えやしない。


じ、じゃあとにかくお金を貯めるとこからですね!冒険者ってダンジョンに潜ったりクエストをこなすと大金が稼げるんですよね!?

俺は声が裏返りそうになるのを必死に抑えて言ったが、お姉さんはまたもや首を横に振る。

モンスターテイマーの素質とは、使役するモンスターを強くする能力はすごいが、その反動なのかテイマー自身の戦闘能力は極端に低くレベルも上がり辛い、なのでダンジョンに潜ったり危険なクエストを受けるのは絶対に辞めた方がいい、と。


そ、そうなんだぁ……ええと、じゃあどうすればいいんでしょう?



そんな俺の質問に白衣のお姉さんの回答はとてもシンプルだった


『なんとかしてください』



目の前が真っ暗になった気分だったが話しはそれだけでは終わらなかった。モンスターを用意出来ないなら戦闘能力なしという事でFクラスからのスタート、強くなるに従って上のクラスにいけます、と。

いやだから、どうやって強くなれってのよ。


これはあれか?俺の人生詰んだのか?いやまだだ。まだなんとかなる、たぶん。だって俺はあのジェイク・マスターハンドの子孫なのだから!


こうして予想外の事態を受け入れきれずに冒険者として見込みの薄い連中の寄せ集めであるFクラスに放り込まれたわけだ。

でも俺、あのジェイク・マスターハンドの子孫だよ?俺ってすごいよね?すごいんだよね?そんな最後の心の拠り所として自信満々に自己紹介をしたわけだが、最後の心の拠り所は簡単に木っ端微塵に砕け散った。クラスメイトからの「ジェイク・マスターハンドは痛々しい奴」という印象だけを残して。


呆然としたまま自己紹介の後にカリキュラムや学校の仕組みなんかの説明を受けて入学初日は終了した。解散の直前、Fクラスの担任というゴドン教官はこう告げた。


「はっきり言ってこのFクラスは冒険者としての素質に欠ける者たちが集められている。君らに、将来的に冒険者となる事を我々も期待はしていない。だが、冒険者とはその活動をサポートするギルドの職員などの助力が必要不可欠だ。諸君らにはこの学校で冒険者のいろはを学び、優秀なギルド職員として他の冒険者を支えてくれる事を期待したい。」


冒険者として活躍する気満々だった俺が心からポッキリとへし折られた瞬間だった。

住む場所だけは学校側が用意してくれたので呆然としつつフラフラと自分に割り当てられた寮へと向かう。もうね、入学初日からお先真っ暗ですよ。

あんなに自信満々で村を出発したのが嘘みたいに。


でも、学校が用意してくれたのは住まいのみなので当然生きていくにはお金が必要なわけで……生徒の多くは、生活費を稼ぐためにダンジョンに潜ったり、街の周辺に出没するモンスターなんかを討伐するクエストをこなして稼いでいる。

そんな学生冒険者達のためにクエストを斡旋する冒険者ギルドの受付窓口も学園の敷地内にあるのだ。


しかし、ダンジョンに潜るような高額報酬のクエストを行うには装備やアイテムなんかを整える元手の資金が必要だし、冒険者としての才能に溢れる者でなければ命の危険もある。

つまり俺のような戦闘の素質がないFクラスの人間には危険すぎる。となると、薬草採集とか危険度は低い代わりに全然稼ぎにならないお使いのようなショボいクエストで細々と稼ぐしかないのだ……。


それは俺に限らず戦闘能力のないFクラスの同級生にとっても同じであり、ならクエストを受けるより王都にある飲食店などのお店でバイトする方がよほど割りのいい稼ぎになるのだが、そうなるともはや冒険者学校に通いながらやる意味がない。

事実、Fクラスの半分近くが1ヶ月もしないうちに冒険者に見切りをつけ学校を辞めた。彼らにとって、それぞれ自分のいた田舎で働くより豊かですぐ仕事にありつける王都で一般人として暮らす方がよほど楽なのだ。


俺もいっそのこと冒険者学校なんて辞めてしまおうかとも思ったがどうしても諦められない。

子供の頃、母親に聞かされたジェイク・マスターハンドの英雄譚、ドラゴンの背に乗り颯爽と空を駆ける姿を何度も夢想した。いつか自分も、そんな風にベットの中でドキドキした子供の頃の夢が、どうしても諦められない。



そして俺は今日も薬草採集に向かう。

モンスターのたまごが落ちてないかなって毎回探してるけど、まぁ買うと1万Gもするものが簡単に見つかるわけなくてですね。

薬草採集のクエストは支給される布の袋いっぱいに集めなければならないので、割りと時間が掛かる。

それでいて達成報酬が20Gとかなのでほとんど生活費に消えて貯金は遅々として進まなくてですね。


薬草採集のバイトに追われレベル上げする時間も取れなくてですね、まぁつまるところ『これ詰んでね?』と思いつつ他に打開策もなく、現実から必死に目を逸らして薬草採集のバイトに明け暮れる学園生活があっという間に3ヶ月も続いてしまっていたわけです



今日も薬草採集のついでにスライムとかワイルドウルフとかをどうにか使役出来ないかと挑戦してみた。


「よーしよし、かわいいでちゅね~。スライムちゃん俺と一緒に冒険者やらない?」


ブシュウウゥゥウ!!


