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魔女の娘  作者: 田中 瑞希
第1章
7/14

来訪者

「良いのですか?こんなことして。」


 ダフネは、魔術院へ来てくれたこの国の第一王子をフード越しにじっと見つめた。

 本を持ってきてくれたのはダフネにとっては好都合だが、禁書庫から持ち出すのはたとえ王族でも違法では、と訝しむ。


(ばれたらどえらいことになるんじゃなかろうか。)


「大丈夫だ。禁書庫は、基本王族しか出入りできない。それに兄は公務でお忙しいし、母上も現役引退しているから特に禁書庫に入る用もないだろう。」


 そういうものなのだろうか。


 ダフネは山積みにされた禁書をちら、と見て、とりあえず礼を言うことにした。


「ありがとうございます。」


 礼を言うと、サベリアは「依頼主として当然のことをした迄だ。」と少し照れた様子になる。


(あまり感謝の言葉は言われないんだろうな。身分なだけに、)


 王子の立場となると、周りがどんなこともやってくれるのだろう。羨ましい限りだ。


 そんなことを思っていると、こほ。とサベリアがひとつ咳をついて、話し始める。


「魔女は魔術というものを薬に込めて魔女の薬を作るのだろう。私は、薬に込める魔術が本当に役に立つのか、正直なところ疑っている。もちろん、魔女の薬の効能も。」


(言われると思った)


「では、今、目の前で魔術をお見せいたしましょう。そうすれば、魔術が込められている魔女の薬も信用できるでしょう。」


 ダフネは右手を出した。


「何か魔法ではできないことを言ってみてください。」


 リックは少し考えると、言う。


「アイスコーヒーを出してみてくれ。もちろん、氷入りで。」


 ダフネは指先に魔力を集めて、いつもの感覚で()()()を作り出す。

 すると、ダフネの手にはアイスコーヒーが中に入ったコップが握られていた。もちろん、氷入りで。


「こんなものでしょうか。」


 ダフネは、カップをコーヒーがこぼれないように、ぐにゃぐにゃと歪めてみせた。リックは目を見開いている。


「魔術では、魔力にものをいわせて何でもできます。0()()()1()を作ることができる。魔法ではそのようなことはできません。魔法は、()()()()()()1()()()()()()()()()()()から、0から1ができない。魔術は、何も無いところから、己の魔力と己の想像力を最大限活用しないと発動しないため、センスが8割です。だから魔術は利用できる人が少なく、魔術が扱えない者に信用されづらい。」


「なるほどな。」


 サベリアは考えている様子だったが、理解したようだった。


「そのアイスコーヒー、飲んでみてもいいか。」


 ダフネは一瞬躊躇ったが、まぁいいか。とアイスコーヒーを渡す。


「どうぞ。」


 サベリアはアイスコーヒーを飲んだ。


(毒味とかそんなの気にしないんだ)


「何の変哲もないアイスコーヒーだな。」


「はい。これで、魔術のことを少しは信用できたでしょうか。」


「あぁ、もう充分だ。」


 リックはうなずいた。

 普通だったらもう少し見せてくれとか言う輩がいるんだが、他のものをケチをつけずに認めるのが王族の器なのだろうか。


「まだ時間が必要だろう。また来る。」


 そう言って、リックが振り返ろうとした時、ダフネは呼び止めた。


「その事なのですが、私も呪いの事を調べている時、寿命を延ばす薬を見つけまして、今、材料を調達している最中です。あと二週間ほどで完成するかと思います。」


「なるほど。では、私が実験体になる日が近づいてきたと言う事だな。」


 ダフネは素直に答えることにした。


「はい。」


 サベリアはダフネが素直に頷くものだから、笑いを堪えている。

 ダフネはサベリアのお笑いポイントが分からず頭の中がはてなマークだ。


「それと、」


 サベリアが笑いのツボにはまってしまって、言うのを躊躇っているダフネにサベリアは何とか笑いを堪えて続きを促した。


「ああ。答えてくれ、なんだ?」


「王族の本の中に、使い道がわからない、もしくは解読不可能な魔法陣ってあったりしますか?それに準ずるものでもいいんですけど、もしあるようなら、それはとても危険なものなので、こちらに引き渡して欲しいです。」


