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第7話 ソフィア

「キキキッ!(でっけえな!)」


 父であるマルティンと護衛たちと共に近くの町へと入ったエリアス。

 そのまま町中を進み、一際大きな邸へと向かって行った。

 その邸を見て、元タルチージオの小猿は感嘆の言葉を上げた。


「エリアス!!」


「母上ー!!」


 邸の中に入ると、一人の女性が駆け寄ってくる。

 その服装から、貴族の夫人だということが分かる。

 そして、エリアスとのやり取りから、彼の母親のようだ。

 他の貴族が見たら、女性がどんな時でも駆け寄るなんて品がないと言われそうだが、抱き合う2人の感動的な状況に、使用人たちは仕方ないことだと黙認しているようだ。


『あれっ? こいつ上位貴族なのか?』


 護衛はいたようだが、盗賊にやられてしまうようなレベル。

 その程度の護衛しか雇えないのだから、貴族でも大したことないのではないかと思っていた。

 しかし、これほど大きな邸で、庭もきれいに整えられている様子を見ると、下級貴族には思えない。

 そのため、母子の感動的なシーンよりも、元タルチージオの小猿はそのことが気になっていた。


「ソフィア。 エリアスも色々あって疲れているだろうから休ませてあげよう」


「……えぇ、そうね……」


 盗賊に襲われ、自力で森の中から脱出しなければならなくなったエリアス。

 まだ8歳になったばかりの子供には、心身ともにかなり過酷な状況だっただろう。

 そのことから、マルティンはソフィアにエリアスを休ませてあげるように提案した。

 ソフィアも同じ考えに至ったのだろう。

 その提案を受け入れ、ソフィアは抱きしめていたエリアスを解放した。


「お願い……」


「はい!」


 ソフィアは、近くにいたメイドに声をかける。

 その短い言葉で理解したのか、メイドはエリアスと共に邸内に入って行った。

 彼を自室に連れていたのだろう。


「……あらっ?」


「んっ? あ、あぁ……」


 エリアスの姿が見えなくなったところで、ソフィアはマルティンの一部に視線を向けて小さく声を上げる。

 その視線の先にいたのは、母子の再会の邪魔をしないためにマルティンの肩に乗っていた小猿だ。


「このピグミーモンキーは……」


「…………か、かわいい!!」


「キッ? (えっ?)」


 小猿の説明をしようとするマルティンだったが、それが終わる前にソフィアが動く。

 殺気どころか、何を考えているのか分からない表情で接近されたためだろうか。

 タルチージオは抵抗することもできず、いつの間にかソフィアの手に抱き抱えられた。


「小っちゃーい!! かわいい!!」


「キ、キキッ……(ウ、ウゥ……)」


 黄色い声を上げて小猿を撫でまわすソフィア。

 悪気がないのが分かるため、元タルチージオは抵抗することなくソフィアの行動を受け入れるしかなかった。

 

「まったく……」


「あぁっ!」


 放っておくと、いつまでも撫で回していそうに思えたマルティンは、ソフィアから小猿を取り上げる。

 まだ撫で回し足りないのか、小猿を取り上げられたソフィアは残念そうに声を上げた。


「かわいいもの好きなのは良いが、ちゃんと話を聞いてくれ」


「ごめんなさい……」


 先程、危険な目に遭った息子が無事戻ってきたことに涙を流していたというのに、一気に元気になってしまった。

 そのことからも分かるように、ソフィアは小さいものやかわいいものが大好きだ。

 時として、夫のマルティンも引いてしまうほどに。

 さすがに、エリアスの身に何か遭っていたとしたら、さすがに小猿の事なんてどうでもよかっただろうが、無事だと分かったことでその良くない癖が出てしまったようだ。

 説明の続きをするために、小猿を取り上げたマルティンは、若干困り顔で話しかける。

 夫のその表情を見て良くない癖が出てしまったことに気付いたのか、ソフィアは申し訳なさそうに謝った。


「俺も話を聞いただけなのだが、この子はエリアスとサカリアスが気が付いた時側にいた小猿らしい」


 盗賊に襲われ、護衛たちを失ったエリアスとサカリアス。

 馬車が倒れ、2人とも気を失ったとのこと。


「気を失っているエリアスたちが、盗賊や凶悪な魔物に襲われることがなかった」


 気を失い絶体絶命の状況の2人だったが、追ってきていた盗賊に命を奪われることはなかった。

 それどころか、気が付いた時には盗賊たちは全滅していた。

 そのことか考えられるのは、盗賊たちは森の中にいた強力な魔物に襲われた可能性が高い。

 しかし、その魔物たちはエリアスたちを襲わなかった。


「もしかしたら幸運を呼び込む小猿なのかもしれない。」


 盗賊を殺した魔物にエリアスたちが襲われなかった理由。

 考えられるのは、この小猿が幸運を呼び込んだ。

 信じられないようなことだが、それしかエリアスたちが助かった理由が思いつかない。


「本人も望んでいることだし、この子はエリアスの従魔にしようと思っている」


「そうですか。でしたら、今日はその小猿の面倒を私が……」


「キキキッ! (勘弁してくれ!)」


 もしかしたら幸運を運んでくれるかもしれない。

 そのことから従魔にするというのは分からなくもないが、所詮はピグミーモンキーという弱小魔物。

 今回のこともあって、エリアスの身を守るために強力な従魔を用意した方が良いのではないかと言う可能性もあったが、ソフィアも反対するつもりはないようだ。

 むしろ、乗り気のように思える。

 エリアスは自室で休息をとっているので、明日まで自分が面倒を見ようとソフィアは提案しようとしてきた。

 しかし、先程のようにずっと撫でまわされ続けるのは面倒くさい。

 そう考えた元タルチージオは、マルティンの肩に乗り、彼の頭を盾にするように顔を隠した。


「ハハ……」


「あぁっ!? うぅ~……」


 明らかに自分のことを拒否するような小猿の反応に、マルティンは何と言ていいか分からないような乾いた笑いをするしかなかった。

 そして、ソフィアは嫌われてしまったと、哀しそうな声を漏らすしかなかった。



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