「いででで!てめぇ、いきなりなにすんじゃい!」


優しく近寄ったのにスライムは容赦なく溶解液(弱)をぶっかけてきた。

キレて護身用に田舎から持ってきた剣をぶん回して攻撃しようとするがスルリと避けてスライムは草むらに消えた。


「お!ワイルドウルフ!ほーら、お前らの大好きな鶏肉だぞ~?あ、逃げんな!ちくしょー食い逃げやろー!」


お次のターゲットに定めたワイルドウルフは肉だけ食べてさっさと逃げていった。

去り際にワイルドウルフがチラッとこっちみて『お前ごときに使役されるかバーカ』と見下された気がした。


この辺でスライムと最弱を争うワイルドウルフにバカにされるなんて……もう3ヶ月、何度挑戦してもモンスターは仲間になってくれない。

今日もダメか……俺は薬草採集のクエストをこなして受け取った僅かばかりの報酬を握り締めてトボトボと家路についた。

今日は溶解液の治療使ったポーションに鶏肉代もかかってるからマイナスにこそなってないけど、全く利益にならなかった。




「ジェイク!」


帰り道、突然かけられた声の方を向けば、俺と同じくカカルコ村からやって来たマリアがいた。

眩しく感じるくらいの金髪のくせ毛は間違いようもなくマリアだった。


彼女はカカリコ村にいた頃よりあか抜けてすっかり綺麗になった。

満ち足りている日々を過ごしてるんだろうなと少し嫉妬を感じつつも表情に出ないように気を付ける俺の心の内側を知らずに、マリアは昔と変わらない気さくさで話しかけてきた。


「モンスターのたまご、見つかった?」


「……いや、ねぇな。」


「そっか……もし見つけたらジェイクにすぐ言うね?きっと仲間のモンスターが出来ればいろいろ上手くいくよ、だから諦めないで頑張ってね?」


「ああ、ありがとよ。」



マリアは魔法剣士の素質を持っていた。カカリコ村に居たときは可愛い妹分だったが、入学してたった3ヶ月でめきめきと才能を発揮し今ではBクラス上位だ、近いうちにAクラスになるだろう。


それに比べて俺はこの3ヶ月、Fクラスのままだ。

モンスターもいないしレベルもほとんど上がってないからな。モンスターテイマーのレベルの上がりにくさは何か呪いでもかかってんの?ってくらいに酷かった。

最初の1ヶ月は実家から持ってきた唯一の武器であるロングソードを駆使して必死に街の周辺に出るモンスターと戦ったけど、何度も命懸けの戦闘をこなしたのに上がったのはたった2レベル……俺が倒せるモンスターは討伐依頼が出るような強力なモンスターじゃないから命懸けで倒した所でお金になるわけじゃない。当然、そんな無収入のレベル上げ中心の生活はすぐに行き詰まり、レベル上げを断念して薬草採集に取り組むしかなかった。


マリアはなんと同じ1ヶ月で20レベルも上がったそうだ。

嬉しそうに語るマリアに俺は良かったじゃん、と無理矢理笑顔を作ることしか出来なかった。


あからさまに差が付き始めて、マリアは色々と気にかけてくれるようになった。村では兄貴面してただけに余計にいたたまれない気持ちになったが、クラスメイトとも馴染めずにいる俺の現状ではマリアの気遣いに救われてる面があるのも事実だ。



「マリア、そろそろ行くぞ?」


俺とマリアをさりげなく隔てるように割り込んできた金髪の優男はAクラスのキグナスだ。

赤を基本にした上品な革鎧は、人によってはド派手なだけで嫌味っぽくなるだろうが、見事に着こなしている。悔しいが、キグナスには一目見ただけで実力のある冒険者だと感じさせる気品や威厳がある。

一般人丸出しの布の服を着てる俺と比べたら、同じ冒険者だとは誰も思わないだろう。

なんでも高名な冒険者の息子とやらで、子供の頃から厳しい鍛練を続けてきた上にかなり上質な装備を揃えてやがる。マリアの才能を見抜いて入学とほぼ同時に自分のパーティにスカウトしたんだとさ。


