念願のお休み①
長い旅路だった。
女王の地位から転落して、レントに拾われて彼の側近になった。
求めていたのは安全と安心、そして穏やかな生活。
しかし簡単ではなかった。
私は元女王で、呪いの影響で姿を変えた影響か、魔女の力を得てしまった。
普通の人間には程遠い私は、普通の生活は送れない。
半ばあきらめていた。
ならばせめて、休みが欲しいと思っていた。
「やっと……やっとね」
本日、休みである。
側近としてのお仕事もなし。
学園に通う必要もない。
朝、目覚めた私はわざわざ着替えることもなく、ベッドでゴロゴロとしていた。
「はぁ……幸せ」
こんな時間がずっと続けばいいと願う。
その十秒後。
「助けてください! リベルさああああああああああああん!」
「……嘘でしょ?」
私の安息の休日は、魔女の涙と汗によって崩壊した。
「なんで来てくれないんですか? ずっと待ってるんですよぉ!」
「あのね……」
窓から飛び込んで来たルイスは、涙と鼻水でぐちゃぐちゃな顔で私に抱き着いてきた。
どうやら魔法で空を飛んできたらしい。
彼女なら見つからないだろうけど、なんて大胆な不法侵入だ。
魔女はこれだから困る。
「私はもう学園ですることはないのよ」
「あるじゃないですか! リベルさんが月下会の会長なんですよ!」
「だから、会長はあなたでしょ?」
「私じゃ無理だって言ったじゃないですかぁ!」
大号泣。
ここまで泣きつかれるとは想定していなかった私は、反応に困る。
「あれからもう三日ですよ! 毎日来てくださいって言ったじゃないですかぁ! 一人は不安なんですよぉ……」
「あなたねぇ、それでよく敵国に一人で潜入出来たわね」
「だってチャーベス家の人は親切ですし……セミラミス様に逆らったら何されるかわからないじゃないですか」
「恐怖に負けたのね」
簡単に想像がつくのが彼女らしい。
セミラミスの恐ろしさは、私も理解し始めていた。
彼女の威圧感は、女王のそれに匹敵する。
できれば敵に回したくはなかったけれど、もう無理だろう。
元セミラミスの部下であるルイスを味方につけた時点で……否、私が元女王である限り、彼女との対立からは逃れられない。
いずれ必ず、決着はつけなくちゃいけない。
そんなことは考えたくなかった。
せっかくの休みなのだ。
「帰って。今は休み中よ」
「嫌です」
「あなたね」
「リベルさんが一緒に来てくれるまで帰りませんから!」
「……こんなところで行動力見せないでくれない?」
「一人は嫌です! あの広い部屋で独りぼっちなんて耐えられません!」
その気持ちは少しだけ理解できる。
無駄に眩しくて視界がうるさいだけの部屋に、一人でいると妙な孤独感を抱く。
フレーリアはよく一人で月下会を回していたと感心すらしている。
彼女がまともな人間なら、こんなことにはならなかったのに。
「あなたも災難ね」
「他人事みたいに言わないで下さいよぉ」
「はぁ……もうわかったわよ」
彼女は妙なところで頑固だ。
このまま拒否しても、ずっと居座り続けるだろう。
仮に帰っても、また明日来る。
ここは折れるしかない。
「今日だけよ。明日は来ないでね?」
「ありがとうございます!」
ニッコニコになるルイスに、私は呆れてため息をこぼす。
「リベルさんって、なんだかんだ言って助けてくれますよね?」
「あなたがしつこいからでしょ」
「えへへっ、リベルさんが優しいから仕方ないんです! これからも頼りにしてます!」
「勘弁してよ」
そう言いながらも、彼女に手を引かれて私は部屋を出る。
休みものんびりさせてもらえないのは、私がそういう星の元に生まれたからなのだろうか。
それとも彼女の言う通り、私が優しいからなのだろうか。
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タイトルは――
『没落した元名門貴族の令嬢は、馬鹿にしれきた人たちを見返すため王子の騎士を目指します!』
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