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好きと言わないための練習会 ――同じ確認

※この作品は、

「好きです」と言わないための練習会の記録です。

会話と沈黙が中心になります。



【昼】


開始時刻ちょうどに、全員が揃っていた。


「では、始めましょう」


彼女は名簿を開く。

欠けた名前を、読み上げない。


「今日の内容は、前回と同じです」

淡々と言う。

「特別な議題はありません」


ホワイトボードには、すでに書かれていた。


――前回以降、何か起きたか。


「連絡を取った人はいますか」

「言ってしまった人はいますか」

「関係が変わった人はいますか」


問いは順番通りに並ぶ。

誰も、途中で遮らない。


「いません」

「特に」

「変わってません」


答えも、いつも通りだった。


「確認できました」

彼女は頷く。

「では、次です」


次、という言葉に、少しだけ間が生まれる。


「……あ、同じですね」

前の席の人が言う。

「前回と」


「そうですね」

彼女は肯定する。

「同じです」


それ以上、説明はしない。


沈黙が落ちる。

以前より、短い。


「では」

彼女は言う。

「“言わなかったことで維持されたもの”を挙げてください」


数秒後、誰かが口を開く。


「日常」

「距離」

「平穏」


言葉はすぐに出た。

考える前に、反射的に。


「他には?」

彼女が促す。


しばらくして、もう一つ。


「……この会、ですかね」


一瞬、空気が止まる。


彼女は、その言葉を否定しない。

肯定もしない。


「記録します」

そう言って、ホワイトボードの端に小さく書いた。


――会の継続。


中央には置かない。

囲いもしない。


「以上です」

彼女はペンを置く。

「今日はここまでにしましょう」


解散。


椅子が引かれる音が、重なる。

誰も、振り返らない。



【夜】


玄関の鍵を閉めたとき、

指先が少しだけ冷たかった。


靴を脱ぎ、電気を点ける。

部屋は、いつもと同じ明るさ。


コートを脱いで、椅子に掛ける。

その動作が、少しだけ遅れる。


理由は、分からない。


会で何を話したか、思い出そうとする。

途中でやめる。


同じだった、という感覚だけが残る。


机の上に、ペンが一本置いてある。

昼に触ったのと、同じ種類。


手に取る。

冷たさは、もうない。


そのまま、置き直す。


何も起きていない。

それは、確認した。


それなのに、

家に帰るまでの時間が、少し長かった。


時計を見る。

まだ、夜と呼ぶには早い。


電気を消す。

暗さは、ちょうどいい。


横になると、

体のどこかが、まだ会議室に残っている気がした。


考えようとして、やめる。


息を吸って、吐く。

それだけで、今日は十分だと思った。


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