マリアの実力が急成長したのも、Aクラスのキグナスに影響を受けた面があるのは間違いない


その上、イケメンという腹立つ野郎だ。

女にしか見えない綺麗な顔してるわりにコイツけっこうキツいんだよな…今だって俺を見下すような、警戒するような、ようするに好かれてないなとすぐに分かるような目線を送っている。



「ジェイク君、モンスターテイマーという君の素質上、レベル上げが大変なのは分かるがもっと鍛えた方がいい。先月から全然ステータスが伸びてないじゃないか。」


こいつ、Aクラスのくせに俺なんかのステータスもチェックしてんのかよ。

普通は他人のステータスなど分からないはずだが、キグナスは恐らくアイテムかスキルで他人のステータスをチェックできるんだろう。


俺がマリアにまとわりついて寄生しようとしてるかもとか警戒しての事なんんだろうけどな。ケッ!


「……バイトで忙しくて鍛練の時間なんて取れねえんだよ」


「はぁ……君は冒険者になるためここへ来たんだろ?それは言い訳に過ぎない。自分の境遇を嘆くより、日々の努力を重ねる事が大事なんじゃないかい?」



俺だって努力してるっつの。お前みたいに、みんながみんな修行に集中出来る環境じゃねぇんだよ!生きてくには金がかかるんじゃいボケ!と、内心で反論しつつも……今の行き詰まった状況を変えるにはとにかくどこかで頑張るしかないわけで、キグナスの言葉もあながち間違ってるわけでもないから何も言えないのが辛い。

何も言い返せない俺を気遣ってくれたのか話題を変えるようにマリアがキグナスをやんわり止めてくれた。


「まぁまぁ、キグナス。ジェイクはジェイクで頑張ってるんだよ?私たちね、これからダンジョンに潜るの。モンスターのたまご見つけたらジェイクに譲るからさ、期待しててね!」


「ま、モンスターのたまごなんてダンジョンに落ちてるものなのかは分からないけど。もし見つける事があったら、優先的に君に譲ってもいい。だか多少は相場より安くしてもいいがタダというのはダメだ。ジェイク君、君も頑張ってくれよ。同郷のマリアに恥をかかせるような真似だけはしないように。それじゃあ」



これで話は終わりだと言わんばかりの態度でさっさと去っていくキグナスに困った顔をしつつ去っていくマリアを見送りながら、なんだか俺はとんでもなく惨めな気持ちになった。


モンスターのたまごがないから報酬の低い簡単な依頼しか受けられない、モンスターのたまごが買おうにも細々とやるバイトでは生活に手一杯で貯金だってあまり出来ない、こんなのどうすりゃいいんだよ




鬱々と街を歩いてるうちに、いつの間にか知らない路地裏へとたどり着いていた。

小汚ない露店商が、怪しい商品やガラクタを並べて売っている。その中のひとつに目が止まり、俺は自分の目を疑った!


『モンスターのたまご 10G』


10Gって……相場の千分の1じゃん!ありえねぇだろ!?俺がまじまじと10Gのたまごを見つめていると、露店商のじいさんが愛想よく話し掛けてきた。


「おうおう兄さん。お目が高いねぇ?そのモンスターのたまごが気になるのかい。安くしとくよ?」


「さ、さすがに安すぎないこれ?」


「モンスターのたまごなんてのはワシら一般人には必要ねぇから売れねぇんだよ。丸っこ過ぎて漬け物石にもなりゃしない」



はー……そういうもんかね。にしても、よく見たらこのたまごずいぶんと古そうだぞ。

コケとか生えてるし、たまごの殻が色褪せて黄色くなってる……本当に大丈夫かよ。まじまじと見詰める俺が怪しんでる顔をしてるのに気づいたのか、じいさんが更に営業トークを仕掛けてきた。


「こっちとしちゃガラクタだがね、万が一ってこともある!どうだい兄さん?ここは5Gで手をうたないかい?」



更に安くなった!

5Gか……昼飯1回我慢すれば浮く金額だし、騙されたとしても対して痛くないな。どうせダメ元だ、買うだけ買ってみよう!




「買った!」


俺はじいさんに5Gを支払ってたまごを受け取りいそいそと自分の部屋へと戻った。卵をベットの上にそっと置いて自分もベットにあぐらをかいて座る。なんだか緊張してきた、本当にこれがモンスターのたまごなら、ついに俺にも仲間のモンスターが出来るわけだ!



