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桜の木の下で

作者: 紅葉

夕葉が書きました。

主人公が通っている学校は中間一貫校です。

第一話 冬

「……な……水凪!朝だよ……起きて!!!」

「……真沙くん?もう朝??」

突然カーテンの開く音がして光が溢れた。

よくみると真沙紀の整った顔が目の前にあった。

あいかわらず、しっかりと完璧に制服を着ている。

「今、何時?」

聞くとすぐに6時45分と返ってきた。

家を出るまで30分しかない。

「急がなきゃ……」

「うん、部屋の外で待ってるから急いで着替えて。はいこれ制服」

真沙紀は制服をベットの横にかけると部屋を出てドアを閉めた。


着替えてリビングにいくとパンの美味しそうな匂いがした。

お母さんがキッチンに立っている。

「おはよう」

「あら、水凪。遅かったじゃない?」

「うん……。真沙くん、いつからきてたの?」

「確か、6時過ぎよね?」

お母さんはソファーに座って新聞を読みながら、ニュースを見ている真沙紀に確認した

「そうですよ。お邪魔してます。」

「いえいえ、いつも来てくれてほんと助かるわぁ」

お母さんは真沙紀と話しつつトーストをテーブルに運んで来てくれた。


「水凪、頭あんま動かさないで。」

「う、うん」


優しく真沙紀の指が私の髪に触れる。


鏡をみるとさりげなく編み込んであって 可愛らしい髪型になっていて嬉しい。


「ありがと」


「どういたしまして」


春の光のように真沙紀は暖かく笑った。

一番、安心する笑顔だ。



家を出ると春なら桜並木が綺麗な住宅街を歩く。

10分くらい。


冷たい空気に吐く息が白い。


人がだんだん多くなって、背の高いビルが増えると駅に着いた。



空いている下り電車。

二人並んで腰をかけた。

電車のガタゴトという不揃いな音。

合わせて揺れる車体。


心地よい眠気が襲ってくる

「寝てていいよ。起こすから」



起きてからボーッと歩いていると教室についていた。

教室にはいる瞬間からいつも少し緊張する。

もう三年も桜稜学園の中等部にいて、このクラスで過ごすのはあと二ヶ月もないのにね。


小さく深呼吸。あまり効果はないけれど。


真沙紀のあとを追いかけるようにして座席まで行く。


そんな私たちを桜の大木が見守っている。





第二話 届かない声


机の中には、大量の紙。

書かれれいることは見なくてもわかる。

消えろ、シネ。

溢れんばかりの罵倒の言葉。


喉がしまって息が少し苦しくなる。

慣れているけれど。


物心ついた時には人前で声を出すことができなかった。


喉の奥にストッパーをかけられたみたいに声がでなくなるのだ。


私の声を聞くのは家族と、真沙紀だけ。


もう一度机に目を戻し、紙をぐしゃりと無造作に握りつぶした。


気がつくと真沙紀の笑顔を探していた。





第三話 決別


真沙紀が引っ越す。

その話を聞いたのは、夕食の席だった。

真沙紀と真沙紀の唯一の家族である真沙紀のお父さんはこの場にいなかった。


ミートソースのパスタを口に運んでいた手が完全に止まり、フォークが滑り落ちた。


ガシャリ


信じられなくて、信じたくなくて私は目を伏せた。


下を向くと頬に水滴が伝った。

涙などずっと前に枯れ果てていたと思っていたのに……。


どうして。


どうして行ってしまうの?


真沙紀のためにはここで私のお守りをしているのは時間の無駄。わかってるけど。


行かないで。


呟こうとした声は喉のおくに消えた。


「……っ」


ここには家族しかいない、それなのにどうして声が出てこない?




第四話 最後の夜


コンコン


ドアを叩く音がした。


「水凪?」


机の角を叩いて返す。


入ってきた真沙紀はいつもの笑顔を浮かべていなかった。


「……ごめんな」


ありがとう。またいつか。

ねぇ、最後にもう一度笑って。



柔らかく微笑んだ笑顔は春の光のようだった。





エピローグ


何回も春がすぎて。

その度に真沙紀を思い出して。


数日学校を休んでから一人で登校したあの日、はじめての友達ができた。


だんだん話せるようになって、友達が一人ずつ増えていく。


高校の卒業式。


他の子と同じように卒業証書を受けとって寂しいねって涙を流した。



見るのは最後になるかもしれない桜の大木。


その木に真沙紀は寄りかかっていた。


私の大好きな笑顔を添えて。












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― 新着の感想 ―
[一言] 悲しい物語でしたけど、最後は希望につながる、あたたかいストーリーでした。 ぼくもこんなふうな作品が書いてみたいです。
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