高校生 became homeless
ニュースを見ておもいついた話です。
※実際の人物、場所、団体などとは一切関係ありません。また、ホームレスに関しても作者の妄想で描写されております。実際とは異なることをご了承ください。
ある昼、起きたら別人になっていた。何故昼だったのかって? 別に寝坊したわけじゃない。ただ学校の授業中に昨日のゲームで足りなかった睡眠時間を補っただけだ。時間は有効につかう必要があるだろう?
それはともかく現状確認である。先ほどまで俺は普通に寝ていただけなのだ。トラックに轢かれたわけでも、魔方陣に包まれてという小説にあるテンプレは体験していない。
そして最も大事なことなのだが、俺が憑依した(?)と思われる人物はファンタジーな世界でも完璧美少女などの面白味もない、みすぼらしい感じのおっさんだった。
俺が何をしたーーーー!?
「おい、ボケっとすんな! 職がない俺らは世の中じゃつまはじきモンなんだよ。それがわかってんならさっさと働け!」
「あ、ああ」
わけがわからんまま連れていかれたのはゴミの山だった。ここで何をするか聞いた時はびっくりしたね、日本にもこんな人たちっているんだ……ってさ。憑依してしまった以上しょうがないし、俺がここでサボったことで俺が憑依しているこのおっさんが死んだら嫌だから言う通り従うことにする。
「なかなか重労働だな」
「何言ってんだ。頭でも打ったか? 俺らは毎日こんな生活じゃねえか」
目の前のおっさん――名前を聞いたところ佐藤さんというらしい――に言葉になんとも言えない気持ちになる。憑依したとはいえこのおっさんの身体の記憶がない俺は佐藤さんとの会話から推測することしかできない。断片的な情報からでもこの人たちが普段どれだけ苦労しているかがわかる。
「よし、いったんここまでな、休憩するぞ。しかし普通に働いている時にはこんな空き缶や雑誌が金になるなんて思わなかったけどよ、捨てられたゴミも役に立つもんだな」
「佐藤さんはこの生活が長いんですか?」
「敬語とかやめろ、前にも言っただろう。俺らには身分も年齢もない。あるのは生きることを辞めないってことだけだろ」
「わかり……わかった」
「ああ、それでいいんだ。んで、俺の生活だっけか? お前には先輩だとしか言ってなかったな」
ふと湧いた疑問への佐藤さんの答えは社会の中では当たり前なのかもしれない。佐藤さんは普通の会社員として入社し、結婚した。会社のため、家庭のためと環境の向上に努めたところ、クビをきられたらしい。会社に必要なのは変化ではなく現状維持。佐藤さんの行動は現代社会にとって要らないものだと、リストラされるときに告げられたそうだ。
「それからは……?」
「それからは簡単なことさ。職を失ってすぐに職をみつけることなんてできねえ。なんとかバイトなんかして、貯金を崩して生活していたがそれでもずっとなんてのは無理だ。女房も文句こそ言わなかったが負担をかけていたのはわかっていたから別れたさ。貯金も家も女房にやっちまったら清潔さもなくなるわな。バイトもクビになってこの有様さ」
「そんな……佐藤さんは悪くないのに」
「お前はまだまだ青いな。世の中はいい悪いじゃねえんだよ。お前も同じような経験したからわかるだろ? 世の中に必要なのは、会社の言う通り現状維持ができる人間なのかもしれねえな」
どこか諦めたようにそう言った佐藤さんは休憩は終わりだと話をきり、また作業を開始する。それから俺は佐藤さんに何も言いうことなくただただ手を動かしていた。俺の家は特別貧乏でも特別裕福でもない。高校は金勿体ないからと公立へ行かされたし、月々のお小遣いだけでは遊ぶには全然足りない。正直学校なんて面倒だし、暇な人はいいなーとか、思ってた。
俺のまわりではホームレスなんて汚い暇人という認識が多いと思う。けど現実を知った今は絶対にそんなことは思えない。佐藤さんのように理不尽を受けてやむなく家を失ったり、明日の飯も困る生活をしている人たちが少なくない数いると知ったのだ。
普通に両親がいて、普通に学校に通って、普通に朝昼晩飯を食うのに困らないことが幸せなことだったといまさら感じる。
「今日はここまでな」
「ああ。これ、どれくらいになるかな?」
「まあ数日位は飯食えるんじゃねえのか? いつもはやる気がねえお前がやる気を出すなんて、俺の昔話も役に立つこともあるもんだな」
そういって笑う佐藤さんの顔は不幸など背負っていない。それがまた俺をなんともいえない気持ちにさせた。
お金に換金しにいって来るという佐藤さんについていく。普段このおっさんがどこに住んでいるかもわからない以上、俺よりもこのおっさんのことに詳しそうな佐藤さんに頼るしかない。
換金を終えやってきたのは普通の街中である。いまの俺も佐藤さんも髪は伸び、髭も剃っていない状態、言ってしまえば汚い。そんな格好で夕方にまだ人が多く行き交う街中に行けばどうなるかなど考えずともわかる。
「こんなとこに何の用なんだ?」
「まあ視線を浴びて居心地悪いのはわかるがよ、初めてじゃねえんだからそんなビクビクすんなよな。今日お前本当におかしいぞ? ……よし、着いた」
着いたのはいかにも危ない感じのボロボロのビルだった。こんなところに何の用なのだろうか? 何度か訪れたことがあるようだが……。
「よお、死んでねえか?」
「うるせえ。ほれ、今日の分だ。要件終わったらさっさと金置いて帰れ。こっちも暇じゃねえんだよ」
