③
すいません、先に誤っときます。陽菜子の不満ダラダラ回です。
私が何をした?
強いて言うなら何もしてない。うん、何もしてない筈。記憶に無い所で何かをしたと言うのも無いと願いたい。
嫌、やっぱり何かしてるのかも知れないが、私は決して悪くない。
明らかな敵意を感じる。悪意有る視線の先には愛奈ちゃんの姿
何かしたとすれば私では無く、ミチルの方だろう。
私は唯ミチルと付き合ってるだけだ。それか!それが駄目なのかぁ?付き合ってるだけで向けられる敵意ってどうしたらいいのだ?
アレ(鼻毛事件)以来、明らかな殺意を感じる。まだ何かをされたとかでは無いけれど、向けられる眼差しの日々に怯え.......は、しないけれど、困惑する日々が始まった。
人見知りする私は自分から愛奈ちゃんに話し掛けるでも無く、元から仲の良い方じゃ無かったし、ミチルと釣り合って無いとハッキリと言われたわけだけど、何をそんなに彼女(愛奈ちゃん)をイラ付かせているのだろうと、考えれば直ぐに行き渡った。
そう、ミチルの事だった。
当初、私(彼女)の存在など、端から気にしてないと匂わせていた愛奈ちゃん。寧ろ余裕すら感じた。
それもそうだろう。だって彼女は美少女だ。ミチルの横に並んでも見劣りする事無く、二人並べば絵になる位、完璧にマッチしていた。
対して私は普通ーーーより少しだけ可愛いと思いたい。が、お菓子作りが少しだけ得意な普通の女子高生の私。それも当たり前の事で、家がケーキ屋で幼い頃からスイーツ作りをしてたなら、そりゃ得意ともなるだろう。うーん、愛奈ちゃんと比べると.......そう!行列が出来る父のスイーツとミチルの大好きな私お手製のチーズケーキと言った所だ。
日々、ミチルがこれでもかと絶賛している私のチーズケーキだが、何ら変哲も無い普通のチーズケーキなのだ。そのチーズケーキと父のスイーツ.....。
比べるだけでもおこがましいとは正にこの事だろう。プロが作るモノと比べないで頂きたい。
ミチルは私のチーズケーキの何処が世界一なのか未だに不明だけど、ミチルは私のチーズケーキ愛が凄まじいから(此処は私への愛が凄いと言いたいけど言えない事実....)
一般的な解釈をするなら、私のチーズケーキと父のケーキ、どっちか食べて良いと差し出されて食べるなら誰もが父のケーキを手に取るだろう。
しかしミチルは違う。差し出されれば迷わず私のごく普通のチーズケーキを選ぶだろう。それはもう奪われる前に確保しろとばかりに手を伸ばすと思う。賭けても良い。ミチルの前に差し出してみようか?
