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魔女の娘  作者: 田中 瑞希
第1章
8/14

遺書

 ダフネは再び大通りに面したカフェに来ていた。30分ほど早めに来て、通りの様子を眺めている。

 今日は、日差しは暖かいが風が冷たい。北の山地で雨でも降ってそうだ。


(夏が少し長引いているとはいえ、もう秋だもんな。)


「ごめんなさい。待ちましたか?」


ふと、頭上から、つい先日聞いた明るく、犬のような青年の声が降ってきた。


「いえ、私が少し早く来ていただけですので、お気遣いなく。」


 ニケさんは約束時間の10分も前に来てくれた。


 ダフネは向かいの椅子に座るように進める。


「ありがとうございます。」


 ニケさんはアイスコーヒーを注文していた。



「これが、サリアという神殿でしか取れない薬草です。注意事項が書かれている紙も渡しておきますね。」


 そう言って、ニケはサリアという、白い花が綺麗に咲いた薬草を紙袋から出して見せてくれる。


「すごい綺麗な花ですね。キズが1つも無いなんて。」


ダフネの言葉に、何故かニケは得意げな顔になる。


「神殿のサリア草を育てているところの警備、すごい厳重なんですよ。ネズミ1匹逃しません。」


 ニケは、サリア草をもう一度紙袋に入れ、注意事項用紙も一緒にその袋に入れてくれた。

 ダフネは、ニケから渡されたサリア草が入っている紙袋を受け取る。


「本当にありがとうございました。」


 ダフネは深々と頭を下げた。


「はい。お役に立ててよかったです。ありがとうございました。」


 そう言うニケも、頭を下げた。



「それはそうと、今朝方、この街の領主が亡くなり、息子のカレンデュラ公爵が領主を引き継ぐようですね。亡くなった女領主の遺言を公開しているとかで、私も気になり見てきたのですが、リオと、ヘラ という方へ向けたメッセージみたいで、私には関係なかったみたいです。」


 ニケは、残念そうに眉を八の字にした。


 ダフネは、パパとママの名前を聞いて驚く。


 どんなことが書いてあるのか、今すぐにでも見に行きたかったが、何とか気持ちを抑える。


「そうですか。興味深いですね。私も見に行くことにします。」



 父のリオという名前が公爵家の女領主から出たことから、パパはおそらくカレンデュラ公爵家の血筋だったのだろう。カレンデュラ公爵家は昔から名高い名家で長く王家に忠誠を誓っている。

 王族の娘が、公爵家との関係を強くするために、3代に1度のペースで王族の娘が嫁いでくると曾祖母が言っていた。



「それにしても、これから冬だというのに、先行き悪くなりそうですね」


ニケは大通りを歩いている街の人たちを見た。


 確かに、冬はどれにおいても生産量が落ちて毎年冬越しが大変だ。

 そんな時、領主が交代とは街の人々の不安はどうしても拭えないだろう。


 ニケが見えない犬のしっぽをしゅんとさせ、くぅんとないているような気がする。


寒い冬は体が上手く動かず、怪我人が多くなるらしい。冷えた体には生姜湯が体に良いと作り方を教えてやった。


 作り方を話している途中、しっぽがブンブン振り回されているいる気がした。冬の練習は辛いらしい。


 ダフネも、冬野菜どうしようかなぁ。と、ふと脈絡のないことを考えた。



 ニケが、一息ついて立ち上がる。


「それじゃあ、私はこの後用があるので失礼します。」


 ダフネは、改めて深く頭を下げる。


「お忙しいところお願いしてしまってすみませんでした。ありがとうございました。」


「では、また。」


 そう言うと、ニケは立ち去っていった。


(最近、いつも以上に人といっぱい関わっている気がする。本当に、良くないことが起こりそう)


 ダフネの勘は大方当たる。


 大通りに、ひときわ強く、冷たい風が吹く。


 ダフネは、伝票を持って立ち上がった。


(さて、遺言を見なければ)




♢ ♢ ♢




 ダフネは、門のそばの公爵家掲示板を見にカレンデュラ公爵家の門の前へ来ていた。

 ちらほらと人がいたらしいが、もう周辺の人たちはひと通り見終わったらしく、ヘラやリオはどこのどいつだと話をしている。


(なるべくママの名前は公表して欲しくなかったかな)


 近づいて、遺書を見る。

 しっかりとした、美しい字で書かれていた。



『私はこの街の領主として、最後に、1つだけやるべきことが残っています。

領主の立場として、私の息子 リオ と魔女 ヘラ の結婚だけは認めてあげられませんでした。

リオもヘラも、この地の住民、私が幸せを願って行動してやるべき存在のはずなのに、ヘラが、魔女という、人間にとって害があるのかどうか、まだ、わからない存在だっただけに、2人の婚姻を認めることができなかった。ごめんなさい。

ヘラも、会ってお話ししてみたかった。


でも、今なら、領主の座を退き、リオの母という立場だけとなった今なら、やっと、認められます。


あなたたちの婚姻を認めます。


遅くなって、ごめんなさい。

私の孫よ、封筒の中身を開いて、その紙を公爵家執事に見せてください。

渡したいものがございます。ご都合がよろしい時に、いつでも、どうか、よろしくお願いいたします。


この地に永遠の繁栄があらんことを。

皆さん、ありがとう。


カレンデュラ公爵領主 フェリス・カレンデュラ

928年 9月14日』



達筆の字で孫である私にも、丁寧な言葉で書かれていた。


(あぁ、やはりパパは貴族。しかも公爵家の子息だったんだ)


 ダフネは、ポケットに手を突っ込むふりをして、老婆に渡された封筒を家から転送させた。


(これはもう、私にとってもすごく気になるので、公爵家に行くしかないと思う。)


 老婆―――フェリス様が持ってきた封筒に、指示があるまで何もするな。と書いてあり、そのまま戸棚にしまっておいたことを忘れていた。

 おそらく、この手紙のことだろう。


(しかし、公爵家に入ることになるなんてなぁ)


公爵家の門は常に空いているが、門をくぐるときには必ず署名し、公爵家に入れるのはしっかりとした用があるものだけだ。

公爵なだけに来訪者は多いが、ダフネは来るのも入るのも初めてなので、少し緊張する。


(こんなに門の前に人がいる中、私1人だけが公爵家の敷地に入るなんて、悪目立ちする可能性しかない)


 ダフネは、自分に認識阻害魔法をかける。

 魔法陣をなるべく最小にして発動した。


 魔法を使った事は周りの人たちには、ばれてなさそうだ。


 ダフネは、心の中でほっと息をつく。


 街中で魔法を使えば大騒ぎになる。

 魔法を使えるものは、この国には王族か、その血縁者くらいしかいないから、大体は貴族ということになり、貴族と思われたら人攫いに遭いやすくなるのだ。


 ダフネは、門番に声をかけて"エノ"と入館者名簿に記入し、公爵家の門をくぐった。

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