それは幼馴染を優先したからではなく
ご機嫌よう、モートル侯爵令息様。
まあ、名前で呼ぶ?まさか、婚約破棄した以上私達の関係はただの他人以下ですわ。慰謝料を請求しているので、債権債務関係もございますわね。
私には出来ません、そのような恥知らずなこと。貴方様の幼馴染ではあるまいに。
あら、気分を害しましたの?ですが事実ではございませんか。いくら幼馴染といえども、準成人になれば、お互い呼び方を改めますし、婚約者がいる異性には近づきません。名前で呼びあい、ベタベタと体に触れ、体調が悪いからと、医者でもない役に立たない幼馴染の異性を呼び、寝室に入れるなど。
幼いころの習慣?手を握ると落ち着く?
まあ、16歳の女性が?そのようなこと、私の5歳の弟でも私がしようとすると恥ずかしがりますわ。まさか、精神のご病気かしら。ご存知の通り、我が公爵家は薬分野を独占しておりますから。被験体になるかと記録を調べたところ、お身体は全く、どこにも不自由は見当たりませんでしたもの。
あら、どうなさったの?まさか、本当にあのような見え透いた嘘を信じていた?
.....まあ、どちらでも今の私には関係ございません。そろそろお帰りくださる?
え?謝る?何についてでしょう。はあ、幼馴染を優先し、夜会の途中で私を置いて彼女の家に行ったこと。
どういたしまして。ではお帰りくださる?
.....まだ何かございますの?は?これからは私を優先する?これからも何も。貴方との婚約はそちら有責で破棄しておりますので、これから、はございません。
何より、先程の謝罪で再確認いたしました、婚約を破棄してよかったと。
何故って、大事な判断を間違える無能は我が公爵家には不用ですから。そうそう、ついでにお礼を言わなくては。私の婚約者選びという「大事な判断」を間違えた父は、失態の責をとり、親族会議の結果、兄に家督を譲りましたの。兄は優秀ですから、以前より声はあったのですが、なかなか父は応じず。良い機会となりましたわ。
話を戻しまして、貴方様はあの日、夜会という事業機会と社交のメリットではなく、私情で幼馴染を優先する判断をしたのです。事業の機会をドブに捨て、自らが婚約者を粗末にし愛人に駆けつける判断をするような愚者であることを社交界に晒したのです。
え?愛人ではない?まあ、寝室に入ってそれは通用しませんわ。事実より、周りがどう合理的に判断するかですから。とにかく、周りからバカにされる行動をとった貴方を婚約者にしておくわけにはいきませんでしたの。
まあ、そんな勘違いを?まさか、私、全く貴方に興味はございません。父が持ってきた縁談を受け入れただけですわ。
慰謝料を取り下げ?何故です?貴方は、最高級のダイヤとして差し出されたものが屑ガラスだった場合、どうしますか?
そう、貴方様以外にも婚約者候補は複数おりました。我が家が求めた基準は「公爵家を最優先できる人物」であること。遠方で大型の事業がまとまるのであれば親の葬式より優先し、自身の幸福より公爵家の金銭を含めた利益を優先すること。
貴方様は御母堂が亡くなられており、お父様と疎遠で寮生活をされていた。我が家はこの方針を隠しておりません。貴方のお父様は釣り書きにて自分の葬式より公爵家を優先させると強く仰ったので父も貴方様を選んだのです。
そうですか、お父様からは優先するよう、言い含められていたのですね?抽象的な話だと思っていた?まあ、人の忠告も思い込みでなおざりにしたり、自身で調べないなど、やはり能力不足であると婚約段階でわかって良かったのですね。
お帰りくださいますね?私、次こそ公爵家の益になる婚約者を選ぶため、この後兄と複数の候補者候補とお会いする予定なのです。
ああ、それと、貴方様は多いと思われたのかもしれませんが、慰謝料は最小限にしておりますわ。兄にとっては良い機会でしたから。え?わざと自分を婚約者に選んだ?いいえ、何のことだか、言い掛かりですわね。婚約を決めた時期、寮生活をされていた間は流石に幼馴染の呼び出しがなかったのでしょう?ですからたまたま素行調査に引っ掛からなかっただけですわ。さあ、お帰りください。今日の面接に、貴方のお名前はございませんから。
あら、お兄様。
先程?ええ、いらっしゃったわ。
モートル侯爵令息。お名前は何と言ったかしら。先程も本人から名前で呼ぶよう言われ、内心焦りましたわ。無用な者の名前なんてもう忘れてしまって。婚約期間は流石に覚えていたのだけど。まあ、支障はございませんよね、以前お兄様のことを夜会でバカにする発言をご友人にしていたから「今回のため」に選んだだけですもの。お父様、もしかして釣り書きから選ぶ時、私がお兄様をバカにした男を許す気がなくて、モートル侯爵令息はどのような方か尋ねたのを勘違いしたのかしら?公爵家のためなら誰でも良かったけれど、罪悪感を抱かず済む相手であれば、今回のことにはちょうどいいから黙っておいたけど。
さ、お兄様、本命の候補者候補の方を待たせている客室へ参りましょう。私達は最良を選ばなくては、この公爵家、領民のために。




