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21、シュガーハイのそのあとは

 目の前にいる巽さんは焦って困っている感じ。なんだろう、落ち着かない感じでつまりいつもと様子が違うのだ。何か自分では気づかないおかしなことを言ってしまったのかもしれない。巽さんの様子を伺っていると、頭をくしゃくしゃっと乱してため息を吐かれてしまった。どうやら私は巽さんを呆れさせるような何かを言ったようだ。


「ご、ごめんなさい」

 謝るなと言われたが謝ってしまう。


「いや、ごめん。俺の態度が悪いよね、本当にごめん」

 顔を上げてくれた巽さんは申し訳なさそうにそう謝って真っ直ぐ見つめてくるから、その視線に耐えられなくなる。イケメンにガン見されるのには慣れていないし、相手は巽さんだ。巽さんを見つめることはあっても見つめられることなどなかったのに、なぜ今そんな風に見つめてくるのか。戸惑いしか芽生えない。


「巽さん、あの……」

「気づいたときには遅かった」

「え?」

「紺野さんが俺との関係を揶揄られてたなんて。本当にごめん」

 謝られてもそれはそれで困ってしまった。だってそれは――。


「事実、では?」

「なにが?」

 巽さんの声が若干荒れた気がしたが、戸惑いながらも言葉をつづけた。


「本当の事です。揶揄われて当然かなって」

「……当然?」

「あ、でも、スイーツのことは話してません!お菓子を食べてたことはバレてないんじゃないかな……「そんなことはっ――」


(え?)


 巽さんが今度は本当に声を荒れさせて私の言葉を遮った。


「違う、そうじゃなくって!そんなことはどうでもいいんだ」

「そんな、こと?」

「俺の甘いものが好きだとか、そんなくだらない話のことだよ!」


(くだらない?)


 巽さんの放つ言葉に胸が痛い。ズキッと目に見えない何かが刺さった気がした。


「くだらない……ですか?」

 私は……その時間がキラキラしてときめいて、どんなスイーツよりも甘かったのに。


「くだらないでしょ」

「そう、ですか……」

 言葉がうまく発せられない。それでも巽さんがそう言うからそうなのか、と思うしかない。もうきっと訪れることのない夢の時間だ。だからそれでいい、いいはずなのに胸が痛いんだ。


 あの時間を――二人で並んで甘いものを食べていた時間は確かに幸せな空間だったのに。その思い出ももう忘れるべきなのかな、そう思うとどうしたって胸が締め付けられて……。


「私は……楽しかったです」

 声が震えた。体の中が熱くなって、胸が苦しい。胸の奥で抱えていた愛しかったものが空っぽになるみたいで怖くなった。


「巽さんにとってはくだらない時間だったかもしれませんが私には……「待って!」

 また巽さんは私の言葉を遮る、そして手首を掴まれた。


「ちがう、待って……あぁ、ちょっと……本当にごめん。俺が悪い、言い方がその……違う、違うんだ」

「ご厚意に甘えてすみませんでした……もうご迷惑は……「紺野さん!」

 ガシッと両手首を掴まれて思わず体が前のめりになる。それくらい強い力で手首を掴まれて思わず顔を上げると巽さんが困り眉で私を見つめてくる、真っ直ぐに。


「迷惑なんかかけてない。俺だって楽しかった、紺野さんと過ごしてた時間は俺にとっては大事な時間だった。空いた時間を見つけたら紺野さんを探してた、君と甘いものを食べたいって、そう思うほど俺にとっては大事で大切にしてた時間だった!」


(え?)


「くだらないって言ったのは、俺の問題!俺のつまらない見栄というか……羞恥心だよ。隠したい気持ちが紺野さんを傷つける結果になった。言ってくれて良かったんだよ?俺と一緒にお菓子を食べてたんだって。君が一人で抱えて飲み込む必要なんかなかった!それに気づけずにいた俺が間抜けで情けなかったって話だよ!」

「そんな、別に……」

「別に?本当にそう?言われなくてもいい事を言われてない?俺から誘って始まったことだ。紺野さんも受け入れてくれたけど、紺野さんから俺を誘ったわけじゃない」

 それはそうかもしれないが、やはりあれはお互いがなんとなく始めたこと……その気持ちを表情で察してくれたのか「そうだね」と巽さんが頷く。


「お互いがなんとなく始めた事だった、それが楽しくて続いた、そうだよね?」

「は、はい……」

「一緒にいる理由はお互いが納得して得た時間だった、違う?」

 あの階段を昇るのはしんどかった。腰にも足にも負担になって、息切れして昇った。でもそれはそこに辿り着きたかったからだ。昇った先に待つ時間が恋しかったからだ。


「どうして君だけが……嫌味や妬みを言われなきゃならない」

 苦虫を潰したように巽さんが言うから堪らなくなった。


「言われる理由があるからです」

「え?」

「私は、言われて当然だと思いました。なにも間違ったことを言われたとは思ってません。自分でもおかしいなって、本当は思ってました。不思議な時間だなって、巽さんみたいな人と横に並んで甘いものを食べる時間って何なんだろうって……まるで夢みたいで……現実味がなかったのは事実です」


 甘い、甘すぎた時間。

 いろんな味が記憶として沁みついている。きっと、食べるたびに思い出す、香りが記憶を呼び起こす。それでもやはりそれはもう――思い出なんだ。


「シュガーハイになってたのかもしれません」

 あはは、と笑って言った。


「誤解されるようなことはやめた方がいいです」

 巽さんには、横に並ぶ人がちゃんといる。横に並んで、お似合いの人が。


「私の事、気にして心配してくださったんですね。ありがとうございました。私は大丈夫です、もう変なこと聞かれたり言われることもないから……「何を言われたの?」

 そう聞いてきた巽さんの声は低い。


「蒸し返したいわけじゃない。紺野さんにまた嫌な思いさせたくないから。でも……付き合ってるとか、彼女とか言われた?」

「えっと……」

「お願い、教えて」

 有無を言わせぬ勢いがあった。お願い、そう言う割に全然低姿勢ではない巽さんがいる。圧が……怖いほど。


「そういう、誤解はされたかも、です。でも!ちゃんと、否定しました!そのようなことは鵜呑みにされてないかと思われますので安心してください!噂にもなってないはずです!もう私など関係のない……「それ」

 言葉を遮られるのはこれで何度目か。巽さんはいつでも落ち着いて人の話を最後まで聞いてくれるようなそんな人なのに、不思議だ。やはり今日の巽さんは変、そう思っていたら……。


「おかしいなとか、現実味がないとか……誤解される?鵜呑みにされない?噂にならないってなんで?」

「えっと……」

「どうして否定したの」

「は?」

「否定して欲しくなかった」

 巽さんは一体何を言っているのか。呆気に取られて言葉も何もない。


「は、はて……否定しなかったら、巽さんとお付き合いしていることになってしまいます」

「ダメだった?」

「ダメって……お付き合いなど、して、おりません……」

「うん、そうだね。そうなんだ」

 もはや会話が成り立っていない気がして何から考えればいいのかよくわからない。そう、わからない。巽さんは一体何を言っているんだ?


「好きじゃない子と……あんな楽しい時間作れるわけない」


 ――今、巽さんは何と言った?



 

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