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好きと言わないための練習会 ――他人の分岐を知ってしまう

※この作品は、

「好きです」と言わないための練習会の記録です。

会話と沈黙が中心になります。


夜、スマホを見ていて、ふと手が止まった。


タイムラインの隅に、

知っている名前が流れていく。


引っ越しました。

環境が変わります。

しばらく連絡取りづらくなります。


それだけの文章だった。


会で聞いた話が、

遅れて追いついてくる。


欠席者。

連絡がなかった人。

「相手の人生を乱したくなかった」と書き残した人。


画面を閉じる。

関係ない。

偶然だ。


そう言える距離にいるはずなのに、

胸の奥が、勝手にざわつく。


他人の人生は、

こちらの都合を待ってくれない。


言うか、言わないか。

迷っている間にも、

世界は淡々と更新される。


もし、あの人が一言だけ言っていたら。

もし、相手がそれを知っていたら。


そんな仮定は、

もう意味がない。


分岐は、起きた後にしか見えない。


自分は、

何もしていない側だと思っていた。


でも違う。


何もしなかったことで、

「この分岐を選んだ側」になっている。


他人の選択が、

自分の沈黙を照らす。


怖いのは、

相手が幸せそうなことじゃない。


自分が、

その幸せに関与できなかった事実だ。


関与しなかった。

正確には、

関与する資格を、自分から手放した。


布団に入る。


世界は、

誰かの勇気と、

誰かの沈黙で、

同時に進んでいく。


その両方が、

正しい顔をしている。


目を閉じると、

あの会議室の空席が浮かぶ。


誰も責めない。

誰も裁かない。


それでも、

分岐は確かにあった。


それを知ってしまった夜は、

もう元には戻れない。


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