「えーと、モンスターのたまごを孵化させるには魔力を流し込めばいいんだよな」



モンスターテイマーに関して教えてくれるような先輩も教師もいないので、俺は詳しい知識を得るため学校の図書室で調べまくった。

モンスターテイマーという職業自体、少ないらしくあまりそれらの情報の乗ってる本は見つからなかったがグレゴリオ・ザッパーという研究家の書いたモンスターに関する書物にモンスターテイマーについての記載があった。

グレゴリオの本で学んだ通りに俺はたまごに手を触れて集中してみる。何か渦のようなものが、俺の全身からたまごに流れ込むのを感じる。ほんの少しだけたまごがピクリと動いたような気がする。いいぞ、うまく行ってるらしい!



バチッ


「ばち?」


バチッ バチバチッ



な、なにこれ……たまごの周りに黒い稲妻が発生してる!えっ、怖い!


バチバチバチバチッ!!!




徐々に音が大きくなり、俺は慌ててベットから飛び退いた。


「なになに!?なんなの!こんなん聞いてないっ!!」



気がつけば、俺の部屋中にたまごを中心とした黒い稲妻が漂っている。俺はどうすればいいか分からなくて、オロオロしていたがやがて黒い稲妻は徐々に落ち着いて消えていった。

しばらくすると黒い稲妻は嘘のように消え去り部屋は元通り静かな部屋になった。


「なんなんだよぉ……」


半べそかきながら、この状況を引き起こしたと思われるモンスターのたまごに近付いてみる。

特に変わった様子は…………あ!卵のてっぺんにビビが!そのビビは、やがてピキピキと音を立てて全体に広がっていった。ついに……ついに、俺のモンスターが……!


「……ってあれ?」



たまごが割れて、中から現れたものは……何もなかった。

そこにはただ割れたたまごのカケラがあるだけだった。



「なんだよ……期待、させんなよ……」


一気に肩の力が抜けて俺は床にヘナヘナと座り込んだ。

所詮、俺なんかに冒険者なんてムリだったのか?ご先祖様が偉いモンスターテイマーって聞いてたのに、ここじゃ誰も知らないし……モンスターテイマーは自身を鍛えてもステータスが全然上がらないから、パートナーなしで冒険者を目指すのはほぼ不可能だ。

ここが、潮時なのかもしれない。もう、諦めて村に帰ろう……



ぷよ!


「ん?」


ぷよ!


「え、なに?なんの音?」



妙な鳴き声が聞こえた気がしてキョロキョロと見回してみる。この音……ベットの上からだ!


俺は割れたたまごのカケラをまじまじと見つめる


「じ~………………あっ!!!」


いた!カケラのひとつに、物凄く小さい透明なスライムがぷるぷると震えていた!


「ちっせーーー!え!?これスライム?だよな?」


俺は恐る恐る、右手の人差し指をスライム(?)に近付けてみる。


「ぷよ!」


そいつは、ちっちゃい鳴き声を上げて元気に俺の指に飛び乗った。俺の爪より一回り小さいけど、これは間違いなくスライムだ!



こいつが、俺の、初めてのパートナー……


「よろしくな……産まれてくれて、ありがとな!」


「ぷよ!」


体は小さいけど、元気一杯だ。俺の指の上で元気に跳ねている。


「よし!お前はぷよぷよ鳴くからプヨだ!」


「ぷよ!」



えーと、たしかスライムは雑食性で人間の食べ物ならなんでもいけるはず。

俺は部屋に置いてた食料の中から、食べやすそうなパンの内側をひとかけらちぎって牛乳に浸し、プヨの前に差し出した。


「ほらプヨ、これは食べ物だぞ!食べれそうか?」


プヨは差し出した小皿を興味深そうに覗いている。

やがて恐る恐る、その小さな体を小皿の中へと飛び込ませた。


「あっ!」


俺が溺れるんじゃないかと心配して助けようとすると、よく見れば小皿の牛乳がどんどん減っている。やがてパンもプヨの体に取り込まれ、徐々に分解されていった。


「良かった、パンと牛乳で問題なく食べれるらしい」



そしてすぐに小皿は空になり、プヨは一回り大きくなり、体をぷるぷると震わせていた。


「しかし、お前はスライムだよな?こんな小さいの聞いたことないし……なんで透明なんだ?生まれたばかりだからか?」


俺の知る限り、スライムってのは小さくても子犬くらいの大きさで色は青か赤のはずだ。特殊な環境にいたりすると稀に他の色になるらしいけど……下手すると子供でも倒せる最弱の魔物、それがスライムのはずだ。だがプヨはサイズも色も普通と違う。たまごが古かったせいなのか……とにかく、俺はこいつを立派なモンスターに育て上げてみせる!



こうして、俺のプヨ育成計画が始まったのだ。

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