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第6話 マルティン

「キッ? (むっ?)」


「「っっっ!?」」


 少年と執事と共に街道に出ることができてすぐ、タルチージオはこちらに向かって多くの馬が駆けてくる音に気付く。

 もしかしたら盗賊の一味かもしれないと、小猿と2人は警戒した。


「っっっ!? エリアーース!!」


「ち、父上? 父上ーっ!!」


 どうやら、この少年エリアスの父が兵を連れて救出に来たようだ。

 互いの姿を確認した親子は、声を掛け合いつつ距離を詰めた。


「エリアス!!」


「父上ー!!」


 距離を詰めた父親は、馬から降りるとエリアスに駆け寄り、抱きしめる。

 エリアスも張りつめていた気持ちが解けたのか、父親の胸で涙を流して喜んだ。


「サカリアス、お前も無事でよかった」


「いえ、私がついていながら兵を失い、坊ちゃまを危険な目に遭わせることになってしまいました。もうしわけありませんマルティン様」


 エリアスとの再会を少しの間喜んだ父親マルティンは、サカリアスのことに気付き、労いの言葉をかける。

 しかし、サカリアスはその言葉に申し訳なさそうに返答した。

 盗賊に襲われ、護衛の兵たちを失い、懸命に馬車を走らせて逃げたが、転倒して気を失ってしまった。

 命を張ってでも守るべき存在であるエリアスを、安全な場所に届ける前に何もできない状態になってしまった自分を恥じているようだ。


「犠牲になった兵たちには申し訳ないが、2人が無事だったことを喜ぼう」


「……はい」


 犠牲になった護衛の兵たちにも家族がある。

 その者たちのことを考えると、自分の息子が助かったことをいつまでも喜んでいられないが、この少しの間だけは喜んでも罰は当たらないだろう。

 そんな思いから、マルティンは慰めるように声をかけ、サカリアスも暗い表情のまま頷いた。


『キキッ! キキキッ! (良かったな! ボウズ!)』


「んっ? エリアス、そのピグミーモンキーはどうした?」


 父親と遭遇できたことを喜ぶように声をかけたことで、マルティンは息子の肩に乗っている小猿に気が付く。

 その小猿が魔物のピグミーモンキーだと気付いたが、所詮は弱小でお馴染みのためか、マルティンは特に警戒するわけでもなくエリアスに問いかける。


「気絶から目を覚ました時から側にいて、ずっとついてきてるんです。なんだか懐いてしまったようです」


「…………」


 父の問いに答えるエリアス。

 別に懐いた訳ではないとツッコミたい気持ちを抑え、タルチージオは面倒だからそのまま反応することなく流すことにした。


「従魔にしても良いでしょうか?」


「えっ?」


「キッ? (えっ?)」


 続いて放たれたエリアスの言葉に、マルティンだけでなくタルチージオも驚きの声を上げる。

 マルティンが驚くのも無理はない。

 今回のことを考えると、エリアスに従魔を付けるのは護衛という意味で必要かもしれない。

 しかし、それならばピグミーモンキーなどでなく、戦闘に向いた魔物を従魔にする方が良いのではと考えたからだ。

 そして、タルチージオが驚いた理由は、折角助けた2人を安全な場所まで送り届けたら別れるつもりでいたのに、いつの間にかエリアスが自分を従魔にするつもりでいたからだ。

 

「……う~ん、気絶していた時から側に……」


 エリアスの申し出に、マルティンは顎に手を当てて考え込む。

 ピグミーモンキーといっても魔物。

 それなのに、気を失っていたエリアスに何もしなかった。

 

『……まさか、この小猿がエリアスが助かる運を呼び寄せた?』


 魔物なら死肉でも食べる。

 ピグミーモンキーも例外ではない。

 それなのに何もしなかったのは、何か理由があるのかもしれない。

 エリアスたちを追いかけていた盗賊が、何故か死んでいたことにもかかわりがあるのだろうか。

 そんな風に考えているうちにマルティンは、ふとこのような考えが頭に浮かんだ。


『そんなことはないか……』


 もしかしたら、このピグミーモンキーによってエリアスは救われたのかもしれない。

 だが、ピグミーモンキーなのだから戦闘力のはずがない。

 そうなると、何かしらの幸運の持ち主なのかもしれない。

 そんな風に考えもしたが、マルティンは荒唐無稽と首を左右に振って頭から消し去った。

 実際のところ、当たらずも遠からずと言ったところだ。


「……良いだろう。隷属魔法……だと印が体に出てしまうか。邸に戻ったら従属の首輪をさせよう」


「ありがとうございます! 父上!」


 魔物を従わせるためには、隷属魔法をかける必要がある。

 それによって、従魔になった魔物は主人の命令に背かないようになる。

 隷属魔法をかけると、魔物の体のどこかに印が浮かび上がる。

 その印が従魔であるという証明になるのだが、ピグミーモンキーの場合、小さいために体全体に印が付いてしまう。

 それに、その印が浮かび上がるときに痛みが伴うため、それに耐えられるか分からない。

 耐えられずに死んでしまっては話にならないため、マルティンは隷属魔法を付与した首輪をつけることで代用することにした。

 自分に懐いてくれている(とエリアスは思ている)ピグミーモンキーを従魔にできることになり、エリアスは嬉しそうに父に抱き着いた。


『俺を従魔に? 何考えてんだ? この親子は……』


 ピグミーモンキーなんて、従魔にしたとしてもペットに過ぎない。

 貴族なら身を守る魔物を従魔にすべきだ。

 そのため、タルチージオは心の中でこの親子の考えに首を傾げた。


『……あぁ、合ってるのか……』


 身を守るために強い魔物を従魔にする。

 よくよく考えたら、そういった意味で自分は最適と言ってもいい。

 何故なら、見た目と中身が全然違うからだ。

 そのため、タルチージオは親子の提案になんだか納得したのだった。



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