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奇鬼眼  作者: 駿河留守
6/25

ワタシは出会う

「時間か・・・・・」

 盗んだ金やその盗んだもので作った金を棚の中に隠すようにしまって革ジャンを羽織って部屋から出る。おばさんは溜まった仕事の疲れでぐっすり寝てしまっている。それを確認してから家を出る。おばさんはこんなプーのワタシをいつまでも家においてくれている。それは本当にありがたいことだ。感謝している。少しでもその苦労を和らげるためにもワタシは捕まるわけにはいかない。

 そのためにも落としてしまった刃物を回収にしいかなければならない。

 時刻は午前2時過ぎ。寝静まった町にある明かりは街灯かコンビニくらいだ。行き交う人も車も少ない。こんなところを歩いていたら余計目立つ気がするが人が少ないという点ではこの時間が一番いい気がする。

 ワタシは寄り道をせずにまっすぐ刃物を落としたと思われる学校に向かう。

 肌寒い冬の道のりはきついに一言だ。ワタシは引きこもりというわけではなかったのだが、極力用事がなければ家から出ることはない言わば引きこもり予備軍に当たる。別に何か外に出るトラウマが出来たというわけではなく、ただ人生というものが面倒になったのだ。高校を卒業後に企業に何度か就職したがどこも長続きせず、いつしか仕事に就く探すという行為が無駄に感じられてきてやる気がそがれていき今に至るのだ。

 元々、自分のスペックがいいとは思わず今の生活みたいに底辺中の底辺だと思っている。高校はそれなりにいいところを出ているのにもかかわらず、何もしない日ばかりが続いた。まぁ、何も起きない安定的な生活は楽だから全然もってこいなのだ。

 それに比べて今置かれた現状はどうだ。安定性のかけらもない。常に危険と隣り合わせだ。もしも、ワタシが警察に掴まるようなことがあれば、おばさんは今いる職場の信頼を失い、仕事を失い最悪はおじさんの後を追う羽目になる可能性だってある。

 これだけ物事をいろいろ考えられる回転力を持っているのにもかかわらず、それを勉強方面では使う気にはなれなかった。理由はワタシにも分からない。ただ、辛いのは嫌いだ。苦しいのは嫌いだ。人生は楽しく楽に生きていくべきだとワタシは思っている。そうでなければ身が削れて生きているという実感がなくなってしまう気がしたのだ。

 今のワタシがやっていることはその安定的な生活に少しでも近づくために行うべきの最低限のことだ。そうでなければやらない。

 なるべく人の目に入らないようにコンビニの前を通らないように学校に向かう。人はもちろんだが生き物のというのは明るいところに集まる習性があるらしいのだ。理由は覚えていないが深海にすんでいる提灯アンコウとかが明かりを使って獲物を捕らえるのはそういう習性を利用しているからなのだ。

 コンビニの周りにはこの時間でも人がいるかもしれないと予想して大回りして中学校に向かう。

 あまり明るくない町のせいか見上げると広がるのは満天の夜空だ。冬は天体観測に適している。

「こういう日は家でのんびり布団にくるまりながら天体観測がいいな」

 そう星空を見上げながら誰にも会うことなく学校に到着した。

 ワタシもつい4,5年前まではこの中学校に通っていた。特にいい思い出があるわけでもなく嫌な思い出があるわけでもない。ただ、中学生という時間を過ごした場所だ。夜の学校というのは雰囲気がよく出ている。何か出そうだ。というよりかは何か出るから近づかないでくださいと言うサインが出ている感じがする。

 なんか入る気分じゃなくなってきた。元々、そういうホラー系はあまり得意ではない。プーのワタシが普段やっていることと言えば、ネット上に転がっているフリーゲームをやるくらいなのだが、そのフリゲにはホラーゲームももちろん転がっている。手を付けたことは一度もないがな。まぁ、遠い言い回しになってしまったが要するにワタシはホラー系統が苦手というわけなのだ。つまり、ワタシはこの夜の学校には入りたくないのだ。

 だが、このままではこれからのワタシの安定した生活を送ることが出来ない。

 行くしかない。

 正面の門をよじ登って越えて中学校の敷地の中に入り込む。その先には音も光もない闇の世界のような感じがした。まるでワタシの知らない鬼のような悪魔が住んでいるような気がしてならない。

 ありえないと言い聞かせながら持ってきた小型の懐中電灯で前を照らしながら、ワタシがこの敷地に逃げ込んだ時に降り立った校舎裏の自転車置き場に向かう。校舎裏というだけあって凍えるような空気がここだけが駐在しているようで鳥肌が立つ。