ともあれ、ミチルの事で向けられる敵意の眼差し。その眼差しも彼女一人のモノでは無く、彼女+端正な男子五人のモノだと言いたい。
そう、彼女は今流行りの逆ハーレムを築き上げると言う事を成し遂げていた。
男心が手に取る様に分かるのか、男心のツボでも熟知してるのか、次から次へと男の子達が愛奈ちゃんの元へと群がる様になって行った。
その様は飴玉に集まる小さな蟻の群れ.....は言い過ぎだが、愛奈ちゃんへ心を砕く彼等を見ていれば、私がそう思うのも肯けるだろう。
日々日夜、まぁ、夜は違うけれど、愛奈ちゃん+彼等の眼差しを考えて見て欲しい
その眼差しも好意的なモノでは無くて、悪意のある眼差しだとーーーー。(好意的なモノでも困るけれど)
私のライフポイントはガリガリと削られるのだった。唯でさえ小心者でヘタレな私の精神が彼女と彼等の眼差しだけでこれでもかと傷付くのだ。
愛奈ちゃんが彼等に何かを言ったかどうかは分からない。分からないけれど、明らかな敵意に、彼等が居る所では出来るだけ目を合わせない様にと俯き過ごす日々。
だが、最近では少し慣れて来たのか、痛まない心に私って意外とタフなのかも知れないと思う。
今ではちょっとした遊びなんかも思い付く始末。
所謂度胸試しだ。
ギロリ睨み付ける逆ハーメンバーの中から一人ターゲットを決めると視線を合わせ、何秒耐えれるか何て言う馬鹿げた遊びなんだけど、これが意外と楽しくて、ドキドキするのだった。(勿論恋愛の意味のドキドキでは無い)
今の所0勝20敗2引き分けだ。その2回の引き分けも第三者に話し掛けられた為、中断したモノだった。因みに私が一勝も出来ないのは彼等の眼力の強さ+お互いの性格の為だろう。ヘタレな私は数秒と持たずに目を反らすのは言うまでもない。反対に殆どの者が負けず嫌いなのか、逆ハーメンバーはテコでも視線を外さない。
私が目を合わせると一斉に見て来るのも止めて頂きたい。出来れば1VS1の戦いを望む。
しかし、慣れと言うのは直ぐにやって来て、少しずつだけど時間が伸びてる様に思える。
その遊びは気分を害する彼等への反発でもあった。し、少しも堪えていませんと言う強がりでもあった。それで少しだけ心がスッキリする気持ちもあったけれど、今日だけは違った。
私は朝からイライラしてたのだ。
愛奈ちゃんと愉快なハーレムメンバー達はクラスがバラバラで、運良く同じクラスの者は一人も居なかった。
愛奈ちゃんと愉快な逆ハーメンバー達は短い休み時間は友人と過ごすか、お互いがお互いの元へとやって来るかしてる様だったが、頻繁に有るのが彼等がやって来る事だった。
彼等は自分の教室の様に堂々と入って来る。
そして愛奈ちゃんの元へ蕩ける様な眼差しを向けながら愛奈ちゃんの名前を慈しむ様に呼ぶのだ
彼等の容姿も様々で、私の中で一番強烈な個性なのは勿論豆柴の田中君だろうか。
豆柴好きには悪いかもだけど、純日本人....主に醤油顔とも言える田中君は熱い、熱すぎるのだ。
つぶらな瞳が私を見る時はギロリと鋭くなり、キャンキャン吠える唇は形良いが、煩いと思うのは私だけだろうか?
あ、今更ながらだけど、本日の無気力ボーイは御欠席であります。
病気?イイエ。やむを得ない家族の用事?イイエ。家族の危篤?イイエ。
唯のサボリだ。仮病とも言う。コレは良くある事で、朝起きるのが非常に苦手なミチル様は偶に仮病を使う。先生方も分かってるのか何も言わない。勿論ミチル自ら仮病の電話をする事は無く。主にその役割を私がするのだけれど、今は病欠無気力ボーイは放って置いて、問題の愉快な逆ハーメンバーと愛奈ちゃんへ話しを戻す事にする。
ミチルが居ないからか、普段より数倍増した愛奈ちゃんの敵意の視線を一心に受ける私
何が彼女をそこまでする?ミチルか?ミチルが原因かー
見た目はパーフェクトなミチルだけど無気力ボーイですよ?のほほーんと寝てばかりで穏やかで何でも許してくれそうに見えるけど、ああ見えて物凄く我儘でマイペースですよ?その上究極の面倒くさがりで、最悪な位エロいですよ?
アレ?もしかして私、文句言ってる?
嫌々、私、ミチルの事大好きですので.......
勿論、頂戴何て言っても絶対あげない。
ああ、自分で言っといて恥ずかしい....。
「佐藤陽菜子!聞いてるのか!」
バンッと目の前の机を叩かれ、ビクッと反応する。
横に座ってるナオが呆れた様に私を肘で突っ付く。
ハッと顔を上げると豆柴君じゃ無く、田中君の姿
つぶらな瞳がギロリ見下ろす。
幾ら豆柴を彷彿とさせるものの、こうも敵意を表されると可愛く思えない。
ああ、今日こそ本物見に行こう
近所に可愛い豆柴居るんだよね。
本物は偽物と違って数百倍可愛いのだ。
ああ、私に癒しを....
