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(4)帰忌日

ガルヴェインが「話は長い」と言った通り、国王の逝去、ルシェル殿下の暗殺未遂事件だけに話は留まらなかった。


ルシェル殿下は国王にふさわしくない、とする叔父バルモント公爵勢力の言い分は、まずルシェル殿下の体調への懸念だ。父王と同じように幼い頃から身体が弱く、いざという時に倒れられては公務が行えないという主張だ。

そしてもう一つは、即位式の際に王位を継ぐ者が玉座の間で行う[聖光降臨ルクス・ディヴィナ]という儀式があるのだが、これは王族のみが使える光魔法を駆使した重要なもので、この魔法を使える者こそが新たな王と認められることとなっている。しかし、彼等は現在ルシェル殿下は行使できないと主張していた。


「僕、実はまだ魔法が使えないのです…」


王族をはじめ、貴族も皆魔法使いの子孫であり、基本的に魔法を扱えるのが当たり前なのだが、長い年月を経て子孫たちの魔力は低下の一途をたどり、今ではエヴァリスほどの使い手はほんの一握りとなってしまった。


「バルモント公爵の背後には、エヴァリス、お前の後釜に座った男がいる」

「…ノクスフェルか」


エヴァリスは面識こそないがその名前は知っている。ノクスフェル・ダスクレイン。闇魔法に長けた実力者であると聞いていた。

エヴァリスの後釜ということは、【王の神秘顧問】兼【王国魔術師団司令官】という、魔術師としての最高権威を与えられているのだろう。

そして彼の指導の元にバルモント公爵はもちろん儀式を難なく行える。つまり、現在最も王位を継ぐに相応しいのはバルモント公爵である、というのが彼等の主張なのだ。


「とりあえず、ノクスフェルが関わっているのなら強固な守りを張ったほうがいいな…」


エヴァリスは話を聞くや立ち上がり、嵐となった暗闇の表へ出ていく。

気になったガルヴェインとルシェル殿下もその後ろから様子を見守っていると、強風吹き荒れる庭先に出たエヴァリスが、ローブをはためかせながら天に向かって手を掲げると、屋敷を囲む薄い幕のようなものが一瞬輝いて見えた。次の瞬間、元の嵐の夜に戻ったのだが、戻ってきたエヴァリス曰く、

「この屋敷は庭を囲む石垣の向こう側から隔絶された場所へ移動した。見た目は変わらないが我々も石垣の外には出られないようになっている。反対に石垣の向こう側からは屋敷を認識できず、かつ侵入することも不可能だ」そうだ。

そして、エヴァリスは再び椅子にどかりと座ってガルヴェインに問いかける。


「さあ、これでひとまず私と隠匿する分にはいくらでもできるようにしたぞ。今日は《帰忌日(きこにち)》だしな。帰ることはできない。とはいえ、ルシェル殿下はいつまでもこんな場所に隠れるつもりではないのだろう?」

すると、この問いに答えたのはガルヴェインではなく、ルシェル殿下自身だった。


「エヴァリス殿。貴女にお願いがあります。僕、いえ私に魔法の手解きをしていただけないでしょうか?」


エヴァリスはふふん、と鼻を鳴らした。きっと、そうくると思っていたのだろう。ガルヴェインの考えそうなことだ。

エヴァリスはまず政治に興味がなく、現在どんな勢力とも繋がっていない。また、ガルヴェインの旧知の友人だ。その上、このひ弱な殿下に魔法の手解きをできるのは、もはや敵方となった【王の神秘顧問】以外に数えるほどしかいないだろう。その中の一人は間違いなくエヴァリスだ。

つまり、魔法を習得した暁には王位を継ぐ算段があるということだ。


「ルシェル殿下の祖父君であられる先々代王には恩義がある。だから貴方を匿った。だが、魔法をお教えするというのは話が別だ。それに見合う対価を払っていただきたい」


慇懃無礼な言い方にガルヴェインが心配そうにルシェル殿下を見やる。だが、殿下は臆せず、真っ直ぐにエヴァリスを見据えた。

「どのような対価かにもよりますが、私としてはできうる限り貴女のご要望にお応えしたいと思っています」

たった十歳のひ弱な皇太子。だが覚悟の決まった顔つきにエヴァリスは笑った。

「私はこの国から出ることを禁じられています。先々代国王は、私がこの地に隠匿するのを許す代わりに、国外への移動を制限されました。魔術師が他国へ渡り、この国の脅威になることを恐れたのです」


先々代王の判断は賢明だった。

当時、各国との戦争は度々あったが、ブランタメイアほど魔術師を多く輩出している国はない。だが、年々魔術師が減り、その魔術も衰えていく。だからこそ、ブランタメイアの強みであった魔術の流出はなんとしても避けたかったのだ。

「私はね、殿下。一度でいいからヒノモト国へ旅してみたいのです。素朴で信仰深く、しかもわが国とは違う価値観、宗教観で物事を見定める国。彼の国は近年文明開化で目まぐるしく様相が変わっていると聞きますが、私はその前にできる限り彼の国の古き良き風習を見てみたい」

先程まで威圧するような眼差しを向けていたエヴァリスは、まるで美しい景色に見惚れるように、うっとりと彼方を見て言った。


「私に、ヒノモト国へ旅をする自由をください」

今日の夜、もう1話投稿する予定です

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