学校へ行こう⑤
カイノス王立学園は、身分関係なく誰でも入学資格を得られる。
在学中は学園性として平等。
貴族でも平民でも、等しく扱われる。
ということになっているのだが、現実はそこまで簡単じゃない。
実際のところ、身分による差はある。
その際たる問題が、いじめだ。
平民で学園に入学した者は、貴族から目をつけられいじめられるケースが多い。
特に優秀だと、僻みや妬みからいじめの対象となる。
入学前、学園に関する資料は読んだ。
いじめ問題には、レントも頭を抱えていた。
「さっそくね」
「おい、返事しろよ。優秀な編入生は会話もできねーのか?」
「……この後も講義があります」
「だから、そんなもん一回くらいサボれよ。お前、確か一学年だろ?」
「はい」
編入後は等しく一学年生となる。
年齢ではなく、いつ入ったのかというのが重要だ。
彼らは見たところ、私よりは学年が上らしい。
どうでもいいけど。
「今の講義は、普通三学年が受ける内容だったぜ」
「え?」
そうだったの?
テキトーに選んだのに、まさかの上級講義を選んでいたことに驚く。
「そんな講義で寝てたんだ。よほどお勉強には自信があるんだよなぁ」
「……」
言い訳できない。
実際、つまらない授業で眠ってしまったわけだし。
内容も知っていることばかりだった。
「だったらサボって俺らと遊んでも問題ないだろぉ?」
「先輩方はいいのですか? 講義を受けなくて」
「俺たちも優秀なんだよ。こんな講義なんて受けなくてもな」
「……」
だったらどうして学園に通っているのか。
家の方針で、学園は卒業しておいたほうがいいから、とかそういう理由だろう。
大した志も、将来の展望もなく、ただ通っているだけ。
私も他人のことはいえないけど、将来ロクな大人にならなそうだ。
「すみませんが、講義は受けたほうがいいと思いますよ」
「生意気言ってんじゃねーよ。いいから来い」
「……」
誰か助けてくれないかな?
担当の教員は……もういなくなっているし。
他の生徒もチラッと見るだけで、憐みの視線以外は感じない。
彼らも巻き込まれたくないのだろう。
気持ちはわかる。
こんなあからさまに面倒そうな男たちと関わるなんて、時間の無駄だ。
今度は自分がいじめの標的になるかもしれない。
私は小さくため息をこぼす。
「わかりました」
「はっ、ようやく素直になったか。こっちだ」
「……」
ここで無理に突破しても、またちょっかいをかけてくる。
なら、一度しっかり話し合いをすべきだ。
二度と、関わらないでくれるように。
説得しようじゃないか。
◇◇◇
先輩たちに案内されたのは、学園の建物の裏にある木陰。
人通りはなく、ちょうど授業中だろうから、誰も来ることはないだろう。
ここなら思う存分、遊べるというわけだ。
「へへっ、これからやること、わかってんだろ?」
「……」
「抵抗すんじゃねーぞ? 痛い目みたくなけりゃな」
いやらしい視線で、私に手を伸ばす。
その手が触れる前に、私は口を開く。
「先輩、一つ勝負をしませんか?」
「あ? 勝負だ?」
「はい。勝負の内容はなんでもいいですが、先輩方の得意分野にしましょう」
「……」
「私が勝ったら、二度と私には関わらないと誓ってください」
私は笑顔で提案した。
それが苛立ったのか、先輩の男は低い声で言う。
「……おい、てめぇなめてんのか?」
「いいえ、ただの提案です。代わりに、私がもし負けたら、あなた方に絶対服従を約束しましょう。どんな命令も、どんな願いも聞き入れます」
「へぇ、おいおい、いいのかよ! そんな提案して!」
「構いません。私が負けることはありませんから」
私は笑顔を見せる。
煽りだ。
彼らの怒りを煽り、冷静な判断を鈍らせる。
「なめてやがんな。だったら勝負しようぜ。その身体にいろいろ教えてやるよ」
「では決闘でよろしいですか? 私は皆さん全員が相手でも構いませんよ?」
「っ、相手は俺一人だ!」
リーダーっぽい男が殴り掛かってきた。
まだ勝負開始も言っていないのに、せっかちな男だ。
私はひらりと躱し、足を出して転ばせる。
「がっ!」
「大丈夫ですか? 足元は見ないといけませんよ」
「てめぇ、もう許さねーぞ!」
先輩は左腕の腕輪を見せる。
彼は精霊使いらしい。
だからあの講義を受けていたのか。
「ズタズタにしてやるよ!」
彼が腕輪に宿すのは大気の精霊。
大気を操り、空気の弾を生成し、放つ。
一発目は外れて、隣の木にめり込んだ。
「どうだ? そいつが直撃すれば、骨も簡単に折れるぜ」
「当たらないですよ」
「馬鹿が! さっきのは脅しだ!」
今度は狙ってくる。
けれど、当たらない。
当たる直前、火球を生成して相殺した。
「てめぇ! 精霊術?」
「使えないと思ったんですか? あの講義を受けているのに」
「っ……使えるだけで!」
何度も空気弾を放つが、すべて相殺していく。
遅い攻撃だ。
あの講義と同じで、眠くなってくる。
「もういいので、他の方も一緒にどうぞ」
私は煽る。
それに苛立った男たちが、次々と精霊術を発動させた。
四対一。
しかも全員が精霊使い。
本来ならば絶望的だが、私は彼らをねじ伏せた。
たった一分で。
私の足元に、先輩たちが転がっている。
「勝負は私の勝ちですね」
「なっ……」
(何だこの女……強すぎる。まるで次元が……)
「理解しましたか? あなた方じゃ、私には勝てません。負けたんですから、今後は私に服従してもらいます」
「は、は? そんな約束してねーだろ!」
確かにしていない。
というか、今考え付いた。
二度と関わらないというのもありだけど、せっかくなら手駒にしよう。
一人で魔女を探すのは大変だし、使いやすい人間がいるとはかどると思ったから。
「する前に勝手に始めたんでしょう? 負けたんだから潔く従ってください」
「ふざけんな! 誰がてめぇなんかに!」
「そうですか? じゃあ、いいことを教えます」
私は彼の耳元で囁く。
ここにいる私が、一体誰の命で学園に入ったのか。
その名を聞いて、絶句する。
「う、嘘だろ……」
「嘘ではありませんよ? 必要なら自分で確認してください」
いかに貴族たちと言えど、その上には王族がいる。
私が仕える主は、この国のトップだ。
彼らは逆らえない。
故に――
「これからよろしくお願いしますね? 先輩たち」
「……はい」
都合のいい手駒の完成である。
喧嘩を売る相手は選びましょう。
それが彼らが学ぶべきことだった。
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