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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

機械になった、哀れな私

機械になった、哀れな私

作者: 苗字名前

シリーズものの序章の序章です。

なのですみません、今のところ恋愛要素が無い……。

 妄想とは、現実から逃走するための手段である。


 明日提出のはずの課題に全く手をつけていない時。テスト前日で、徹夜で勉強をしてるとき。現実から逃げ出したい、と思うことは幾らでもあって、その度に私は妄想を繰り広げ、それに浸っていた。


 ネタが尽きた時にはアニメや漫画を見たり、はたまたは『転生系』のラノベやオンライン小説を読んだりしていた。そうして、自分が此処では無い何処かに居る夢を見るのだ。


 異世界へトリップしたり、救世主になったり、素敵な恋をして、ライバルと競い合ったり。しばらくして我に返れば恥ずかしい妄想ではあるが、やめることは出来ない。


 そして、時々、どうしようもなく求めて、願ってしまう時があるのだ。本当に起きたら良いのに、と。


――それが、いけなかったのだろうか。


 ある日のことだった。何時ものようにオンライン小説に、漫画を検索して、Pixivにも触覚を伸ばそうとしていたところで、一つのバナー広告を見つけた。


『なろう、主人公育成計画――プロジェクトS』


 それはイベントだった。コンセプトはアニメ主人公のようになりたい人たちへ――つまりは私のような願望を持つ人間のためのものらしい。


 会場は舞浜アンフィシアターで、昼と夜の部がある。ちょっと遠出にはなりそうだが日帰りできない距離では無い。


 個性的なネーミングに不思議と惹かれた私は、気が付けば初めて、こういうアニメイベント的なもののチケットを購入していた。


 興味本位で覗いてみたイベントのホームページも、SF系を連想させるデザインを模していて、私の好みのタイプだな、と胸を弾ませながら当日まで過ごした日々を良く覚えている。


 きっと楽しいイベントになるのだろう。そうやって思いを馳せながら、碌にイベント内容を見ず、初イベントととなるそれのことを家族にでさえちょっとした恥ずかしさで語りもせず、イベント内容を勝手に想像していた。


 アニメイベントだろうか、それともゲームイベントだろうか。どんな催し物とかをしているのだろう。声優さんとか出てきたりするのかな。なんて、楽しい妄想を膨らませる。


 だけど、それは間違いだった。それは決してアニメイベントではなかったし、また、私の想像していた物でも無かったのだ――。






♢ ♢ ♢ ♢ ♢ ♢ ♢ ♢


――あれ、意外と人少ない?


 イベント当日、踏み入れた会場は閑散としていて、あまり人が居るようには見えなかった。

 100人は私が来場した時には既に居たが、それ以上増える様子はなかった。


 意外と少ない参加者に首を傾げながら、左側の、前方部分の席へと移動し、腰を下ろした。右側、左側の観客スペースと比べて、真中の方が人で埋まっている。それでも、何となく今座っているこの位置が心地よくて、何処か異様な光景に疎外感を覚えながらも、イベントの幕が上がるのをそのまま待った。


 初めてのイベント故か、或いは、この無駄に広く感じてしまう会場のせいか、心臓がトクトクと早鐘を打っていた。


 それから十分ぐらいは経っただろうか。照明が前触れもなく落ち、前方のモニターが青白く発光した。


『ご来場の皆さま。本日は当イベント“なろう、主人公育成計画――プロジェクトS”へお越しいただき、誠に有難うございます』


 女性の声がアナウンスを通して空間に響き渡り、不思議と、今から異世界へと飛び立つような気分になって、自然と胸が高揚するのが分かった。


『まずは当イベントの立案者、プロデューサーの土方錬次郎のご挨拶から始めさせていただきます』

『はい、どうもどうもー。皆さんこんにちはー、プロデューサーの土方錬次郎でーす』


 紹介と共にステージ上に紺色のスーツに黒縁の眼鏡をかけた男が登場した。

 30半ばだろうか、妙に軽薄そうな笑みは、彼を胡散臭く見せていた。そしてその後に続く何人かのスタッフが生真面目な雰囲気を漂わせているせいか、その軽やかさは更に浮き彫んで見えた。


