エピローグ
フレーリアは国家反逆の罪で投獄された。
これには名門であるエリーシュ公爵家は関与を否定しており、現在調査中である。
学園の代表がスパイだった。
その事実は隠しようもなく瞬く間に広まった。
トップを失ったことで、生徒の代表組織である月下会は活動が停止する。
しかし、月下会は生徒たちの声を学園に届けるため、今後も必要になる。
すなわち、新たなトップが早急に必要になった。
そこで選ばれたのは……。
「なんで私なんですかぁ!」
叫ぶルイス。
彼女こそ、新たな月下会の会長である。
「どうしてー!」
「引っ張らないで、揺すらないで」
彼女は私の服の袖を引っ張って、号泣していた。
せっかく会長になれたのに、納得していないようだ。
「学園の代表になれたのよ? 名誉なことじゃない」
「なりたくありませんよ! 代表ならリベルさんがなればいいじゃないですか! リベルさんもメンバーに入ってたんだから!」
私たちは資料に目を通すため、という名目で一時的に月下会入りしている。
そのタイミングでトップがいなくなったため、現会員から新たな会長を選出する必要があった。
選ばれたのは彼女だ。
当然だろう。
「私の目的は達成されたの。だからもう、学園に通う意味はないわ」
「やめちゃうんですか! 私を一人にしないでくださいよぉー! 会長なんて無理ですからぁ!」
「泣かないでよ。偶には遊びにきてあげるから」
「偶にじゃなくて毎日来てください! 一人は不安なんです!」
毎日って……講義がない日も含まれてないかしら?
私が学園に通っていたのは、ここに潜伏しているセミラミスの部下を見つけ出すためだ。
ルイスとフレーリアの二人がそれに該当する。
ルイスは改心?
したのかわからないけど、フレーリアは投獄された。
これにより問題は解決したので、私は晴れて学園を退学できる。
そして夢の長期休暇を得るのだ。
「ふふっ、何して過ごそうかしら」
「自分だけずるいですよ……なんで私ばっかり」
「あのね? セミラミスの部下で、しかも魔女なのに投獄されていないだけマシだと思ったほうがいいわよ。それとも今からフレーリアと一緒に入る?」
「絶対に嫌です! あの人魔女より怖いです!」
「だったらやるしかないわね。頑張りなさい、会長」
私は彼女の肩にポンと手をやる。
泣き続けている彼女を見て、さすがに多少は申し訳なさもある。
レントに相談して、定期的に顔は出せるようにしておこう。
こうして私は、学園を去った。
◇◇◇
リベルが学園を退学する前日の夜。
投獄されたフレーリアの元に、魔女の影が迫る。
彼女は優秀な人材だった。
故に、このまま投獄されては惜しいと考えたのだろう。
「――まさか、本人が来るとは思わなかったな」
「――!」
地下牢獄にたどり着く前の通路で、一人の男が待っていた。
彼は不敵な笑みを浮かべる。
「レント殿下? なぜこのような場所に、こんな時間に?」
「こっちのセリフだ」
「私は看守ですので見回りを」
「芝居はいい。俺の眼を誤魔化せると思うなよ? 魔女セミラミス」
「……はぁ」
看守に偽装していた彼女は、魔法を解除して姿をさらす。
ため息をもらし、彼に言う。
「聖人の眼まではごまかせないのね」
「それができるのは、お前が見捨てたルイスだけだ」
「ふふっ、あれを飼っているのでしょう? 役に立たないから捨てることをおすすめするわ」
「生憎、俺はそこまで薄情じゃないんだよ」
態度には表さないが、セミラミスは焦っていた。
相手は聖人だ。
魔女であれ、殺すだけの力を持っている。
狭い地下通路は魔女にとっては戦いにくい環境でもあった。
彼女はすでに、逃走する算段を立てている。
「安心しろ。お前をここでどうこうする気はない」
「……へぇ、どうしてかしら?」
「忠告しにきただけだからな」
「忠告?」
「これ以上、この国と彼女には関わるな」
レントはセミラミスを睨む。
「彼女って、もしかして哀れな元女王様のことかしら」
「彼女はもう新しい人生を歩んでいる。それを邪魔するな」
「随分と入れこんでいるのね? 意外だったわ」
「友人だからな」
「顔も声も違う。魔女になっても言えるのね」
「当たり前だろう? 俺は見た目や能力で友人を選んでいるわけじゃない」
「そう? なら何を基準にしているのかしら? 参考までに教えてもらえるかしら?」
敵意はあれど攻撃の意思がないとわかった途端、セミラミスも強気な姿勢を見せる。
それを笑うかのように、レントは自分の胸に親指を立てる。
「魂の輝きだ」
「魂……」
「お前と彼女じゃ、天地の差があるよ」
「ふふっ、初めて言われたわね」
彼女はすでに半身が姿を消し、逃走を開始していた。
レントに追う気はない。
「なら今度会う時は、魂であなたを魅了できるようにしないとね」
「無理だな。お前の魂は汚れている。その汚れは、この先も消えることはない」
「――残念ね」
◇◇◇
「約束通り、長期休暇を貰うわよ!」
「……」
「何よ? 文句は言わせないわよ」
「いや、元気そうでよかったと思っただけだ」
レントが笑う。
私が意味がわからなくて、首を傾げた。
「元気なわけないでしょ? のんびり暮らしたいだけなのに、こっちにきてから忙しい毎日……嫌になるわよ」
「じゃあ出て行くか? そっちのほうが面倒になると思うぞ」
「意地悪はいいから、早く休みをちょうだい」
「はいはい」
長期休暇の書類に、彼は呆れながらサインをする。
これで十日間は休みだ。
「やっと休める」
「先に言っておくが、臨時で必要になったら呼ぶからな」
「聞こえない」
「おい」
「休みまで働かせようとしないで! 私は一日寝て過ごすの! それが夢なの!」
「自堕落な夢だなぁ」
彼は呆れたように笑う。
女王時代からずっと、何も考えずただのんびり過ごせる日々に憧れた。
残念ながら遠い夢だ。
でも今くらいは、短い時間でも夢を見ていたい。
「休みが終わったらまた働いてあげるから。そっとしておいて」
「わかったよ。休みだからって部屋に引きこもるなよ? そうするつもりなら、俺が無理やりでも外に連れ出すぞ」
「横暴ね」
「休日の過ごし方を教えてやろうと思ってな」
「ふふっ、それはそれでありね」
なんて会話で胸を躍らせる。
あのまま女王として生きていたら、こんな風に笑うこともできなかった。
そういう意味では、女王の地位を奪ってくれたことに感謝しよう。
今頃、あの国がどうなっているかは知らないけど。
それも気にする必要はない。
私は女王ではなく、アリスティアでもなく、リベルとして生きているくのだから。
冷徹女王と呼ばれた私は一度死んだ。
仮面を剥いだ私は、のんびりと第二の人生を歩んでいく。
ことを、夢見続ける。
【作者からのお願い】
これにて第一部は完結となります!
ここまで読んでくださった方々、本当にありがとうございます!
第二部開始まで、おまけ回などを数回挟む予定です。
ぜひお楽しみに!
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それでは第二部をお楽しみに!




