第1話 転生
召喚された勇者が亡くなった!
これには王宮中に激震が走った。
それというのもこの『勇者召喚の儀』。
そうおいそれとは行うことができないほどの大規模魔術であった。
一に儀式を行う日程。いつでも良いというわけではもちろんなく、満月の、良く晴れた夜であること、その他細かな条件も併せると数カ月に一日、それもほんの数分の間しかチャンスは無い。
それ以外にも、儀式には膨大な魔力を要することから国の魔法士をかき集めても足りるものではなく、魔法を発動するための触媒、言うなれば魔石などのアイテムも国宝級のものを複数個使用しなければならない。
流石に生贄を要する、というわけでは無いが、一度儀式を行ってしまった以上、次にできるのはいつになるのか、また数カ月の間待たなければならないのだ。
今回の国王からの勅令もこのタイミングを見越してのものだったわけで、今回の失敗が人類の未来にどのような影響を及ぼすのか、あまり良い未来は想像できない。
そしてそれは現実となる。
儀式失敗からほどなく、王国は滅亡した。
このまま人類は滅ぼされるかに思われたが、グランドゼーレ王国に次いで魔王軍に最後まで抵抗を続けていたエルフの国、森の都ユグドラシルの魔法師団が自らの生命をも犠牲にして魔王に対し封印魔法を発動させたことで魔王軍は統率を失い、人類は生きながらえることができた。
しかし、この時には人類の国家は全て滅ぼされており、僅かに残った人々は或る一団は城塞都市を、また或る一団は自然洞窟を、という具合に、魔物の脅威から逃れるべくコミュニティーを形成し、残った魔王軍の残党と互いの生存を懸けて争いを続けていた。
それから10年の歳月が経った。
人類と魔王軍との争いは未だ続いており、終結の気配はないものの、それでも人々の暮らしは安定を取り戻しつつあった。
とは言え、未だ国家と呼べるほどのものは復旧されぬままではあったが、人々が築き上げたコミュニティーは大陸全土で20を数え、それらコミュニティーほど大きなものではない人々の集落も併せると、人類の生存圏は格段に増したと言えよう。
それでも一歩、城壁から出るとそこは魔物にいつ襲われるかも知れない危険地域ではあったが、コミュニティー内だけで人々が生き抜いていけるだけの資源を賄いきれるはずもなく、人々は危険を冒してでも危険地域へ資源の採集に向かうのだ。
そんな危険を冒して危険地域へ踏み出す者を人々は『冒険者』と呼んだ。
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気付けば森の中に居た。
わしは、どうしてしまったのじゃ・・・
勇者召喚に巻き込まれ、見知らぬ地で息を引き取った英雄、剣聖ガイウスは呼ばれた地で新たな生を授かった。
それも、どうやら普通に両親が居て、産院かどこかで産み落とされたわけではないらしい。
気が付いた時には森で一人であった。
いや、最初から一人だったわけではないらしい。
いまいちあやふやな記憶ではあるものの、何者かに見守られてきたような気がする。
その何者かだが、一応あのスキンヘッドの女神ではなかったことは確かだ。
なお、どうやら今の年齢は10歳かそこらのようで、服装は前世ではドレイが着ているような麻の服(頭からすっぽりかぶるタイプで長さは膝くらいまで)を着ていることは分かった。なお、年齢は周りの木や草などから凡その身長を推察してのことで、10歳くらいかなというのも相当適当な予想であることは付け加えておく。
そして、今までどうしていたのか、何を食べていたのか、そもそも転生?してどれくらい経つのか、今の自分は何者なのか、まったく情報が無い。
せめて鏡か何かでもあれば多少は確認できることもあろうが、如何せん森の中にそのような便利なアイテムは存在しない。
とまぁ、こんな状況で自意識が覚醒してきたわけであるが、こんな森の中でじっと考えていても仕方がないということで、とりあえず森の出口を目指して歩いてみることにした。