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好きですと言わないための練習会―― 消える

※この作品は、

「好きです」と言わないための練習会の記録です。

会話と沈黙が中心になります。


最近、予定を入れなくなった。


忙しくなったわけではない。

断る用事が増えたわけでもない。

空いている日が、そのまま空いている。


それで困ることは、特にない。


連絡が来ても、

すぐに返さなくなった。


返さない、と決めているわけではない。

返す前に、

返さなくても成立することに気づく。


気づいてしまうと、

指が止まる。


画面を閉じて、

机の上に置く。


それだけだ。


夜、窓を開けると、

遠くの音が入ってくる。


車の走る音。

どこかで閉まるドア。

名前の分からない生活音。


それらが、

一つの流れにならず、

ばらばらのまま通り過ぎる。


まとめようとしない。


以前は、

何かが足りないと感じると、

言葉を探していた。


今は、

足りないかどうかを

確かめなくなった。


確かめないまま、

一日が終わる。


朝、

クローゼットの前で立ち止まる。


着る服は、

どれでもいい。


選ばない、という選択が、

自然に出てくる。


それが、

癖になっていることに、

少し遅れて気づく。


気づいたからといって、

直そうとは思わない。


昼休み、

誰かが誰かの噂をしている。


言葉ははっきり聞こえるのに、

内容が頭に残らない。


関係がどうなったか。

何を言ったか。

何を言われたか。


どれも、

今の自分には関係がない。


関係がない、

という言い方も、

正確ではない。


ただ、

そこに入っていかない。


帰り道、

街灯の下で立ち止まる。


影が、足元に落ちる。


踏み込めば、

簡単に形が変わる。


それをしないまま、

少しだけ眺める。


変えないことが、

こんなに楽だったかどうか、

思い出せない。


家に着く。


鍵を回し、

扉を閉める。


音が、

最後まで鳴るのを聞く。


それで、一日が終わる。


何かが終わった、

という感じはしない。


始まった、

という感じもしない。


ただ、

戻る場所を

特定しなくなっただけだ。


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