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表裏の狭間⑤

 フレーリアは恋を知った。

 彼女は日々、レントの寵愛を受けるにはどうすればいいか。

 そればかり考えるようになった。


 そんな彼女の前に、魔女は現れた。


「こんばんは、今夜は月が綺麗ね」

「あなた……誰? ここは私の部屋です。勝手に入られては困ります」

「ふふっ、素晴らしいわね。この状況でも一切動揺していない。人間とは思えない胆力だわ」

「質問に答えてください。あなたは――」

「想い人を手に入れる方法を知りたいのでしょう?」

「――!」


 魔女はいきなり核心をついた。

 フレーリアは今宵初めての動揺を見せる。


「なぜそれを知っているのか? という顔をしているわね」

「……」

「私はセミラミス。人ではなく、魔女よ」

「魔女……! あなたが?」


 フレーリアは驚愕する。

 魔女の存在は学び聞いていたが、もはや存在は空想のものだと思う者たちも少なくない。

 しかし現実に存在する。

 彼女が確信したのは、セミラミスとの出会いだった。


「あなたはあの王子を射止めたいのでしょう?」

「盗み見でもしていたのですか? 趣味が悪いですね」

「ふふっ、私はなんでも知っているの。だからわかるわ。あなたはこのままじゃ、一生彼とは触れ合えない」

「……」


 そんなことはない、とは言えなかった。

 フレーリアは賢い。

 故に、同じ可能性に行きついてしまっていた。

 レントを自分のものにすることは、できないのではないかという……不安に。


「私なら、彼を射止める手助けができるわ」

「手助け?」

「ええ。彼をあなただけのものにするのよ。そのために、私に協力しなさい。私が、私の世界を作るために」


 セミラミスは語る。

 自身が思い描く理想を。

 それを聞いたフレーリアは驚きと同時に……。


「呆れますね。そんなことを考えているなんて」

「世迷言と笑うかしら? 私にはそれを実現するだけの力と計画がある。計画がなれば、あなたには想い人と添い遂げる場所を与えましょう」

「そんな言葉に従うと思いますか? 私はこの国の人間です。彼を裏切ることなど」

「いいのかしら? 隣に立つのが自分ではなくても」

「……」

「想像してみなさい? 彼の隣に立つ、別の女性の姿を……」


 嫌だ。

 そんなのは嫌だと、彼女の心は騒ぎ出す。


「彼は自分だけのもの。他の誰にも渡さない。それがあなたの本心でしょう」

「私は……」


 渡したくない。

 誰にも……誰かのものになるくらいなら――


「方法を知っている。私なら、あなたの理想を叶えられる」


 それは洗脳に近かった。

 セミラミスの言葉には、弱く確かな毒が込められていた。

 魔力という名の毒だ。

 身体に侵食して、隠していた本音をさらけ出すための。

 

「……いいでしょう。あなたの言葉が本当なのか、この眼で確かめてあげましょう」

「ふふっ、そうでなくては」


 こうして天才は、魔女の傀儡と化す。

 恋は人を盲目にする。

 魔女の言葉は、盲目になった人の心を、より侵すのだ。


  ◆◆◆


「私の願いはただ一つ、レント殿下の寵愛を受けることです。それ以外はどうでもいい」

「……」


 セミラミスの恐ろしさを痛感する。

 彼女は根っからの魔女だ。

 フレーリアさんに芽生えた恋心を上手く利用して、レントに執着する怪人を作り上げてしまった。

 今から思えば、彼女に国を奪われたのも必然だったのかもしれない。

 他人を動かすという点において、彼女ほど優れた存在はいないだろう。

 まさに人心掌握のスペシャリストだ。

 ただ……。


「レントの気を引くために国を裏切るのは、やりすぎよ」

「関係ありません。私が裏切ったなど、証拠は残らない。代わりにあなたが罰を受ける。あなたは魔女なのですよ? さぁ、すぐにでも大衆に晒して、悪しき魔女として罰を受けてください」

「その証拠を使って、かしら?」

「はい」

「魔女の手を借りて調べた情報に信憑性なんて生まれない。何より、失念していませんか?」


 どんな証拠を手に入れようと、皆が信じなければ意味がない。

 重要なのは内容よりも、誰が示すかだ。

 今の彼女の発言なら、皆が彼女を信じるだろう。

 ならば簡単だ。

 彼女の信頼を、落とせばいい。

 例えば、彼の手を借りて。


「まさか……」

「私一人で来るわけないでしょう? 当然、一緒よ」


 ルイスの魔法で隠れていたレントが姿を見せる。

 背後には怯えたルイスも一緒だ。


「ふ、フレーリアさんがこんなに恐ろしい人だったなんて……」

「残念だよ。フレーリア」

「レント殿下……聞いてしまったのですね」

「ああ。悪いが全て聞いた。その上で、俺は言うべきなのだろう」


 さて、彼女にとってそれは、もっとも痛い言葉だろう。

 食らいなさい。


「俺は君に、何の感情も抱いていない。君を選ぶことなど、永遠にない」

「――!」


 それは、それだけは言ってほしくなかった。

 彼女は初めて、笑顔の仮面を剥がす。

 絶望と、悲しみに染まった表情は、見ているこちらも苦しくなる。

 けれど正しい。

 彼女の悪事を正すためには、この一言が必要だった。


「ふ、ふふ、ふふははははははははははははは!」

「ひぃ! 壊れました!」

「わかっていましたわ! あなたはそういう人だから、あの魔女の手を借りた。もう少しだったのに……ああ、残念。手に入らないのなら……!」

「――!」


 フレーリアさんはどこからかナイフを取り出し、レントに襲い掛かる。

 手に入らないなら殺して永遠を共に。

 なんてことを考えるのは、最初から予想していた。


「無駄よ」


 私は指先から空気の弾を発射し、彼女のナイフを弾いた。


「あなたは! あなたさえいなければ!」

「逆恨みにもほどがあるわね。あなたの気持ちは一方通行なのよ。いつまで経っても……」


 自分のことしか考えていない。

 そんな人間に、誰かの心を掴むことなんてできない。

 


 



【作者からのお願い】

短編版から引き続き読んで頂きありがとうございます!

本日ラスト更新!!


短編時に評価をくださった方々、ありがとうございます!

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現時点で構いません!

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次回は第一部のエピローグです!

お楽しみに!

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『没落した元名門貴族の令嬢は、馬鹿にしれきた人たちを見返すため王子の騎士を目指します!』

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