 ヘコへコと軽く会場全体へと会釈しながら、男は言葉を紡ぐ。


『さて、皆さん、此処に来たということは少なからず、主人公のように、何かの“中心”になりたい、或いは、“特別”な存在になりたい、と思ったっということでしょうか?』


 その問いに、何処かで同意する自分が居た。

 と言っても、だからと言って本当になれるとは思っていない。恐らくこのイベントは疑似体験とか出来る、そういうお遊びのようなものなのだろう。


『……もし、本当に主人公のように、特別な存在になれると知ったら、あなたたちはどうしますか?』


 そんなもの、決まっている。なれるものなら、なっている、その“特別”な存在に。誰もが圧倒するような、驚くような、尊敬されるような人物に、出来るものなら私はなりたい。特別な力も欲しい、素敵な恋だってしたい。


 平凡な日常とか、そんなものはいらないから、私は、“非日常”が欲しい。


『ここで、僕は君たちにそのチャンスを与えたいと思います』


 男、土方錬次郎が大袈裟にその腕を掲げると、背後のモニターに何やら設計図が表示された。


(なに、あれ?)


 表示されたそれはロボットのものの様で、見目は人間とあまり変わらない。人形のようにも目に映るそれはリアルで、何処か非現実的にも見えた。


 ”ファイナル”と言う単語が付く某ファンタジーゲームを連想させるような容姿だ。


『ゲームをしましょう』


――ゲーム?


 何か新しいゲームソフトの宣伝だろうか?

 予想だにしなかった言葉に僅かに瞠目した。同時に胸の高鳴りを覚える。


 『なろう、主人公育成計画』なんて言うものだから、もっと別の、何か違う物を想像していたわけだけど、まさかゲームの宣伝だったとは。ちょっとした落胆はあったが、それはそれで面白そうだ。


 『育成計画』、とか言うネーミングからして、アバターを使うオンラインゲームのようなものだろう。どういうストーリーで、どういうキャラクターが登場するのか、知りたい。長らくゲームなどの類はしていないので、少し楽しみだ。


(育成とかだから、もちろん外見とかスキルとか、自分で選べるんだよね)


 まだ、ゲームが自分が想像している通りのものだと決まった訳ではないが、それでも妄想を繰り広げてしまうのは、残念な妄想女子故か。


 壇上の男を見上げれば、奴は嬉々として口を捲し立てていた。


『君たちは、何が主人公を“主人公”にさせているのだと思いますか?

 人に好かれる要素? 諦めないと言う信念? カリスマ性? 特殊能力?』


 カツンカツン、男がステージを歩く度、無機質な靴音が会場に響き渡る。


『答えは、物語(ストーリー)だ』


 くるり。背をこちらへと向けていた男はまたもや、大袈裟に足を踏み込みながら口を開いた。


『誰もが驚くストーリー。その中心に立っているからこそ、その“人物”は初めて“主人公”になれるんですよ』


 何が楽しいのか、高揚したように頬を赤らめると男は、やっと本題へと移る気になったのか、例のモニターを指さした。


『だから、僕は差し上げよう。君たちに“体”を、誰もが振り向かざるを得ない絶対的な“物語”を、ゲームと言う名のストーリーを』


 ニタリ。三日月に唇を歪めるその顔を、一瞬気味悪く思ってしまった私は悪くないだろう。

 精神病者を思わせる笑みを目にして、私は今更ながら不安を覚えた。先程まで上がりかけていたテンションが再度下がるのが分かる。


(大丈夫か、この人?)


