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残る

※この作品は、

「好きです」と言わないための練習会の記録です。

会話と沈黙が中心になります。


朝、窓を少しだけ開ける。

外の空気が、部屋に入ってくる。


冷たくもなく、

暖かくもない。


ちょうどいい、

と言えるほどでもない。


カーテンが揺れる。

それを見ているうちに、

時間が少し進んでいた。


急ぐ必要はない。

遅れて困る予定もない。


机の上は片付いている。

片付けた記憶は、あまりない。

ただ、

物があるべき場所にある。


それだけだ。


コーヒーを淹れる。

香りが広がる。

深く吸い込むほどではない。


一口飲んで、

カップを置く。


まだ少し熱い。


外に出ると、

街はいつも通り動いている。


人は歩き、

信号は変わり、

店は開く。


その中にいても、

自分がどこに属しているかを

考えなくなった。


考えなくても、

問題が起きない。


誰かとすれ違う。

目が合う。

すぐに逸れる。


それで十分だ。


昼、

短い用事を済ませる。


名前を書く。

確認を受ける。

受け取って、帰る。


必要な言葉だけが使われ、

それ以上は、発生しない。


夜になる。


部屋の照明を落とし、

窓を閉める。


外の音は遮られ、

中は静かになる。


その静かさに、

慣れてしまっていることに気づく。


慣れた、

というほどでもない。


ただ、

違和感がない。


布団に横になり、

天井を見る。


今日、

何も言わなかった。


それを、

良いとも悪いとも思わない。


言う場面がなかったのか、

言わない場面を選んだのか。


区別はつかない。


目を閉じる。


呼吸は、

最初からこの速さだったような気がする。


眠りに落ちる前、

ふと、思う。


もう一度同じ場所に戻れるかどうかは、

分からない。


悲しくはならない。

ただ、少しだけ、戻れない。


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