 しかし、ここまで来て引き返すわけにもいかずワタシは隣接する民家に足音が聞かれないように殺しながら進む。ワタシがこの敷地に降りた場所は校舎が出っ張っているところでワタシの進む先は影が出来ていて先が見えないところがある。そこから霊でも出てこないかと怯えている自分自身がバカバカしくなってしまう。

 実際に校舎の出っ張りの角に懐中電灯の明かりを灯したがそこには誰もいなかった。

「いたらやばいだろうな。ワタシが犯人だと勘付かれてしまうな」

 そんなことを冗談半分に呟きながら足元に懐中電灯を照らす。

 その時、敏感になっていたワタシの耳に入ったのは足音だ。雑に手入れされている校舎裏の地面には雑草が生えている。その雑草の茎を上から押し折る音だ。ワタシがこの影から幽霊が出てくるかもしれないと謎の警戒をしていた出っ張りのある校舎の影からだ。ワタシの後追うようにパキパキという音がゆっくりとこちらに近づいてきている。ワタシの全身の穴という穴から汗が噴き出る。

 こんな時間になぜ?誰が一体どうして?

 もしこれが警察だったら一発アウトだ。いい訳をして逃れることはできない。ワタシがいるのは殺人現場のすぐそばだ。「そこでこそこそ何をやっている?」か聞かれれば、「落としてしまった凶器を探している」なんて答えるわけにもいかない。言ってたまるものか。だからと言って納得のいく言い訳を言えるわけもない。

 ・・・・・・なら、やるしかないだろ。

 こんなこともあろうかと用意していたポケットの中のカッターナイフを手に取る。校舎に背を向けて隠れる。一目見て警察なら一突きで殺さないとワタシが犯人である証拠が残ってしまう。だが、こんなカッターナイフで出来るのか?やらなければならない。

 息を飲みその瞬間を待つ。だが、ワタシに近寄る足音が止まる。

 そして、声が聞こえる。

「そこにいるのは殺人犯さんかな?」

 その声でワタシは戸惑いを覚えた。それは明らかにあどけない子供の声だ。ワタシの想像していた凶悪犯を追いかけるために奮闘する警察官の声ではない。好奇心でこの場にいる気さえもする子供の声だ。

「いるのは分かってるんだよ」

 再び足音が近づいてくる。

「大丈夫。ボクはあなたの味方だよ」

 ボク。ということは男か。

 ただ、味方だと宣言されると逆に信頼することはできない。ワタシを惑わしているようにしか感じられない。

「証拠がなければ、ワタシは信じない」

「そう言わずに。あなたはすでにボクの言いなりになるしかない運命なんだよ」

「どういうことなのか。ワタシにはさっぱり分からない」

 まずいな。子供だと思って油断して声を出してしまったが民家がすぐそこだ。このままだとワタシがここに来たということがばれてしまう。

「ここだと犯人さんには都合が悪いかもね。民家が近いし」

「分かっているじゃないか」

「フフフ。だって、ボクはこれを見つけてからずっとあなたに会いたくてうずうずしてた。何も変わらないこの毎日にボクは飽き飽きしていたんだよ。同じくことを繰り返しているだけだとボクの心は腐り果てて死んでしまいそうだった。そんな時に起きた日常ではない出来事。ボクはうずうずが止まらなかったよ。ありがとう。犯人さん」

 そして、その声がついにワタシの目の前に現れた。

 懐中電灯に照らされたその子供の姿は見覚えのあるセーラー服に首元には紺色のマフラーを巻いた少女だった。真面目そうなセミロングの髪を結んで髪が耳にかからないようにしていた。小さな明かりで照らして少女の容姿はこんな夜中に歩くような雰囲気ではなかった。それよりも驚いたのは。

「お、女の子だと」

「お、男の人だ」

 一人称がボクだから男だと思った。少女は大きな瞳をして整った、つまりかわいいに部類される容姿をしている。いや、男と女を間違えたことに関しては今はどうでもいい。

 向こうもワタシの一人称のせいで性別を勘違いしていたようで戸惑っていたが、少女が向けたワタシに対する笑顔は年相応の天使のような輝かしいものではなく、悪魔のような不気味な笑みを浮かべる。

「やっと会えたよ。犯人さん」

 そういうと少女は肩掛けのバックの中からタオルに包まれた何かを取り出す。それを広げて出てきたものにワタシは驚愕した。

「な、なんで君が」

 少女の顔に明かりを開けると影が出来てさらに不気味に見えた。

「あなたとボクの立場はすでに確定しているんだよ」

 そういって刃物を取り出して刃をなめる。

 その少女の瞳はワタシと初めて遭遇したほんの数秒前とは全く違う奇妙な鬼のような眼だった。

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