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魔女の娘  作者: 田中 瑞希
第1章
14/17

魔女

 ダフネは寿命を延ばす薬を作り始めようと大鍋と材料を店の裏にある作業場に揃えていた。


「やるよ。」


 ダフネは手を腰に当てて1人でつぶやく。

 これからダフネは二週間、ほぼ不眠で魔力を薬に注ぎ込まなくてはいけない。


 魔術院でお客さんの依頼はとても受けられそうにないので、森から入る道も塞いでおいた。


ーーーちりん、


 魔術院のドアベルが鳴った。


 ダフネはミオかサベリアが来たのかと一瞬思ったが、ミオは最近頻繁に来ていてもうしばらくは来ないはずだし、サベリアは先日連絡した時とても忙しそうだったので来れるような状態ではないと思っていた。それに、ドアベルの音がいつもと違っていたのだ。


(何かが、来る)


 つんざくような高い音がいつまでも耳の奥で反響している。


 ダフネはその場で魔術院の方へつながる扉を見つめてじっとしている。

 すると、もう一回不気味な音のドアベルがなったので、店内に誰かが入ってきたと思い、返事をした。


「はい。」


ーーちりん。ちりん。ちりん。ちりん。ちりん……


 2回目からずっとドアベルが鳴り続けている。ママが魔術院をやっていた時もこんなことはなかったので、明らかに異常だと思った。ドアベルが壊れたわけではない。ママから聞いたところによると、ドアベルは特殊な永久魔法がかけられていて、壊れることは絶対にないらしい。


 ダフネは魔術院へつながる扉を開けたが、そこには誰もいないが、微かに魔力の揺らぎを感じた。全神経を集中させ、その魔力を感じ取ると、それは転移魔法でこちらに来るものと酷似していて、でもサベリアの魔力でも、サベリアの手の甲に描いたものでもなかった。


 どんどん魔力の揺らぎが起きている場所に魔法陣が現れる。




 そこに現れたのは、黒髪、黒い瞳、黒いローブを着た、私の同族、魔女だった。


「こんにちは、ダフネ。」


 その魔女から密かに感じる魔力量で息が詰まりそうになる。ダフネは咄嗟にすぐそばにあった魔力増強剤をつかむ。

 ダフネは恐ろしかった。四年ぶりの、2度目の命の危機を感じる。

 どくどくと自分の心臓の音が聞こえてくるようだった。


 鼻から息を吸い、口からゆっくりと吐く。喉を潤わせるために唾を飲み、言った。


「どんなご用件でしょうか。」


 その魔女は驚いたような顔を見せ、艶やかな声で話す。


「あら、あなたすごいのね。私の魔力に当てられないの?」


 魔女は驚いた顔をコロッと変え、にっこり笑顔になって、聞いてきた。


「私の弟子になるつもりはない?」


「すみません。どちら様ですか?」


 ダフネはよくわからない状況をなんとかしようと質問返しをしてしまった。


「エリスって言えば、どこの誰だかわかるかしらね?」


 エリスはずっとにっこり笑顔で、私の顔は引き攣っているのがわかる。


「え、」


(エリス)


 ダフネの思考が停止する。


「あら、やだ。そんな顔しないで、取って食ったりなんてしないんだから。」


 エリスはふふふ、とダフネのの反応を楽しんでいるようだった。

 一方ダフネは、ようやくダフネの頭に内蔵されている辞書が、“エリス”の単語のページを開いてくれている。


 “エリス”


 それは、魔女の一族の原初、通称“始まりの魔女”と呼ばれている。

 はるか昔、空気中に溢れる魔力を感知し、魔術を生み出したもの。


(エリスは人間だったはずだ。なぜ?魔術で自身の身体の時を止めている?そのくらいはこの魔力量があるんだったらできるのか?でもいずれは魔力は尽きるはずだ)


 ダフネがぐるぐる考え込んでいると、その内容を察したエリスが話し始めた。


「私、ダフネのこと気に入っちゃった。私の魔力、分けてあげる。増える一方だし、私そんなに魔力を必要としてないの。大サービスしちゃうから。」


 そう言って、エリスはダフネの額に人差し指をちょんと軽くつける。

 すると、ダフネは急に流れ込んできた魔力の量に耐えきれず、そのまましゃがみ込んでしまう。


(私も魔力量多い方だと思ってたのに、)


 ダフネはエリスがおくってきた魔力で全身が押し潰されそうな感覚に襲われる。

 だんだんと全身が熱くなり、頭も痛い、そして全身から体液が出てくる。


「困っちゃうのよ、呪いに対抗するような事をされちゃうと、死活問題だわ。」


「え、」


 ダフネは上を見上げ、エリスの顔を見る。

 エリスはいじめっ子のような、意地の悪い顔をしていた。


「なんで知ってるのかって?私が、あなたたちの言う、始まりの魔女だからよぉ。驚いちゃった?」


 ダフネは茫然とエリスを見つめている。


「呪いに関するものは視えちゃうの。ダフネが頑張っているのはもちろん視えていたけどね、寿命を縮められるとこちらも困るわ。父親の代わりに子供の分の寿命を今よりもっと縮めることになるわよ。」


「子供?」


「そうよ。今の国王のね、私ってすごいから、未来も視えてしまうの。」


 ダフネは全身にかかっている圧力に慣れてきた。


「私、帰るわね。さよなら、ダフネちゃん。」


 エリスは跡形もなく消えていってしまった。

 ダフネは立ちあがろうと床についていた手をはなし、倒れ込む。


 ダフネはいつのまにか転がっていってしまった魔力増強剤を拾い、瓶の蓋を開け全て飲み込んだ。

 魔力増強剤は、一時的に体内に貯蔵される魔力の器を大きくし、その大きくなった分の魔力も増幅される。

 今は自分の器に入りきらない魔力が身体中で暴れている状態なので、器が大きくなった瞬間に体内で暴れている魔力がその器にしまわれれば、なんとか持ち堪えられると思った。


 ダフネの読みは当たっていて、10分もすれば全身にかかっていた圧力も、熱もおさまっていた。

 立ち上がり、カウンターの椅子に座る。


 ダフネはこの危機を乗り越えられたと安堵したと同時に、恐怖を覚えていた。

 増強剤の効果が切れたらまたさっきと同じようになるかもしれない。

 ダフネはため息をつき、このままでは薬物中毒者になりかねないと自己嫌悪に陥る。


「一旦、第一王子に手紙を書こう…。」


 ダフネは、始まりの魔女、エリスが接触してきたことと、おそらくエリスが王族の呪いをかけていたということ、これから二週間、寿命を延ばす薬を作り始めるとも書いておいた。

 また同じようなことがあるかもしれないが、受けた依頼は責任を持ってやり通すと決めているのでやらない選択肢はない。


 ダフネは手紙をカラスに擬態させ、サベリアの元へ直接送られるように魔術をかけた。


(こんなに身体を張る羽目になるとは、私の嫌な予感は的中してたよ)

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