私は魔女じゃないです①
「リベル、学園のほうはどうだ?」
「今のところ大きな変化はないわね。魔女を見つけるにはまだ時間がかかりそう」
「そうか」
「ええ」
学園の講義が終わってから、私はレントに報告をすることになっている。
魔女探しについての報告がメインなのだが、どうやら彼はそれ以外のことも気になるらしく。
「他にはどうだ? 学園生活は楽しいか?」
という質問も、二日に一回くらいのペースで聞いてくる。
「それは一昨日も聞いたわよ」
「そうなんだが、気になってな」
「別に普通よ? 退屈な講義を受けているだけ」
「退屈……あの学園の講義って、世界中から優秀な教員を集めているから、それなりに難度も高いはずなんだが……さすが元女王だな」
呆れた顔をするレント。
質問には答えたが、たぶん彼が知りたいのはそこじゃない。
「友達はできたか?」
「それは嫌味で言っているの?」
できるわけがないだろう。
私の目的は友達作りじゃなくて、魔女を見つけること。
秘密まみれの私に友達とか、仲良くなるだけでも神経を使うのにハードルが高い。
「いやー、噂で上級生の男子生徒を家来にしたとか聞いたんだが」
「うっ……」
「やはり事実なのか?」
「家来じゃなくて、友人よ?」
「おい、さっきの発言は何だったんだ?」
「いないとは言ってないじゃない」
誤魔化してみるが、この様子だと耳に入っているのだろう。
私が学園で、どう呼ばれているか。
「編入初日に、上級生にからまれ撃退し、そのまま自身の従者のように扱っている。というのを警備の騎士から聞いているんだがぁ?」
「……」
レントは疑うように顔を近づけてくる。
私は必死に目を逸らしたが、これは言い逃れできなさそうだ。
「仕方ないじゃない。難癖つけてきたし、私のことを好きにしようとしたのはあっちよ?」
「言い寄られて返り討ちにしたのか?」
「もっとひどいわ。平民だからって馬鹿にされたのよ」
「ああ……その設定が仇となったか。いや、災難だったな」
それはどちらに対してなのだろう?
やれやれと呆れるレントに問い質したくなったが、自分が不利になりそうなので飲み込んだ。
「あまり目立ちすぎるなよ」
「だから大人しくているわよ」
「上級生四名、全員うちじゃ名のある貴族の出身じゃないか。お前、自分の正体明かしただろ?」
「いいでしょ? 脅しになるし、現に誰にも話していないわよ? 彼らは」
「はぁ……」
これまた盛大なため息だった。
彼は頭に手をあて、呆れながら悩んでいる。
「こっちも大変なんだぞ? さすがに各貴族の当主から、どういうことなんだと問い合わせがあってな」
「親にも言うなって言ったのに、裏切ったわね」
明日会ったら粛清しておこう。
私に逆らった罰だ。
「言っとくがやりすぎるな? こっちにも目的があるんだ。関係ない貴族に喧嘩を売るために潜りこんだわけじゃないんだぞ」
「わかっているわよ。だから手掛かりを探させているんじゃない」
「仮にも貴族の息子を顎で使うなよ」
「喜んでやってくれているわ」
「……はぁ、ほどほどにな」
親のほうはレントが何とかしてくれているみたいだ。
私は気にせず、いつも通り接しよう。
命令に従う手足が四つもあると、何かと便利だから。
「お前、学園の女王になるつもりか?」
「まさか。女王なんて二度とやらないわよ。大変すぎるって知っているから」
「ならいいが、目立ちすぎるな。相手に勘づかれたら終わりだぞ」
「大丈夫でしょ」
「上級生を返り討ちにしてた噂は一瞬で広まったが?」
「うっ……」
誰もいない場所、時間帯だからと侮った。
まさかあれを見られていたとは。
翌日から噂は広まり、私が上級生を飼いならしたということで、周囲から恐れられている。
それからは目立たないように大人しくしているが、いつになったら注目度は弱まるのか。
「勝手に言いふらした人間は、見つけ次第お話合いね」
「乱暴なのはやめてくれよ」
「お話合いよ?」
「言葉の暴力って知っているか?」
「私の辞書にはないわね」
あっても今は消えてもらっている。
私の完璧な計画の邪魔をしたのだ。
積極的に探すつもりはないけど、見つけたらそれなりの対応をしよう。
「で、本題に戻るが」
「魔女のことね? 手掛かりは何もないわよ」
「潜入して一週間か」
「そうね。これでもちゃんと探しているほうよ?」
講義中は退屈すぎて、九割以上眠っているけど。
それ以外の時間で学園を歩き回り、いろんな人を観察した。
私は魔女になり、魔力を宿している。
目には見えないけど、気配でなんとなく察することはできる。
魔物の接近に早く気づけるのも同じ原理だ。
魔力の気配は、弱めることができるけど、これが中々難しくて骨が折れる。
「そもそも、レントの眼でも見つけられなかったのに、私に見つけられると思う?」
「思うから、お前を派遣したんだ。今のお前は魔女だ。俺には感じられないものを感じ取ることができるはずだ」
「簡単に言ってくれるわねぇ。まぁ、時間をかけてゆっくりやるわ」
「構わないが、時間がかかるほど、達成後の報酬は減るからな」
「なっ! 聞いてないんですけど!」
「今言ったから」
さらっと言うレントに私は抗議する。
「そんなの無効よ!」
「決めるのは主である俺だ。だってお前、そうでもしないと真面目に探さないし、今の環境のほうが二日は休める。ついでに講義中もがっつり寝てるみたいだし、楽だと思ってるな?」
「うっ……」
「図星だな?」
この男はテレパシーでも持っているのか?
「というわけだ。急いで頑張ってくれ」
「……鬼ね」
「聖人だよ?」
「鬼聖人」
「混ぜないでくれ」
私はため息をこぼす。




