学園のアイドル①
翌日。
私はこれまで通り学園に通っている。
学園の門をくぐると、すぐに一人の女子生徒が駆け寄ってきた。
彼女はイノシシのように突進し、私の眼前で停止する。
「おはようございます! リベル様!」
「……」
「カバンをお持ちします!」
「……」
この清々しく頭を下げて挨拶をしている女性は、元セミラミスの部下で魔女のルイス・チャーベスだ。
彼女はセミラミスの命令でこの国に潜伏し、情報を流していた。
私が学園に通う目的は、潜伏している魔女を見つけ出すこと。
見事に目的は達成されたのだが……。
「ルイス、目立つからやめてもらえます?」
「も、申し訳ございません! 伏してお詫びします!」
「だからそれをやめなさいって!」
どこのヤンキーだ。
女子生徒に朝から頭を下げさせている光景を、通り過ぎる他の生徒たちが見ている。
ただでさえ目立っているのに、こんなことで悪目立ちしてどうするんだ。
私はルイスの手を引き、人通りの少ない建物の裏手に連れ出した。
「ルイス、昨日説明したことわかっているの?」
「はい! 私はこれからリベル様の忠実な下僕です!」
「そうじゃなくて……」
ルイスはキョトンとした表情を見せる。
この顔は本気で覚えていないのか。
私はため息をこぼし、続けて説明する。
「いい? 私がこの学園にいるのは、ここに潜んでいるセミラミスの手の者をあぶりだし、捕まえるためよ」
「わかっています! それに自分も協力します!」
「だったら余計に目立つようなことはしないで。隣にあなたがいるのよ? 向こうからすれば、警戒して尻尾を出さなくなるわ」
「わかりました! では私は後ろを歩きます!」
「そうじゃないって!」
私は盛大にため息をこぼす。
これを大真面目に言っているから、怒っても時間の無駄だ。
セミラミスが彼女を放置した理由をしみじみと感じる。
まっすぐすぎるんだ。
かくれんぼには向いていても、スパイには不向きすぎる性格だった。
「でもリベル様、本当にまだこの学園に他の魔女がいるんですか?」
「いるわね。魔女かどうかは知らないけど」
「断言するとは! さすがです!」
「あのねぇ、少しは考えなさい。って、セミラミスに放置された人にそれを言うのは酷か」
ルイスは首を傾げる。
本来なら、彼女を見つけた時点で目的は達成される。
しかし見つけた魔女はこの有様だ。
セミラミスは彼女のことを見捨てている。
ならばすでに、ルイスの代わりを学園内に侵入させている可能性が高い。
という話を、昨日彼女を捕まえた時にレントとした。
◆◆◆
「これで任務は完了よね? 休み、くれるかしら?」
「……」
「ちょっと、今さらなしはダメよ?」
「そうじゃない。お前、本気で終わりだと思っているわけじゃないだろ?」
「終わったじゃない」
目的だった魔女は見つけた。
単なる偶然だけど、見つけた事実は同じだ。
これにて任務達成。
私は報酬として、長期休暇をゲットする。
はずなのだが……。
「まだ終わっていない。彼女の状況を見ろ。どう考えても、潜伏している魔女が彼女一人だとは思えないだろう?」
「他にもいるってこと?」
「俺はそう思っている。ルイスはカモフラージュで、本命が他に潜んでいるんじゃないか?」
「考え過ぎじゃないかしら」
と、口では言いつつも、私も同じことを考えていた。
こちらに寝返ったルイスは、今も私の後ろで小さく固まっている。
彼女が放置されたのは半年前くらいからだろう。
ならばすでに、その頃から別の魔女を潜伏させている可能性が高かった。
でも、これはただの可能性だ。
私たちを惑わせるための嘘かもしれない。
そもそも魔女はいたから、嘘はついていないのだけど……。
「お前だって気づいているはずだろ?」
「まったく気がつかなかったわ」
「嘘つくな。魂が揺らいでる」
「……卑怯な眼ね」
レントは小さくため息をこぼす。
「とにかく、任務は継続だ。潜伏するなら同じ学園だろう。お前は他の魔女、もしくはセミラミスの協力者を探してくれ」
「いなかった場合は? 終わりが見えないわ」
「いない証明ができればいい」
「簡単に言ってくれるわね」
「人手は増えたんだ。これまでよりは動けるだろう?」
「人手って……」
「ひぃっ!」
私とレントの視線を感じ、ルイスがビクッと反応した。
まだ怯えているのか。
これを人手と言っていいものか、微妙なところだ。
「面倒ね」
「なら、見つけたら休暇期間を倍にしよう」
「――! 倍?」
「ああ。一人見つけたことは事実だからな。その分の働きも考慮して報酬も出す。どうだ? やる気がでてきたか?」
無事に見つけたら長期休暇二週間!
なんという魅力的な提案なのだろう。
上手く乗せられている気もするが、これは食いつかずにはいられない。
「いいわね。今の発言、取り消さないでよ?」
「わかっているよ。あ、ちなみに一か月経過するごとに減らしていくから」
「……やっぱり鬼ね」
「リミットがないとお前はサボるだろ」
◆◆◆
ということがあったのを思い出す。
私の長期休暇二倍のために、なんとしても見つけ出す。
「私にできることは何でも言ってください! リベル様の手足となり、馬車馬のように働きます!」
「……」
不安しかない。
お願いだから、足を引っ張ることだけはしないでね。




