学園のアイドル⑤
極力関わらないほうがいい。
そう思っていた相手と、こんな場所で遭遇する。
「ふ、フレーリアさん!」
「……」
「こんにちは。こんな場所で人とお会いするなんて思いませんでした」
フレーリアはニコリと微笑む。
ルイスは驚いているだけだが、当然私は警戒する。
「偶然とでも言うおつもりですか?」
「信じてはもらえませんか?」
「無理ですね」
偶然であるはずはない。
ここは普段なら誰も通らないような場所だ。
だからこそ、上級生たちが私を襲うためにチョイスした。
何の目的もなく、こんな場所に足を踏み入れるか?
否だ。
それに……。
「今は講義中ですよ? 月下会の会長が、堂々と講義をサボっていいんですか?」
「――!」
ルイスは若干怯えてオドオドしているが、私は強気に出る。
ここで慌てたり、怯えたら相手のペースだ。
対するフレーリアも動じず、ニコリと微笑みながら言う。
「私は特待生ですので、講義の一部を免除されています」
「そうだったんですね。編入したばかりなので知りませんでした」
「お気になさらないでください。リベルさんの思っていることもわかります」
「……どうして、私の名前を?」
まだ名乗っていないのに。
「ふふっ、あなたは有名人ですよ?」
「……」
あまり嬉しくないな。
「月下会の会長様に認知してもらえるなんて光栄ですね」
「私は一介の生徒です。少し要領がよくて、学園生の代表になれただけですから」
「ご謙遜を」
「そんなことありませんよ? きっと私より、あなたのほうが優れているはずです。ね? あなたもそう思いませんか? ルイスさん」
「ひゃい! わ、私の名前……」
ルイスは動揺して変な声が出てしまっていた。
フレーリアは相変わらず笑顔だ。
「私は会長ですので、この学園に通う生徒の名前と顔は、全て記憶しております」
「は、はわ……う、嬉しいです!」
「……」
まるで犬みたいに尻尾を振って……眼を輝かせる。
これがフレーリアの持つカリスマ性なのだろう。
時折いる。
ただそこにいるだけで、人を惹きつける人間が……。
彼女はまさに、そういう類の人間だ。
フレーリアが視線を私に戻す。
「確かに、偶然ではありません」
「……」
「お二人が講義を受けず、どこかへ歩いていく姿が見えましたので、つい気になってしまいました」
「そうでしたか。ご心配をおかけしました」
私は丁寧に頭を下げる。
「何やら私の話をされていたようですが、何かご要望がございますでしょうか?」
「いえ、先ほど生徒たちに囲まれていた様子を見て、それに驚いていただけです。人気者ですね」
「人気者だなんて、お恥ずかしい」
「……」
「私は同じ生徒です。ただ、生徒の代表として皆様の悩みを一緒に考え、解決したいと思っています」
澄んだ瞳で見つめながら、訴えかけてくる。
私はあなたの味方ですよ、と。
なるほど。
この眼と語り口調で、多くの生徒を虜にしたのだろう。
素でやっているなら天性のカリスマだ。
「ですから、何か困ったことがあるのでしたら、どうか私にもお手伝いさせていただけませんか?」
「……」
さて、どうしたものか。
断ってもいいのだけど、一度見られてしまった以上、動きにくくなる。
「リベルさん!」
「何?」
ルイスがちょんと背中をつつき、耳元で語りかけてくる。
「協力してもらいましょう! せっかくの機会じゃないですか!」
「……あなた、仲良くなりたいだけでしょ」
「ギクっ! そ、そんなわけないですよ! 私はリベルさんの下僕です! リベル様サイコー!」
「はぁ……」
ため息をこぼし、少し考える。
このまま私たちだけで探すのは、ハッキリ言って難易度が高い。
しかし彼女はただの生徒だ。
巻き込むリスクもあるし……。
「私たちは、ある人の命令でこの学園に潜んでいるスパイを探しています」
「スパイ?」
「はい。隣国に情報を流している人間がいます」
「うっ……」
隣でルイスが反応した。
あなたの場合は過去形でしょう。
「それは由々しき事態ですね……お二人に依頼した方を聞いてもよろしいですか?」
「申し訳ありませんが言えません。許可を取っていないので」
「そうですか」
「協力して頂けるならありがたいですが、無理なら不干渉で頂きたい」
「……わかりました。協力させてください」
彼女は少し悩んで、返答した。
「いいのですか?」
「はい。この学園の代表として、そのような方がいるのは見過ごせませんので」
「やりましたよリベルさん! 強力な味方です!」
「そうね……」
そうなるといいわね。
◇◇◇
「――というわけで、フレーリアさんが協力してくれるそうよ」
「だから、脈絡なく結論だけ言わないでくれるか?」
今日も放課後、レントに報告するため彼の執務室を訪れた。
ルイスは帰宅している。
今は私たちだけだ。
「フレーリアか」
「知り合いでしょう? パーティーでも仲良しって聞いたわ」
「別にそういうわけじゃないんだが……ひょっとして嫉妬してくれるのか?」
「私がすると思う?」
「……想像できないな」
彼は呆れたように笑う。
「大丈夫なのか?」
「レントのことは伝えていないわ」
「だとしても、いずれバレると思うんだが」
「その時はその時よ」
彼はいつになく難しい顔をしている。
「彼女に問題があった?」
「いや、そういうわけじゃ……個人的に少し苦手なんだ」
「――へぇ、意外ね」
彼は苦手意識を持つ相手がいたのか。
その眼で魂すら認識できる彼が、他人を苦手だというのは少し驚かされる。
しかも相手は、あのフレーリアだ。
「なんで苦手なの?」
「……魂も、表情も、いつ見ても変わらないからだよ」
「変化がないのはおかしいことなの?」
「ああ、誰しも魂が動く。人と話したり、感情が動けば呼応する。彼女にはそれがない。まるで人形のようで、笑っているのに……」
「不気味?」
「……理解できないかもしれないけどね」
「そんなことないわ」
同じだ。
私もずっと感じていた。
常に笑顔を絶やさず、明るく丁寧に接する。
だけど、私を見ていないように見えた。
まるで……人形と話しているようだった。
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