学園のアイドル④
本格的な行動を開始する前に、私たちは作戦を考えることにした。
講義は元より自由参加だ。
いつ、どの講義を受けるかは個人の裁量で決められる。
それでもほとんどの生徒は真面目で、必ずどの講義かには参加している。
「さすがです! 堂々と講義をサボるなんて大胆なこと普通思いつきませんよ!」
「誰でも思いつくでしょ」
ルイスは相変わらずテンションが高い。
彼女を仲間にしたことは進展だが、今のところ良くも悪くも機能していない。
むしろ目立つようになってしまった。
このままじゃダメだ。
講義中なら誰かに見られる心配も薄まる。
「どこか適当に場所を探して、先のことを考えましょう」
「だったらあそこはどうですか? リベルさんがよく先輩をボコボコにしてるところ!」
「言い方……あの一回だけよ。でもいい案ね。そうしましょう」
「了解です!」
私たちは学園の裏手に向かう。
道中、人だかりができていた。
人だかりの中心にいるのは、淡いピンク色の髪を持つ綺麗な女子生徒だった。
「あれは何の集まり?」
「え? リベルさん知らないんですか? あの方は月下会のフレーリア様ですよ!」
「月下会? ああ、そんな名前の組織あったわね」
学園についてまとめられた資料の中に、月下会の名前があった。
月下会とは端的に言うと、前世における生徒会みたいな組織だ。
学園の生徒だけで構成され、生徒の意見をまとめる代表。
何か学園への意見があった際、それを学園側に伝え、交渉したりする。
あとは行事の運営など、やっていることは生徒会だが、前世の生徒会よりも権限が多い。
そのトップにいるのが……。
「エリーシュ公爵家のご令嬢! フレーリアお姉様です!」
「お姉様って……」
「みんなそう呼んでます! とっても優しくて、綺麗で、なんでもできるので憧れの対象になっているんですよ?」
「へぇ、憧れね」
さしずめ、この学園のアイドルみたいな存在のようだ。
集まっている生徒も男女問わず、みんなが目を輝かせている。
まるでアイドルのコンサートだ。
「エリーシュ公爵家はこの国でも有力な貴族の家系で、王家とも関わりがあるんです! よくパーティーなんかでも、レント王子と話している姿を見られますよ!」
「よく知っているわね」
「私も一応、貴族家系の出身ということになっているので、パーティーにも参加します。あとは毎日観察して、調べました!」
彼女はノートを堂々と見せてくる。
日々の生活を記録したノートは、ただの日記でしかないと思っていたら、ちゃんとした情報も仕入れているようだ。
まだ残りのノートも見ていないし、時間を見つけて読んだほうがいいかもしれない。
「レントと知り合いなら、後で聞いてもいいわね」
「そうですね! でも凄いですよねー。学園のトップで、何でもできて、王子様とも仲がよくて。私も憧れちゃいますよ」
「……」
この子は、自分が情報収集のために送り込まれたスパイだということを忘れているのだろうか?
普通に一介の生徒の視点に、少し呆れる。
ハッと気づいたルイスが弁明する。
「――はっ! ち、違いますよ! 勘違いしないでくださいね?」
「そうね」
「今の私の憧れはリベルさんです! リベルさん最高です!」
「……」
そういうのは求めてないから。
私は盛大にため息をこぼし、その場を後にする。
学園の人気者である彼女とは、きっと今後関わることはないだろう。
これ以上目立ってたまるか。
「……」
◇◇◇
場所を移動して、木陰で作戦会議をする。
ルイスにはついでに、これまで取ったノートを持ってきてもらった。
「凄い数ね。百冊以上あるのよね?」
「はいです!」
これを全部目を通すのは時間がかかりすぎる。
とりあえず、日付が近いものから流し見しつつ、意見交換でもしよう。
「この学園にもう一人の魔女がいる。あなたはどう思う?」
「えーっと……」
「思ったことを言っていいわよ」
「じゃあ! 私はいないと思います!」
彼女はキッパリそう答えた。
少し驚く。
「どうしてそう思うの?」
「魔女なら私やリベルさんが、見つけられないわけないからですよ」
「上手く隠れているんじゃないの? あなたみたい魔力を消して」
「それは無理です。完全に魔力を消せるのは、私がそういう魔力の性質を持っているからで、セミラミス様でも無理なんですから」
「性質?」
「そうですよ! 魔力には個人差があって、性質も違います。私の場合は霞のような性質があって、だから幻覚とかの魔法と相性がいいんですよ」
魔力に性質があるのは初耳だった。
魔女の中では常識なのだろう。
彼女は当たり前のように語っているし、特別なことではないようだ。
「その性質って、どうやって把握するの?」
「え? どうって、なんとなく感覚で?」
「テキトーなのね……ちなみに、私の性質はわかる?」
「リベルさんはわかりやすいですね! 温かいです!」
どうやら私の魔力は熱を帯びているらしい。
だから炎の魔法と相性がいいのか。
「もしかして、知らなかったんですか?」
「ええ。これまで魔女としては生きてこなかったのよ。関わりもなかったから」
「そうだったんですねー」
彼女には、私が元女王だということは知らせていない。
言わないほうがいいと思った。
口とか軽そうだし。
しかし思ったより有力な情報だ。
彼女の意見が正しいのなら、この学園に潜んでいるのは魔女ではない。
「だとしたら一層、探すのが大変ね」
「ですね。生徒のことなら何でも知ってる人、とかに聞けばいいんじゃないですか?」
「教員? それならレントに頼めばいいし、彼がしていないとも思えないけど」
「じゃあフレーリアさんに聞くのはどうでしょうか!」
「無理に決まっているでしょう? 関わりはロクにないんだから」
そもそも相手は一生徒でしかない。
私たちがやっているのは、王子が関わっている極秘事項だ。
無関係な人間を無暗に巻き込むべきじゃない。
何より、あんな人気者と一緒にいたら、こっちまで注目される。
関わるべきじゃない。
「偶然顔を合わせる機会でもない限り、フレーリアさんに関わることはないわね」
「ええー」
「それは残念ですね」
「「――!」」
私たちは驚愕する。
この場所は、私にとっても何かが起こりやすい空間なのかもしれない。
私たちの背後には、話題の人物が立っていた。




