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きっかけは首を寝違えたから

首を寝違えた。

我ながら芸術点の高い寝違え方である。道行く人が振り返る程に、、、。私は首に細心の注意を払いながら、慎重に制服を着た。

もうすぐ夏休みだからか、「夏休み何処で遊ぶ?」「海行きてー」なんて声がちらほらと聞こえる。

まぁ私は暑いのに態々(わざわざ)、外に出たくないけど。そもそも一緒に行く相手もいないし。

県外の高校に進学したからか、中学の時に仲良かった子は皆、別の高校に進学した。つまり、高校生活で仲が良い子は出来たにしろ、広く浅くみたいな関係なので、海に遊びに行く程ではない。

でもまぁ、居心地は悪くないしそこそこ仲が良いので良しとする。せっかくならアニメみたいな青春を謳歌(おうか)してみたかったな。

教室に入ると、何人かに私の素晴らしい角度の首を見られたが、笑って誤魔化して席に着いた。

すると、向こうから私の方向に誰かやって来た。

あ、あれは、、、

うーちゃんこと季肋(きろく)くん!一文字も被っていないが、、、!!こ、こんな首寝違え四十五度民の私に何の用が、、、!?

「その首は寝違えたのだろうか?」

「あ、はい」

「そうか、なら失礼する」

え、何に失礼するの???

その瞬間、肩をがっちりと押さえられ、肩の下辺りに激痛が走った。

「痛ったぁぁ!?」

「突然触ってしまってすまない。ここには天容(てんよう)と呼ばれるツボがあるそうな。そこを刺激することによって寝違えの痛みを解消しようと思ったのだが、、、どうだろうか?」

そう言うとうーちゃんは私の体から手を離した。あれ、、、さっきより動く。凄い、、、けど、やるならやるって言って欲しかった。

「、、、、ふ、あまりにも凄い角度だったから」

そう言って、うーちゃんは足早に立ち去っていった。今度お礼しに行こうと思ったが、変に近付いたらファンクラブの人達に斬られそうで怖い。今回は見るに堪えない首をさっさと治してほしくての親切心なのだろう。

そう思い、首を治してくれた恩はあるが、私はあまりうーちゃんと関わらないようにした。

はずなのに。

「ハックショイ!ハックショイ!」

「体を冷やしたんじゃないか?ブランケットを貸してやろう」


「う、、、、お腹いだい、、、、昨日食べた生牡蠣(かき)に当たったんじゃ、、、、」

「正露丸も飲むか?」


「頭、、、、低気圧恨む」

「ツボが(略)」

いつの間にか私が体調を崩す度に彼は私の世話焼くようになっていた。毎回近いし、毎回いつの間にか現れてスマートに世話して、私の顔をじっと見て、どっか行ってしまう。



2ヶ月が経った。

とうとう夏休みが始まってしまった。ひとり自室で勉強に勤しむ私は、そろそろ飽きてきたなと外を見る。空にはお線香のCMで見たような綺麗な入道雲が。

「あー、アイス食べたい」

今、己が放った言葉を頭の中で復唱してからギョッとする。おいおい、正気か?

今、外に出たらぶっ倒れてしまう。私には分かる。最近はコンクリートやボンネットで目玉焼きが作れるそうな、、、、じゃあ私、目玉焼きと同じ末路を辿るの?人間としての威厳が、、、、。

、、、、腹減った。甘いもんが食べたい。

意を決し、母にお使いを頼む。

「自分で買いに行きなさいよ」

「高い、暑い、面倒くさいの三コンボが揃ったから、、、、」

「業スー行きなさい。業スー」

押し出されるように外に出される。

わお、暑い。

暑いというかもはや痛い。全身がヒリヒリする。

ヤバい、日焼け止め塗るの忘れた、、、、。

いや、日焼けなんて生優しいものじゃない。これは直射日光のヤキ入れだ。夏の右ストレートを食らった私の脳は、まともな思考を放棄していた。

そういえばうーちゃん、何でいつも私の世話を焼いてくれているんだろう。そんなに頼りないかな。

ああ、、、、、、、、ぼんやりとうーちゃんの姿が見えてくる。

仕方ないか、二ヶ月も至近距離でお世話?されていたんだから。(度々命の危険も感じたが)

出来れば会いたくない。もし今、会ってしまったら気絶する自信がある。そして目玉焼きになって―――

ん?

