アイドルの苦悩 【月夜譚No.302】
アイドルだって人間だ。この世に生まれて成長し、学校に通って、笑って、泣いて、時には怒ることもある。家族や友人はいるし、初恋だってする。食べて、寝て、呼吸をして、トイレにも行く。
それぞれ格差はあれど、皆同じように生きているのだ。
それなのに、時としてアイドルはまるでそこから外れてしまった別の生き物のように扱われることがある。
自室のベッドの上、布団を頭から被った彼女はスマホの画面を瞳に映して、諦念の色を浮かべた。
別にエゴサをしたかったわけではない。けれど、SNSやインターネットを使っていれば、嫌でも目に飛び込んでくる情報もある。
こんなことで一喜一憂していては、芸能界で生きてはいけない。そんなことは解っている。
しかし、人間なのだ。どんなに願っても、天地が引っ繰り返っても、それは変わらない。
いっそのこと、大勢の人の前で叫びたい。
自分は人間なのだと。貴方達と何も変わらない、生き物なのだと。
だが、それは許されない。
暗くなった画面に、自分の顔が薄く映る。
いつからこんなに翳のある目になってしまったのだろうか。カメラの前では宝石のようにキラキラしているのに、一人になった途端に闇に沈む。
彼女はスマホを伏せ、膝を抱えて蹲った。