何で、本物じゃ無くて偽物が目の前に居る?
何で、しかも、こんなに明ら様な敵意を向けられなければいけない?
と、思えば何だか非常にムカムカした。
ああ、そうか、今日は朝からミチルの我儘で朝からヤラシイ事をされて、フラフラなまま登校したんだった.....
序に先生に「今日もかぁ.......彼女の佐藤がもう少し何とかしてくれないものか....」とか言われたんだった。
何とかって何だ?彼女の私が悪いのか?そもそもミチルがイケナイんじゃないか?
学校来ないのも、愉快なハーレムメンバーに嫌味言われるのも私が悪いのか?面倒くさがりで自由過ぎるミチルが悪い。
そう思うと色々と悪循環で、ツイてない日はトコトンツイてなくて、先程見ず知らずの女生徒にブスだと言われた。
ナオと居る時だったからナオが物凄い形相になり、少しだけ大騒動に発展し掛けた。(アレは正しく般若だ)
で、その後の豆柴君登場.....
ぶっちゃけ今日は放って置いて欲しかった。構わないで貰いたかった。ああ、私こそ空気になりたいと思った。
幾らヘタレで小心者で心の広ーい陽菜子ちゃん(あ、自分でちゃん付けちゃった)も、時にはムッとする。
私の顔を見たナオが一瞬苦笑いし、豆柴君へ向き直る。
「今、この子に構わない方が良いよ?」
「はぁ?何言ってんだ?澤ミチルが居ない今の内に聞きたい事あんだよ!」
遠くで愛奈ちゃんがソワソワ不安気にしながらも何だかその表情が得意気に見えるのは気のせいだろうか?気持ちに今、余裕が無いからそう見えるだけだろうか?何だか愛奈ちゃんの口角が上がって見えるのも気のせいだろうか?
ああ、唯でさえ、普通の見てくれなのに心の余裕まで失いつつ有るなど、嫌すぎる.....
ミチル許すべからず.....
「だから、アイツのあの性格!」
だからとは何ぞ?ヤバイ聞いてなかった!と思いながら愛奈ちゃんから豆柴君へ顔を向けた私。
「田中、それは聞きたい事じゃ無くて言いたい事でしょ?それに澤の事は直接、澤に言うべきでしょ?」
呆れた様なナオの言葉を聞きながらバレない様にフフと笑う。
「それは!だって!アイツっ!」
「男がだって何て使わない!みみっちい奴だと思われたいのか?」
「それとこれとは関係無いだろ!とにかく「ああ、もう、それ言うなら陽菜子にも関係ないでしょ?澤の性格は澤の問題であり、陽菜子に言うのは違うでしょ?それ以上言うなら黙ってないけど?私も兄ちゃんも....」
田中君の声を遮り冷ややかな視線を投げたナオ。
息を飲み黙り込む田中君。
「それに言ったよね?今、この子に構わない方が良いって?後々面倒くさい奴が出てきて本気で面倒くさくなるのはソッチだよ?」
チョコレート色のサラサラな髪を耳に掛けたナオが男らしくて、百合の気は無い私ですらキュンとした瞬間だった。
田中君はまだ何か言いたそうにしてたけど、ナオの言葉に仕方なさそうにしながらも去って行った。
本当は自分で言わなくちゃいけなかったのに、言ってくれたナオ。照れ臭くてモジモジしながらごめんねとありがとうを言うと綺麗な笑顔を見せてくれた。その笑顔に少しだけ心がスッキリとした。
しかしミチルへの不満は収まっておらず、ソレとコレとは別で、さて、どうしてやろうかと、思いを巡らす。
ミチルと話し合う前に万年寝太郎の無気力ボーイに報復をと、ほくそ笑む私がソコに居た訳だけど、そんな私の顔を見ながらナオが苦笑いしボソリ呟いた事には気付かなかった
