表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

9/42

新天地④

 魂が揺れている。

 自分は何者で、一体誰なのだろう?


 私は生まれ変わった。

 物理的にも、精神的にも。

 残虐非道な女王アリエルではなく、すべてから解放された一人の少女……リベルへと。

 これが、新たな私になってから迎える、初めての朝だ。


「なんて……我ながらロマンを求めすぎね」


 結論、ほとんど眠れなかった。

 ベッドはふかふかで、レントが誰も入れないように鍵をかけ、外からも開けられないように細工してくれたから、誰かが来る心配もない。

 野宿と違って、魔物に襲われる心配もないから安全。

 今夜はゆっくり眠れるぞ、と思ったのに……。


「なんだか目が冴えちゃって……なんでなのよ」


 自分でもよくわからない。

 緊張している?

 今さら何を緊張することがあるのだろうか。

 それとも……。


 トントントン。


「誰?」

「俺だ。レントだ」

「ああ、入っていいわよ」

「失礼するよ」


 彼だけは、この部屋の鍵を持っているから自由に入れる。

 ノックをしてくれたのは、私を不安にさせないためなのだろう。

 小さな気遣いに感謝する。

 扉が開き、昨日と変わらない姿のレントが現れた。


「おはよう、リベル」

「ええ、おはよう」

「よく眠れたか?」

「まぁ、ほどほどにね」


 本当はあまり眠れなかったけど、彼に無駄な心配をかけるのは申し訳ない。

 軽く嘘を交えてみる。

 そんな私をじとっと見つめて。


「眠れなかったのか?」

「……わかるの?」

「魂が揺らいでいるよ。嘘をついた時の感じだ」

「なるほどね」


 彼の瞳は見えないものが見えている。

 魂の揺らぎで嘘を見抜けるなんて、ハッキリ言ってチートだ。

 そういうのって普通、転生者である私にこそ与えられるべきものじゃないの?

 やっぱりこの世界の女神は意地悪だ。

 というか、ただイケメンが好きなだけなんじゃないのか?


「眠れなかった理由は? ベッドが合わなかったか?」

「そんなことはないわよ」

「だったら?」

「うーん、わからないわ」


 自分でもよくわからない。

 なぜ眠れなかったのか。

 ここ最近、ほぼ野宿でまともに寝る時間はなかった。

 疲れも溜まっていたし、眠れる理由しかない。


「元から睡眠は短かったのよ。忙しかったし」

「女王だからだろ」

「そうよ。おかげで一日三時間睡眠が普通だったわ」

「俺より酷いな……」


 そういう環境で育ったから、眠りが浅くなったのだろうか?

 なんだかそれとは違う気がする。

 それに……。


「疲れは取れているのよ。不思議なくらい、身体が軽いわ」

「そうなのか?」

「ええ」


 私は自分の手を開いて見つめる。

 枯渇していた魔力が戻っている。

 一晩休んだことで、戦いで消費した魔力が回復したらしい。


「魔女の身体になったから、この程度の睡眠でも回復するようになったのかもね」

「魔女……か」

「信じられない?」

「信じるさ。確かに今のお前からは、普通じゃない力を感じるからね」


 彼の眼は、私の身体に宿る魔力すら見えるのだろうか。

 本当にチートだ。


「その魔女のことなんだが、念のために言うけど、無暗に話さないほうがいいぞ」

「わかっているわよ」

「ならいい」


 魔女は畏敬の対象だ。

 この世界には魔物もいるし、女神の奇跡や精霊の力を操る術もある。

 けれど、人の身で魔法を使うことはできない。

 それができるのは、魔女や魔人と呼ばれる存在だけだ。

 女神を信仰する人々が多い中、魔物と同じ魔力を持つ人間は、信仰を脅かす者として忌み嫌われている。


「人前で魔法は使わないし、そもそもまだうまく扱えないわ」

「それは逆に怖いな。扱えるようにする訓練はしたほうがいいんじゃないか」

「……めんどくさいわね」

「だらけるなよ。というか、いつまでベッドにいるんだ」


 実はさっきから、レントがきてもベッドで寝転がったままである。

 いい加減に突っ込まれてしまった。


「疲れはとれてるんだろ?」

「とれてないかも」

「嘘をつくな」

「バレるかー」


 レントの前で嘘は通じない。

 私はしぶしぶ起き上がり、背伸びをする。

 すると、私のベッドの横に彼は服を置いた。


「これは?」

「お前がこれから着る服だよ。この国の王城で働く人間の制服だ」

「私にここで働けと?」

「表面上はな? お前にはこれから、俺の側役」

「側役って……」


 要するに彼を隣で支える秘書みたいな役割の人だ。

 私がレントの秘書?

 王子の側役……。


「めんどうね」

「そう言うなよ。これでも苦労したんだぞ。一晩でお前の身分証作って、どうにか宮廷にねじ込めないかなと思ってな」

「別にわざわざそんなことしなくても。私は衣食住があればどこでもいいのよ」

 

 王城で暮らしたい、なんて欲はこれっぽっちもない。

 贅沢もいらない。

 最低限の生活、後はのんびり自由に過ごせたらそれでいいと考えていた。


「どこでもはよくないだろ? お前、自分が追われる身ってことわかってる?」

「わかってるけど、わざわざ探しに来るかしら」

「相手次第かな? でも、秘密を知る人間を野放しにするのが危険ということくらい、誰だってわかるだろう?」

「……それもそうね」


 身の安全を守るためにも、住む場所や肩書は重要かもしれない。

 私は魔女になった。

 ただ、私に呪いをかけたのもまた魔女だ。

 私の居場所くらい、簡単に見つけられてしまうかも……。

 そうなったらあの牢獄に逆戻りか、最悪その場で殺されるか。

 さすがに困るわね。


「ということで。これからはサポート頼むぞ? リベル」

「……楽しそうね」

「ちょっとな。そういうお前は、面倒くさいって顔してるな」

「よくわかっているじゃない」


 心の底から面倒だ。

 せっかく女王の重圧から解放されたのに……。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
新作投稿しました! URLをクリックすると見られます!

『没落した元名門貴族の令嬢は、馬鹿にしれきた人たちを見返すため王子の騎士を目指します!』

https://ncode.syosetu.com/n8177jc/

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