「なるほど。もとは魔女のものだったのか?」


「おそらく。魔法術陣が書かれています。誤作動を起こすと周囲が弾け飛ぶので、もし見つけたら、慎重に扱ってください。」


「探しておこう。」


「ありがとうございます。」

「最後に、ここまで来るのは大変だと思うので、あなたの手に此処(魔術院)まで来れる魔法陣を描きました。使用する際には魔法陣に魔力を込めてください。」


 ダフネはサベリアの左手を指さす。


「悪用しようとすると、術者とその周辺が爆発するように仕掛けておりますので、くれぐれもお気をつけください。」


 ダフネは、心の隅でやろうとしていたことをやれて大満足だったが、サベリアはポカンとしていた。


「ここまでできるのか、、」


 サベリアは呆然と、いつの間にか手の甲に描かれていた魔法陣を見る。


 サベリアはそのまま興味本位でその魔法陣に魔力を込めて、魔法陣を展開させてしまった。


 ダフネはだんだん薄れていくサベリアの実態を見て焦り出す。


「―――しまった。」


(中途半端な方の魔法陣を第一王子の手に描いてしまった。発動させた時に場所指定をしなければいけないんだ。)


 ダフネは右手を突き出し、サベリアが展開させた魔法陣に干渉し、なんとか転移を成功させる。


 どこに飛ばされたかはわからないが、おそらく王城の近くだろう。


(まぁ、土の中に埋まることはなくなったから、どこでもいっか)


 ダフネはほっとため息をつき、魔術を使ってサベリアの手の甲の魔法陣を完成された方に書き換えた。そして、サベリアが持ってきた禁書をパラパラとめくった。




♢♢♢




 次の日、ダフネがのど飴を作っていると、ドアベルが2回鳴った。


(ミオがこんな頻繁に来て、どうしたんだろう。)


 ミオは1ヶ月に1回しかここに来ることがないのに。

 特にここに来る必要は無いはずだけど、とダフネは思考を巡らす。


⋯⋯ふと。


(あ、思い出した。もう薬草が見つからないだろうと思って、ニケさんと会う前に魔術でカラスを送っておいたんだった)


 ダフネは申し訳ないと思い、あとは冷やすだけの、のど飴を冷凍庫に入れ、紅茶を入れる準備をする。


 ドアが開くとともに、ドアベルがもう1回鳴る。


「ダフネ、何かあったの?久しぶりに僕を呼び出すなんて。」


 ミオはすごく心配してそうな顔を浮かべている。

 ダフネはちょうど入れ終わった紅茶をミオの前に出す。

 ミオはいつもより大荷物だったが、気にせず話すことにした。


「ごめんね。森にもなかった薬草を、ずっと人に聞いて回ってて、ミオに聞こうと思って連絡した後、もう1回人に聞いたら知ってるっていう人がいて、その人に王都まで取ってきてもらうことになったの。」


 ミオは、安心のため息をついた。


「そっか。それはよかった。それにしても今回の依頼は本当に厄介だね。ダフネが聞き込みをして回るなんて。」


 ミオは苦笑いをする。


 ダフネがため息をついて、言った。


「ほんと。でも、人に聞いて回ってなきゃ、ミオに、もっと迷惑をかけるとこだったし、聞いて回ってよかったのかも。」


 ダフネは、にこっと控えめに笑った。


「本当、ダフネってばいい子だねぇ。」


 ミオは微笑えんでいる。


「そういえば、ローブの生地を持ってきたんだよ。しかも、王族の方たちが見ても、思わずため息が漏れるようなものをね。」


 ミオは、ウインクをした。


「へぇ、それは期待大。でも、高いんじゃない?貯金はあるけど、そんな何着も買えないよ。 」


「もちろん、お安くするさ。その代わりにのど飴をもっと作ってほしいんだ。なるべく急ぎで頼みたいな。100はあるといい。もちろん王族の方の依頼を優先してくれて構わないよ。」


 ミオは、笑みを絶やさずにいる。


「ミオ、運がいいわね。ちょうど、のど飴を作ってたところなの。しかも、ストック合わせて200個分。一気に作っちゃおうと思ってね。冷やすのにあと1時間位かかるから待っててもらえる?」


「もちろん。だったら今のうちにローブに使う生地を選んでもらいたいなぁ。何個か候補を持ってきたんだよ。ダフネにぴったり合いそうなものをね。」


 ミオは、持ってきた荷物をゴソゴソとあさり始めた。


「ほんとに、適当なものでよかったのに。」


 ダフネは困った顔でため息をついた。


「だめだよ。せっかくの自分のローブなんだ。気に入ったものを選ばなくちゃ。お母さんのローブも素敵だから、それに見劣りしないものをね。」


 ミオは、荷物から取り出したローブの生地を見せてくれる。

 ダフネはミオの気遣いに嬉しくなった。


 ダフネは、笑って応える。


「ありがとう。」

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