んん?

あれ、うーちゃんの顔がはっきり見え、、、、

あ、ご本人様だ。幻覚じゃなかった。

まずい、これはマジでまずい。目玉焼きにはなりたくない。

「あみ?」

終わった、、、、

「、、、、、、、、」

「あ、アハ、、、、どーも」

まぁ、今からでもチャンスはある。

私は『あくまで知り合いが通っただけですよ感を出していこうぜ』作戦を開始した。そそくさ〜と、あくまですれ違った知り合いですよ〜と。

なるべく小走りでその場を後にしようと、彼の横を通り過ぎようとした。

が、それは叶わなかった。

「あみ」

彼が私の腕を掴んだからである。

「こっちに来てくれ」

「え、何?何???」

こちらの疑問にも疑問も聞かず、うーちゃんは公園の木陰に私を座らせると、「少し待っていてくれ」と言い、何処か行ってしまう。

うーん。私、何かやらかしたか?そもそも脳がまともに機能していない。原因はオーバーヒートだろう。


「暑い中、待たせてすまない。ほら、アイスを買ってきたぞ。いくらでも食べて良いからな」

「何この量!?」

うーちゃんの両手にぶら下げられたビニール袋には、大量のアイスの数。シャキシャキ君やら雪見大福やあずきバーなど。紙袋から飛び出るフランスパンはオシャレだと思うが、ビニール袋から飛び出るアイスというのは、、、、初めて見たかも。

「アイス以外にも冷たい飲み物もあるからな、遠慮することはない」

有り難くアイスを一本貰う。バニラのまろやかな口当たりが良い。

そこで、ずっと疑問に思っていたことを聞いた。

「何で、私の世話を焼いてくれるの?」

「、、、、」

珍しく反応がない。驚いて彼の方を見る。

するとそこには、真剣そうに私を見るうーちゃんの顔があった。

「君が、僕を助けた時のことは覚えているだろうか、、、、?」

「え?」

文化祭の準備に追われていた時、僕が廊下で倒れたことがあっただろう。と覚えのない顔をしている私に、思い出せと(すが)るように話し出す。

そういえばそうだった。

私が文化祭の準備で働いて疲れて、旧校舎で昼寝でもしようと廊下を歩いていたら、うーちゃんが落ちてきたからパニックになったんだっけ。

でも人命救助の方が先だから(死んでない)急いで、うーちゃんを引きずるようにして保健室に運んだ。男子高校生を運ぶのはかなりの労力を必要とする。

「あの時、僕が目を覚ましてからあみと会話しただろう」

『あはは!うーちゃんみたいな人でも激務で倒れるんだ!今まで近寄り難い雰囲気の人だと思ってたけど、案外優しいんだね!』

『え?』

『だって、みんなの為に倒れるまで頑張ってくれたんでしょ?無理は良くないけど、、、優しいんだなって』

「僕のことを褒める人は何人かいた。皆、外見だけで判断して、異様に美化するのがお決まりだった。だけど、あみは僕のことをよく見てくれ嬉しかったんだ」

彼は恥ずかしそうに頬を赤くし、目を逸らしながら続けた。

「その時、あみのことを好きになってしまったんだ」

時が止まったような気がした。

うーちゃんは何て言った?

フリーズしている私を置いて、うーちゃんは話を続ける。が、口元を手で押える彼の白い肌は真っ赤に染まっていた。目が泳ぎまくっている。

「あみの笑顔に惚れてしまって、またあの時みたいに笑ってほしくて、それであみを喜ばせようと、、、、」

「え、えっと?」

未だ混乱してい私にしびれを切らしたのか、私の肩を掴む。

「あみが、、、、好きなんだ!僕と、付き合ってくれないか、、、、?」

「あはは!何だ、両想いだったんだ!」

「え?」

変に思い悩むことはなかった。何だかスッキリした。

「あみ?」

「いや、すごい顔して告白してくるもん!」

「む、あまり揶揄(からか)うな」


アイスはもう、溶けていた。

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