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道化

『道化』

それは、人間も営みが分からない自分が、人間と繋がる唯一の手段でした。

それは、人間を極度に恐れていながら人間をどうしても思い切れなかった必死の、(あぶら)汗をながしてのサービスでした。

何でも良いから、笑わせておけば良いのだ。

それは、自分の、人間に対する最後の求愛でした。

「私は、作っているような貴方が嫌いです」

道化は、自分が人間と繋がる唯一の手段でした。

自分が人を騙していると気付いた時、

「嫌だ、道化(これ)がないと!」

その時の人間の怒り、復讐は、まぁどんな感じでしょうか。

「、、、で、見ないで、、、」

ビシッ、ビシッ。何かが傷付く音が聞こえてきました。何処へ言っても、聞こえてくるのでした。


もはや、自分は人間ではなくなりました。


「はぁ、退屈だ」

割った姿見に寄りかかり、腕を頭に乗せて濁った空を見上げました。星は見えません。

「早く誰か来ないかな、、、」

広い部屋には、自分以外誰もいません。親も、友達の姿すら。

部屋にはカーペットが敷き詰められており、そこに少し破けたソファがあるだけでした。あとは自分で割った姿見と、床に散乱する難しそうな本。

窓もなければ扉もない。でも、これで良いのです。


「、、、あの」

久しぶりに誰かが来ました。前回の人から十数年近く経ったのでしょう。自分は、変わらず学生の姿のままでした。

「初めまして」

今度こそは上手くやろうと、思いました。やっと出来た、ずっと待ち望んだ話し相手なのです。

結愛(ゆら)、、、です」

「僕は、葉蔵。、、、見てよ、この完璧な笑顔!」

だから、だから、、、

自分を、僕を、否定しないで下さい。

「ちょっととぼけてみせるだろ?そしたら家族も友達も先生も、プッと吹き出しドッと笑い出すんだ」

嘘をつくならウンと可笑しいやつ。笑えないのはナンセンス。皆、僕に騙されて笑って笑って、道化師は笑われてこそ輝くんだから。

「共感、称賛、称賛、共感、拍手、拍手、拍手、拍手」

彼女の手を取ってクルクルと踊る。おぼつかない足取りの彼女を支えて、回る。

「友達も僕のこと天才だって褒めてくれる。滲み出ちゃう才能?センス?仕方ないよねぇ。こんな天才、偉い人達もきっと放っておく訳ないじゃん。いや〜、これ以上人気者になったら、困っちゃうな〜」

「あの、、、」

心配そうに、悲しそうに僕を見る彼女。どうして、そんな顔をするの?面白くなかった???

「あ、貴方は、、、どうして、、、泣いているの?」

泣いてる?誰が?僕が?、、、ハハ。そんな訳ないじゃん。泣いていたら道化師になんかなれない。それとも、面白くなかった?面白くないなら言って。ちゃんと面白くするから。だから、君は僕から離れないで。

何となく、分かる。彼女を逃したら次の話し相手が見付かるまで何年も待たなくちゃいけない。前回もそうだった。一人は寂しい。逃がさないように、彼女が離れていかないように、、、。

「、、、」

ああ、どうでもいいや。

なーんも、したくない。

誰か僕の生きる意味を教えてよ。

生まれた時から僕の居場所は何処にもない。共に果てようとも自分だけ生き長らえて、心にあるのは罪悪のみ。

他人を騙して自分を誤魔化しても、誰も僕のことなんて本当に見てくれない。本当に愛してくれない。

だったら、いっそこのまま―――

「貴方は、天才ですよ」

「、、、!?」

初めてだった。澄んだ瞳で僕を見つめる彼女は、紛れもなく僕のことを『天才』だと言ってくれた。

本当に?本当の本当に?

僕が、天才だって?僕のことを、ちゃんと見てくれるの?

やっと、会えた。これまで何十人の人と、この部屋で会ってきたが、天才だと言ってくれたのは彼女が初めてだった。

天才だと、そう言い切る彼女の表情には嘘なんて感じられなかった。嘘ばかりの僕には絶対に出来ない表情。

ああ、彼女のその笑顔がとても美しく、そしてとても妬ましい。

彼女は僕の本を読んでも、そう言ってくれるのだろうか?

僕のことを見捨てたり、しないのだろうか?

いや、彼女は絶対そんなことはしない。

僕の傍でずっと、この部屋で永遠に生きてくれる。

ねぇ、結愛ちゃん。

「上手くおどけて魅せるから、笑ってよ」

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