 演技には見えないそれを怪しみながら、変な演出だなと思いながら感慨無くステージを見つめる。他にも役者を雇っているのだろうか。


 壇上の男がパチンと指を鳴らすと、今度はステージの下から一人の“人間”が現れた。

 プシュー、なんて音を立てながら浮上してくるそれは一見生きてるように見えるが、そのあまりの綺麗さと無機質さのお蔭ですぐに“人形”だと分かった。

 モニターに映るそれに、私は不覚にも興奮した。何か面白そうなことになると、直感したからだ。

 目の前の壇上に立つそれは、正にモニターに映っていた“ロボット”だったのだ。


『さて、此処に試作品の“人形”が一つある』


 ポン、と見目麗しい、どう見ても人間にしか見えないそれの肩を、男は叩いた。


『この人形の頭に、君たちの“脳”を入れます』


 どくり。先程と反して、心臓が一瞬、怯えたように大きく跳ね上がる。


 唯の演出だと分かっているのに、何故か嫌な予感がして、ふと会場の中を見渡した。

 恥ずかしながら、どこぞのグロテスクで、サイケデリックなアニメとか、そういう小説を連想してしまったのだ。そんなこと、現実にあるはずがないのに。


 大丈夫、これは公式なイベントだ。だからこそ、舞浜アンフィシアターなどと立派な会場で行われているんだ。


(そうだ、幾ら人数が少ないからって……)


 その瞬間、ふと違和感を感じて、私の思考はそこで留まった。


(人が少ない……? なんで?)


 そうだ、何故、気付かなかったのだろう。


 舞浜アンフィシアターなんて、こんな大きな会場でやるんだから、イベントは大手会社が開くような大規模なもののはずだ。例え、それが新しいゲームの宣伝のためのものだったとしても、それは多くの人に知れ渡っているはずだし、100人なんてそんな小規模な人数より、もっと大多数の観客が居たって可笑しくない。


 それなのに、何故、この会場はこんなに空っぽなんだ……?


 思い返せば思い返すほど、違和感が徐々に自分の頭の中で膨らみ、私は身を震わせた。


 このイベントのことを知っている人間は、どれぐらい居る? 


 このイベントに来ること自体、家族や友人には伏せていたので、その答えは分からない。たらり、冷汗が頬を伝った。


 他の客席に座る観客はこの不自然な事実に気付いていないのか、黙々と男の演説に未だ耳を傾けていた。何人かは、あの“人形”に大きな興味を抱いているように見える。


『大丈夫。例え、脳が取り出されたからと言って、君たちは死にません。そうですね、まあファンタジー風に言うなれば、“魂”を取り出して別の“肉体”に入れると言う感じですかね』


 それはまるで夢物語だ。最近のオンライン小説で良く見る“転生”のような話。前世の記憶を持ちながら全くの別人になり替わる話。私が、憧れたシナリオ。


『とりあえず、今は君たちの“脳”をコールドスリープさせるとして……舞台は100年後。世界も文明も発達した未来、になっているかは分かりませんが、とりあえずそんな感じの場所でどうでしょう?』


――いや、どうでしょうって、何が?


 ニコニコとやたらと非現実めいた話を繰り広げる男は本当に楽しそうで、不安が一層膨れ上がってゆくのに、その一方で、私は心のどこかで歓喜めいた感情を覚えていた。


『そこで、君たちには“殺し合ってもらいます”』


 パチン。再度、鳴らされた指音に反応してモニターが切り替わる。その瞬間、私の思考は停止した。


『この“肉体”は、とても頑丈で強く、また“個体”によっては違う“機能”を取り付けられておりますし、“武器”もあります。戦車なんか、もうポン、と叩けば破壊出来ちゃうんですよー』


 朗らかに笑う男に、口がひきつった。これは、冗談だよね? 本気で言ってるんじゃないよね?


『まあ、あれです。とりあえず何か君たちが良く読むVRMMOものの小説だと思ってください。で、君たちはその主人公! あ、未来●記のようなものだと、考えても良いですよ!

 正に、SA●的なデスゲームを現実世界でやるんですよ! ね、想像してみたら楽しくなってきたでしょう?』


――否、現実で流石にそれはやりたくないかな。っというか、無理だ。私がやりたいのは、そんなデスゲームじゃなくて、テンプレ的なラノベの逆ハーレム主人公とか、乙女げー系の転生物語とか、そんな感じだから。


 などと冷静に頭ではツッコミを繰り出してはいるが、内心では、男の発言に恐れおののいていた。


『衣食住の方はご心配なく! ちゃんと戸籍も何も新しく作れるようにしておきますからね! 