「コレは相当キテるな.....」
私達がこんなやり取りをしてる中ガラリと開く教室の扉。
その扉からヌボーと顔を出す万年寝太郎のミチルさん。
今日は欠席と思ってたけど、どうやら頑張って起きた様だ。
よく一人で起きれたと!普段の私なら思うかもだけど、今日の私は頗る機嫌が悪い。
何時もならやって来たミチルへ頑張って来たねと優しく声を掛ける所を冷めた目を向ける私。
私の普段との違いに違和感があったらしく、ミチルが眠そうな目を擦りながら私の元へと足を向ける。所々跳ねた寝癖が妙に可愛いらしく見えて、コレこそ惚れた者の弱味だと思った。邪念を振り払う様にして頭を振り再びミチルを見つめた訳だけど、眠そうな眼差しがこれまた甘く見えてクラクラした私は瞬時に視線を外す。
そんな邪念だらけの中、高くて可愛らしい声が響き渡る。
「ミチル君!」
ハーレムメンバーを押し退け、ミチルへと駆け寄る愛奈ちゃん。この前の鼻毛事件は無かった事にした様でフワリと極上の笑顔を浮かべている(その鼻には勿論毛の一本も見当たらない)
懲りずに擦り寄る愛奈ちゃんの度胸に最早感服する私
何も言わない私も悪いのかも知れないけれど、ミチルもせめて一言位あっても良いと思う。
まぁ、無関心で愛奈ちゃんへ何の気持ちも向けないとは有る意味残酷でも有るけれど、私としては、『俺には陽菜子が居るから』なり『俺は陽菜子が好きだ。愛してる。陽菜子が居ないと死ぬ』なり.......は、嫌、ミチルは絶対言わない。こんな長ーい言葉を言うミチルさん。想像すら付かない。オマケにこの台詞。有り得ないだろう。
そこまで考えて、アレ?と気付く。
私、ミチルに好きだと言われた事有るか?と.....
嫌、無い.....
無いと分かると無性に悲しくなる。
エロい事もして来る癖に肝心の愛の言葉がまだ何て悲しいを通り越してむなしい。
待て、男は好きじゃない女でもエロい事は出来ると聞く。
次の瞬間、ミチルの気持ちを知りたくなった
なったが、場所が悪い。此処は教室のド真ん中、生憎、話題を提供する趣味は持ち合わせて無い私はこの気持ちをグッと押しやり俯く。
「ミチル君!具合は大丈夫?風邪引いたって聞いて愛奈心配しちゃった!もし良かったらノート見せようか?」
プッ.....ミチルが風邪?ミチルがサボる口実だと分かってる癖にと心の中で笑う。ああ、私って意外と性格悪いのかも知れないと知った瞬間だった。
可愛らしいノートを胸で抱き締める愛奈ちゃんをジーッと見つめればチラリ視線があった。
その視線を反らすと負けた様な気がして、何だか無性に嫌になった。
が、その視線を遮ったのはミチルだった。
私と愛奈ちゃんの間へ割り込む様に身体を移動させたミチルはその眼に私を写す。
ミチルの目頭が少しだけ見開いた様に見えたのは気のせいじゃ無い。
勿論、僅かな瞳の見開きに気付いたのも私だけだろう。
ミチルは何も言わない。
ズンズン真っ直ぐ進む対角線上には私の姿。
真っ直ぐ見つめる先にも私の姿。
「ミチル君?」
真っ直ぐ向かってたミチルの足が突如ピタリ止まる。
そしてクルリ振り返ると、その眠そうな眼差しをユックリ下ろして行く。
そして静かに言葉を吐き出した
「名前.....呼んで良いって言った?」
ラ、ランキング入ってて吃驚です。ありがとう、ありがとう。ありがとうございます!嬉しいです(^^)
次のページできっと万年寝太郎のミチルさんがやってくれると思う!うん、きっと!