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魔女の娘  作者: 田中 瑞希
第1章
6/14

サリア草

 ダフネは、ママが書いた本に、記されてあった薬の材料を揃えるために街へ出ていた。

 ミオに頼んでもよかったが、至急必要になりそうな予感がしたためだ。


(それにしても、寿命を伸ばす薬がおおかた作られていてよかった。私がイチから作るところだった)


 ダフネはイチから薬を作る事はあまり得意ではない。


 使用する材料をまとめておいた紙を見る。


 1つだけ、この街の薬屋にはない薬草があるようだった。

 先ほどから各薬屋の店主からその薬草のことを聞いて回っているが、どの店主も知らないらしい。街の人にも聞いてみたりしたが、もちろん、知らないと言う。


 歩きすぎて、ダフネはこれ以上疲れないために魔術で体を1センチほど浮かせていた。


(しょうがない。ミオに、知っているか連絡を取ってみよう)


 ダフネは路地裏へ入っていき、ダフネのメッセージを吹き込んだ、魔術で作ったカラスをミオの元へ送った。


(しかし、おかしいなぁ。本にはしっかり書いてあったのに、ここは比較的王都に近い街だから、ある程度は揃っているはずなんだけどな)


 ダフネはもう一度薬屋を見て回ろうと路地裏を出ていく。


 しばらく歩いていると、馬車から荷物を下ろしている行商人達がいたので、何か知っていると思いダフネは話しかけてみる。


「どこから来たんですか。」


 行商人の中の1人、短髪で髭を生やしたおじさんが答えてくれた。


「南のアリストから来たんだよ。これから王都に寄って、東のルベトに行くんだ。なんだ、一緒に行きたいのか?」


「いや、そうではなくて、」


 ダフネはポケットの中から薬草の特徴が書かれた紙を出して、見せた。


「この、サリアという薬草なんですが取り扱っていますか。」


「ウチでは取り扱ってないよ。見たことも聞いたこともないな。」


「そうですか。ありがとうございました。」


 ダフネは頭を下げようとした。


「待て、王都から来た奴なら知ってるんじゃないのか。」

「おい!少年、来てくれ!」


 おじさんは振り返って他の商人さん達がいるところに向かって叫ぶ。


 そちらの方を見てみると、若い茶髪の長身が振り返って返事をする。


「はい!今行きます!」


 茶髪の長身の青年は、隣にいた人に挨拶をして、駆け足で来てくれた。


(犬みたい)


「なんですか?」


 今にも見えそうなしっぽがフリフリと音を立てて(幻聴)、きょとんという顔をしている。


「こちらの薬草なのですが、知っていますか?」


 この様子は多分知らないだろうなと思いつつも、藁にもすがる思いで聞いてみる。


 すると、今までのダフネの苦労を一瞬で吹き飛ばすかのように、にこっと笑って答えた。


「知ってますよ。王宮の神殿でしか栽培されていない薬草ですね。使用用途を記した書類を提出して、それが受理されないと薬草が渡されないんです。」


「さすが、少年は相変わらず物知りだなぁ。」


 おじさんが大口を開いて笑った。


「その書類は、王宮まで行かないと受け取れない感じですか?あと、受理されるまでの時間って…」


「書類は、王宮の神殿の受付で書いたものではないと受理されないようです。それと、薬草は受理された当日には渡されないらしいです。3、4日はかかると聞きます。」


「長いですね。」


 ダフネは気落ちする。王都まで行くにも時間がかかる。

 それに、滞在期間も考慮すると往復1週間、さすがに1週間も魔術院を開けていられない。

 魔術院には、いつ誰が来るか分からない。


 ダフネは心の中でため息をつく。


(こればかりは仕方ない、王都まで行こう。依頼だし、)


「わかりました。ありがとうございます。」


 そう言って、ダフネはその場を離れた。




 一息つこうと大通りの中で比較的空いたカフェに入る。

 アイスティーを頼み、テラス席で、通りの様子を見ていた。


 暦としてはもう秋のはずなのに、まだまだ暑い。

 子供が麦わら帽子をかぶっていたり、女性が日傘をさしたりしている。


(肌に塗ったら、冷たく感じるクリームでも作ろうかな)


 ダフネ頭の中でクリームの作り方を考え始めた。


「すみません、少しお時間良いですか。」


 そう言って、ダフネの考え事を中断させた人物は、さっきの犬のような青年だった。


「はい。どうしましたか、何か、ありましたか?」


 何か失礼なことをしたのかと少し不安になる。


「私、王宮に伝手があって、お急ぎのようでしたので、私が、薬草貰ってきましょうか。」


 ぎょっとして席を立つが、はっとして、また椅子に座る。

 青年にも、どうぞと席を進めた。


「良いんですか、こんな見ず知らずの女のために。」


 青年はパッと顔を明るくさせた。


「大丈夫です。とても大切なことが関わっているんだと思って、放っておけなかっただけなので、」


 ダフネは信じられないという気持ち反面、だいぶ嬉しかった。

 1週間、魔術院を開けなくて済む。


「では、お願いしてもよろしいですか?」


「はい。任せてください。5日後の、この時間に、このカフェ集合で良いですか?」


 ダフネは深深とお辞儀をして言う。


「はい。よろしくお願いします。」




 家へ帰ってきたのは日が沈んでからだった。



 犬のような青年は"ニケ"と名乗った。

 ニケは、王宮の下っ端兵士として働いているらしい。

 帰省をしていて、帰りは護衛として商人達と一緒についてきたということだった。


 王都は今、大規模な都市開発をしているらしく、建物を建設するために人を雇っているため、失業者が減っているとか。


 ダフネは、のど飴や風邪薬が去年よりも売れている理由ワケは薬を購入できる余裕のある人が増えてきているからだと思い、追加でのど飴の材料を買い込んで帰ることにしたのだった。

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