表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/9

第9話 ラッシー

「キキッ! (オッス!)」


「おはよう! ルス!」


 朝になり目を覚ましたエリアス。

 ベッドから降りると、すぐに近くのテーブルの上に目を向ける。

 そのテーブルには小さいバスケットが置かれており、その中が小猿のルスの寝床になっている。

 バスケットから顔をのぞかせたルスが、片手を上げて朝の挨拶をすると、それが通じたのかエリアスも挨拶を返した。


「ごちそうさまです」


「キキッ! (ごちそうさん!)」


 朝の支度をして両親と共に朝食を終えたエリアスは、手を合わせて挨拶をする。

 エリアスの近くに設置された小さなテーブルの上に座り、出された食事をしていたルスもお腹いっぱいになったのか、食事を持ってきてくれていたメイドに頭を下げてテーブルの上から飛び降りた。


「エリアス様。この後は学習のお時間です」


「うん」


 食事を終えたエリアスが席を立つと、執事のサカリアスが声をかけてくる。

 公爵家の三男であるエリアス。

 その爵位に見合った知識や礼儀が必要となる。

 そのため、毎日のように数時間の学習の時間が設けられている。

 今からその時間のようだ。


「……ルス。僕が勉強している間はどうする?」



 エリアスは肩に乗っているルスに話しかける。

 学習の時間は相手をしていることができないため、ルスにはその間自由にしてもらおうと思ったためだ。


「キキッキキキッ! (暇だから邸の中を見て回ってるよ)」


「んっ? 庭?」


 来たばかりで、まだ邸の全てを見て回ったわけではない。

 そのため、どこにどんな部屋があるのかを把握するためにも、ルスは邸の中を探検して回ることにした。

 その探検には庭も含まれているため、ルスはエリアスに分かりやすく伝えるために庭を指さした。


「分かった。あぁ、庭に出るのも良いけど、父上の従魔がいるから気をつけてね」


「キキキッ? (マルティンの従魔?)」


 隷属の首輪をつけて従魔としているため、勝手に邸から出て行くようなことはしないだろう。

 その思いがあるため、エリアスはルスの好きにさせることにした。

 しかし、すぐにあることに思い至る。

 父のマルティンの従魔が、庭にいることをだ。

 そのことを聞いたルスは、密かに好奇心が湧いていた。






「キ~キキッ? (ん~どこだ?)」


 何の魔物だか分からないが、公爵家当主の従魔には興味がある。

 そのため、エリアスと別れたルスは、早速庭に出るとマルティンの従魔を探し始めた。


「ワウッ! (おいっ!)」


「キッ? キキッ? (んっ? なんだ?)」


 チョコチョコと庭を動き回っていると、少し離れた所から声を掛けられた。

 その声がした方向から、一匹の魔物がルスに近付いてきた。


「キキキッ……(狼種か……)」


 近くまで来たその魔物が見下ろしてくるなか、ルスはその魔物が何の種類なのかを判断する。

 大きな体に鋭い牙を持った狼種だ。

 どうやら、この狼がマルティンの従魔のようだ。


「ワウッ! ワウッ! (貴様! 俺の縄張りで何をしている!)」


「キッ!? (あ゛っ!?)」


 牙をむいて威圧してくる狼。

 その態度に苛立ちを覚えたルスは、こめかみに血管を浮き上がらせた。


「キキッ! (うるせえな!)」


 高圧的な態度が気に入らないルスは、殺気を込めて狼を睨みつける。


“ビクッ!”


「キャイン!」


 濃密な死の気配。

 ルスから放たれた殺気で格の違いを感じ取った狼は、尻尾を巻いて後ずさった。






「キキッ! キキッ! (いいぞ! 行けっ!)」


「ワウッ! ワウッ! (ウス! 兄貴!)」


「キキッ! キキキッ! (ハハッ! ハハハッ!)」


 狼の背中に乗り、指示を出すルス。

 その指示に従い、マルティンの従魔の狼ことラッシーが庭を走り回る。

 乗馬ならぬ乗狼に、ルスは楽しそうに笑い声を上げた。

 そのやり取りからも分かる通り、強さの違いを感じ取ったラッシーはすぐにルスに懐いた。

 ルスのことを兄貴と呼ぶほどに。


「わぁ〜! すごいや! ラッシーと仲良くなれたんだね」


 乗狼を楽しんでいるルスの所に、学習の時間が終わったエリアスが現れた。

 狼の魔物であるラッシーは、この邸の数人の人間以外懐いたりしない。

 同じ魔物とはいえ、犬猿の仲になるのではないかと思っていたため、エリアスは分かれる前に注意していたのだが、それは杞憂だったようだ。

 自分の従魔が父の従魔と仲良くなったことが嬉しいのか、エリアスは笑顔で拍手しながら2匹のもとへと近づいていった。


「ルスと遊んでくれてありがとね。ラッシー」


「ワウッ! ワウッ! (ウス! ボン!)」


 ルスを背に乗せたラッシーに近付くと、エリアスはラッシー全身を両手で撫でまわす。

 主人であるマルティンの息子であるため、ラッシーも嬉しそうにされるがままだ。

 エリアスには分からないだろうが、どうやらラッシーはエリアスのことをボンと呼んでいるようだ。


「少し早いけど、もうすぐお昼だから行こうか? ルス」


「キキッ! (あぁっ!)」


 ひとしきりラッシーを撫でまわしたエリアスは、お昼を食べにダイニングルームへ向かうため、背に乗るルスに手を向ける。

 その言葉を聞いたルスは、差し出された手を登り、特等席ともいえる肩へと腰かける。


「キキッ! キキキッ!(またな! ラッシー!)」


「ワウッ! ワウッ! (ウス! お待ちしております!)」


 エリアスの肩に乗ったルスが手を振りながら声をかけると、ラッシーも嬉しそうに返答しながら見送った。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