「うそつけ。お前が暇じゃねえわけねえだろうが。ってかむしろいつ働いてんだ?」
会話からしてずいぶん親しいようである。しかしこの男は本当に何者だろうか? まずホームレスにみえないほどきれいな格好をしている。薄汚れた服を着ているわけでも、髪や髭が伸びきっているわけでもない。男が佐藤さんに渡したのも普通の新聞だ。このまま街に出ても俺たちとは違って注目を浴びることなく溶け込むことができるだろう。
あの男のもとから去った後、俺は佐藤さんに尋ねた。
「なんだ? 今日はやけに質問してくるな。いつもほとんどしゃべらねえのに。っていうかいままで聞かなかったからわかってるのかと思ってたぜ。あいつの名前は知らんが情報屋だ」
情報屋。よくドラマとかで警察にお金をもらって情報を話すホームレスがいるが、あの男はまさにそれだという。男の持っている新聞は朝電車で回収したもの。あんなにホームレスらしくない格好をしているのも信頼を得るためと電車で新聞を回収するためだという。そしてあれだけの格好をできるほどに彼の持つ情報は貴重で高値で売り買いされるそうだ。
「で、質問旺盛な今日のお前さんは新聞も読むか? いつもは尻に敷いて終わりだろうがよ」
「読ませてくれ」
まず確認したのは日付。さっきいたゴミ山も街も高校生の俺が知る場所というのはわかっている。ここは日本で俺の学校の近くだ。あとは今日がいつかがわかれば何かこの憑依減少についてわかるかもしれない。
「これは今日の……」
「ああそうだ。今日の朝刊。そんなに食いつくってことは何か知りたいことでもあったのか?」
「あ、うん。大丈夫だったよ」
「そうか。ならその新聞は捨てるなよ? 新聞の活用法は情報だけじゃねえんだからな」
新聞に書かれた日付は今日の日付だった。朝ニュースでやっていた芸能人の結婚が一面になっていたし、テレビ欄もチェックしたから間違いない。つまり俺は学校で昼寝しているうちにそのままこのおっさんに憑依したらしいということだ。これでおっさんの方の意識が俺の身体に乗り移っていたらどうしよう?
「なんだ、心配顔して。大丈夫だよ。ここらはそうそうガラ悪い学生はいねえから」
「……?」
「その心配してたんじゃなかったのか? お前の見てるページの左下の記事あるだろ? 俺はてっきりそれみて心配になっていたのかと思ってたんだが、違ったか。ま、気を付けて損はねえし一応頭の隅においとけ」
佐藤さんが指し示した記事は最近ホームレスを襲う学生などが増えているという記事だった。ホームレスはお金など持っていない。そして力もない。おそらくその学生は力ない者をいたぶって楽しんでいるのだろう。ホームレスたちには何の罪もないのに理不尽から虐げられているのがいまの世の中なのか。
そしてその日の夜、佐藤さんが襲われた。幸い命に別状はないようだが、それでも病院へ入院しなければいけない傷を負った。佐藤さんは病院で飯が出るから飯の心配はいらないなと笑っていたが許されることではない。
一晩たっても戻らなかったことでなら犯人をみつけたいと思った俺は行動を開始した。
まずは情報収集だ。佐藤さんに連れて行ってもらったあのビルへ行き、なけなしの金を払って情報を得た。それだけでなく近くに住むホームレスたちや佐藤さんと同じく被害にあった者たちにも頭を下げて情報をもらっていった。
わかったのは高校生――制服の特徴からして俺の高校ではなく安心した――だということ。男の5人グループだということ。そしてそのうちの一人が金髪舌ピアスだということだ。
ここまで情報を集めればあとは簡単である。高校生に声をかけ、犯人を特定した。素人の俺が1週間以上かかったとはいえたったそれだけの期間で犯人を特定できたのだ。警察が犯人を特定できないはずないのだが、彼等の高校のまわりには警察は見当たらない。警察も所詮被害者がホームレスあと思っているのだろうか。
そんなことは関係ない。いますべきなのは理不尽への鉄槌だ。公衆電話で匿名として警察に俺が突き詰めた情報を話すと俺は高校へ乗り込む。人を襲う人間が在籍している学校だけあって荒れている。しかしそれ幸いと人気はなく、学校へも簡単に侵入できた。そして俺は佐藤さんを襲った学生たちがたむろしている場所へと乗り込んだ。
目が覚める。窓を見れば夕暮れ。外には部活で騒ぐ生徒たちがおり、目を覚ました俺の前にはイライラしているのがまるわかりな教師の姿が……。
「俺が何を言いたいのかわかるよな?」
「……そうだ、先生! 今日は何日ですか!?」
一瞬ヤバいと思ったがすぐに目が覚める前のことを思い出した。学生たちの元へと乗り込んだあとボッコボコにやられた。そのあと俺の通報できた警察によって学生たちは捕まったが俺は仲良く佐藤さんと一緒に入院することになった。そして佐藤さんのお見舞いに来た元奥さんたちが心配そうに佐藤さんを気遣う姿をみて目が覚めたのだ。
あれが夢だったのかはわからない。けど俺は佐藤さんに会ってホームレスのことを知っちゃったんだ。
先生に聞いた日付は今日のものだった。
今夜、佐藤さんが襲われるかもしれない。それだけで俺が行動を起こすのには十分な理由だった。
先生を振り切って俺は佐藤さんのもとへ駆けていく。佐藤さんにこれ以上の理不尽がふりかからないように。佐藤さんの奥さんにあんな心配かけさせないように……。
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