ワタシ↔ボク
少女、山田はワタシの胸の中でワンワンと泣いた。整った顔立ちが流れ落ちてしまうのではないかと思うくらい泣いた。ワタシと少女、山田の周りを雲のように厚く覆っていた雲が晴れたように感じた。ワタシは勇気を振り絞り奇鬼眼に睨まれながらも逃げずに立ち向かった。その立ち向かう勇気を彼女にも伝えた。
ワタシは少女、山田が好きだ。
奇鬼眼だった時と普通でいるときのギャップのせいですごくかわいく見えてしまい守ってあげたいと思ってしまったのが原因だったのかもしれない。でも、彼女は誰かが守ってあげないといけない。そうしないとまた大きく道を踏み外してしまう。ワタシはそんな彼女をずっと見守っていく必要がある。
気持ち的に晴れていく橋の上でワタシが感じた違和感。何か怪しげな黒い雲が浮いているような感触だ。一雨来そうな何か嫌な予感がした。
「相葉さん」
「なんだ?」
「ボクをあげるよ」
「・・・・・はぁ?」
何が言いたいんだ?
「相葉さんの一人称ってワタシじゃん。それって女の子みたいだよね」
涙のせいで腫れた頬を押さえながら笑った。
「そういうお前も女の子のくせに一人称がボクだろうが」
「ハハ。そうだった」
お互いに笑うその光景は本当に眩しくて幸せそのものだった。でも、これも今だけだ。ふたりとも人を殺めるという重罪を犯している。これから長い長い牢獄での生活が強いられている。でも、ふたりならやって行けるそんな気がした。
「だから、ボクとワタシを交換しようよ。これが・・・・ワタシと相葉さんの形のある繋がりだよ」
形ある繋がり。一人称の交換。その気恥ずかしいのは赤くなった頬で目線を合わせようとしないその少女、山田の姿を見てワタシの胸が刺される。
「分かった。・・・・・ボクもお前と形のある繋がりが出来てうれしいよ」
心からそう思った。
「相葉さん」
「なんだ?」
少女、山田はくるっと一回転して笑顔をボクに振り分けてくれる。そして、今まで見た中で最も輝かしい笑顔で語る。
「ワタシ・・・・・幸せだよ」
「・・・・・ボクもだ」
本当に幸せだ。
だけど、それは本当に一瞬だけの幸せだった。
晴れたボクたちの視界を多く黒い影。その黒い影の中に不気味に淡く輝く赤色の光。それはまるで奇妙な鬼のような眼だった。
「そンな偽りノ幸せヲ許すもノか!!」
ボクが落としたカッターナイフを手に持ち切りかかるその鬼は取り立て屋だった。
「逃げ!」
ボクは少女、山田を逃がそうと手を引こうとするが鬼の動きは異常なまで早く鬼の握るカッターナイフを深々と少女、山田の首筋に刺さった。何が起きたのか分かっていない少女、山田は自分の首筋から噴水のように噴き出てそのまま力なく倒れる。ボクはそんな少女、山田を支える。刺さったカッターナイフは根元から折れて刃が首筋に埋まったままで流れる血が止まらない。
その血の量からボクは感じた。これが人の死なんだと。
「死ぬな!いっしょに罪を償うんじゃなかったのか!なんでこんなの・・・・・こんなのない!」
ボクは必死に血の出る首筋を押さえようとするが刺さったままのカッターの刃のせいで押さえれば傷口が広がり血がさらに噴き出て少女、山田は苦しそうに吐血する。
「ま、待っていろ!すぐに救急車を!」
慌ててケータイを取り出そうとすると少女、山田はその血だらけの手でボクの頬を撫でる。
「心配しないで・・・・・ワタシは大丈夫・・・・・だから」
それを最後にその手は力なく落下して手の中にいた少女、山田は人形のように動かなくなった。
何が起きたのか一瞬すぎて分からなかった。いっしょにこれから起こる地獄のような日々を乗り越えようと誓い合い一人称も交換したばかりの少女がボクの胸の中で死んでしまった。鬼だった彼女は鬼に解放された。しかし、鬼の呪縛は深く彼女の中に根付いてしまっていた。奇鬼眼は伝染して取り立て屋に乗り移り鬼となった。
奇鬼眼を従えた取り立て屋は少女、山田を殺して満足そうな顔をして動かなくなっていた。
すべては金が欲しいがために老夫婦を殺したのが始まりだった。凶器の刃物を落として、それを少女、山田に拾われて、脅されて、その少女を奇鬼眼を与えてしまい、少女の実の兄を殺してしまい、ボクを助けるために取り立て屋の手下を殺し、その奇鬼眼から少女を解放しても奇鬼眼は乗り移り少女を殺した。何人死んだ?一体自分のこんな軽率な動きだけ一体どれだけの人が死んでしまったんだ?
「ああ」
周りを見れば真っ赤に染まった血の海だ。
「アア」
そこに浮かんでいるのは動かなくなった人間。
「嗚呼」
その死体に直接手を下したのはふたりだけ。でも、その後に死んでしまったのは全部ボクのせいか?違うか?そうじゃない。全部、ボクのせいだ。あの日、金が欲しいがために老夫婦を殺してしまったら少女、山田は奇鬼眼を従えて人を殺した。そして、殺された。
バリン。
何かが壊れた。
「ああああアアアア嗚呼嗚呼ああぁぁぁぁぁぁ!」
叫ぶひとりの男はその血の海に映った自分の眼を恐怖した。
それはまるで奇妙な鬼のような眼、奇鬼眼だった。