 もう一度学校生活を送りたい人は高校生! 或いは小学生でも何でも好きな年齢の”個体”を差し上げます! ただし、それを決めたら最後、一生その姿で過ごすことにお忘れなきを!』


 ありえないなのに、ありえるはずがないのに、それでも男の口調は何処か本気のように聞こえて、全身に鳥肌が立った。それでも会場を立ち去る気にはなれず、心のどこかで“日常の変化”を求める想いが、自分をこの座席に引き留めた。


『まだ正確な予定は決まっておりませんが、君たちが目覚めた時に、ゲームのルールを改めてさせていただきたいと思います。

 とりあえず、今確定していることは、殺し合うと言うルール。生き残れるよう、頑張ってくださいね。脳を破壊されれば死にますから。あと、他のプレーヤーを殺せば殺すほど、“ポイント”が加算されて、特典とかもらえます。

 参加者は君たちを入れて、1000人。人数は少ないですが……』


 どきどきどき。恐怖と興奮が混じり合う。どうしよう、この男の言っていることは本当なのだろうか?

 それともこれは唯のイベントの余興なのだろうか?

 どっちなのか分からず、それでも私は何故か懸命に男の言葉に耳を傾けていた。


『あと、これ、もう逃げられませんから』

 

 そんな不穏にも聞こえる言葉を口にして、男はパチンと指を鳴らした。すると白いユニフォームを着た女性スタッフたちが、●Padと思しきスクリーンを客席に配り始めた。


「どうぞ」

「あ、有難うございます」


 軽く会釈して、スクリーンを受け取る。画面にはアンケートのようなものが映っていた。


『そこにお名前やご希望の年齢、住所、外見などを選択してください。そうしたら、ご希望通りに全て用意しますので。あ、でも能力とか武器はこちらで勝手に決めさせてもらいますんで、ご了承ください』


 ニコニコと、あの怪しい笑みを浮かべながら指示をする男に従うように、私は次々と空欄を埋めていった。そうやって、黙々と入力してはコンテイニューボタンを押していると、最後に『本当にこれでよろしいですか?』と言う質問が、YesとNoボタンと共に表示された。


 それを見て、少し逡巡する。

 なんとなく、自分で設定とか選ぶ気になれなくて、殆ど『おまかせ』ボタンを押していたが、確かにこれで良いのだろうか?


 顔の設定とかは『今のままで』と選択したし、歳も『小学生以上、30以下』と何ともアバウトなこと書いたし、良いか。ああ、でもスタイルの設定は一生変えられないし、やっぱり其処だけ『引き締まった良い体系』とだけ入力しておこう。うん、そうしよう。


 粗方、満足の行く設定が出来た私は一つ息を吐いて、『完成』ボタンをタッチした。


(これで、よし……)

『はーい、皆さん出来ましたねー? それでは之にてセッティングは終わり! 此処からは我々の仕事ですので、皆さんにはゲームの準備が出来るまで眠っていてもらいまーす!』

「……え?」


 眠る、というのはどういうことだろうか。

 一瞬、ヒュッと背筋に悪寒が走った気がして、私は早まったのではないのかと少し後悔をした。


『目が覚めた時には多分もう、何百年後からの未来になってて、僕たちは居ないだろうけど大丈夫です! それまでにはちゃんと住居も戸籍も新たに用意してますし、お金もたーんまり、こちらで用意しておきますからねー。ルール説明とかもしてくれる人用意しておきますんでー、心配ありませんよー』


 妙にテンションが上がりまくってる男は、大袈裟に身振り手振りジェスチャーをしながら、私たちに語り掛けていた。鼻息を荒くしながら、明らかに興奮している男を見て、私はいよいよ現実味を帯びてきたこの話に対して猜疑心を覚えた。


――これは、逃げた方が良いのでは無いのだろうか?


 どうするか迷う私を置いて、男とスタッフたちはガスマスクを被りはじめた。


『それではみなさーん、良い御旅を! ご武運を祈っております! 頑張ってくださいねー!』


 その言葉を最後に私の視界は霧で埋め尽くされ、思考は停止した。鼻から、口から侵入してくるこのガスのせいか、頭が徐々に微睡へと落ち、瞼が重くなっていった。


――そうして訳も分からず、私の視界は暗転した。





とりあえず、気が向いたら更新。ということで、気長に書いていきたいなと思います。

途中で断念して執筆をやめたりするのかもしれないので、一話完結として、連載ではなくシリーズものにさせていただきます。

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