学校へ行こう④
カイノス王立学園。
中等部と高等部があり、中等部は王都に拠点を構える貴族たちが大半だ。
これは貴族優遇の時代の名残である。
一般生徒が入学できるのは高等部からで、試験に合格する必要がある。
中等部からの進級も試験はあるが、外部入学よりは簡単らしい。
門は開かれたが、多少の貴族優遇は残っている。
在校生徒は現在二万人ほど。
私が特別編入するのは高等部だ。
一年生から三年生まであり、学年の区別はあるが、前世の高校や大学ほどの差はない。
授業は単位式なので、受けたい授業を自分で見つける。
「さてと……どうやってさがそうかな」
今日から私も、この学園に通う一人の生徒。
一般入試で秀でた成績を収め、特別編入を許された平民の女の子。
という設定になっている。
設定を確立するために、昨日は編入試験を受けさせられた。
「はぁ……今さら試験とか、ないわね」
心底疲れた。
座学による試験がメインなのだが、五時間くらい机と睨めっこ。
これなら野盗退治のほうが楽だ。
文句を言ったけど、必要なことだからと言われ、しぶしぶ試験を受けて、無事に好成績をとれたので、問題なく編入できた。
量は多かったけど、内容は英才教育で学んだ知識で十分に対応できたから、難しいとは思わなかった。
ただただ、座りっぱなしで疲れただけだ。
「終わったら盛大に休んでやるわよ」
レントとは約束を交わしている。
この任務が無事に終わったら、連休をプレゼントしてもらう。
王国に入り込んでいる魔女を見つけ出すことは、とても重要な任務だ。
それくらいの報酬があってもいいだろう。
嫌そうな顔をしていたレントを言葉で説き伏せ、言質はとった。
これが終わったら一週間は休みだ。
盛大にぐーたらしよう。
「今から楽しみね」
一人で笑っていると、学園を警備している兵士がこちらに気づく。
「君、何しているんだ? 見かけない顔だね」
ナンパみたいな口上だが、彼らは職務を全うしているだけだ。
私は咳払いをしてから、丁寧に対応する。
「初めまして。今日からこの学園に通うことになりました」
「今日から? ああ、編入生がいるとは聞いていたが、君がそうなのか」
「はい」
「念のため、許可証を見せてもらえるか?」
私はポケットから、銀色の紋章が描かれたペンダントを取り出す。
これが学園に通う者へ与えられる身分証。
前世でいう所の学生証で、名前や個人情報が記載されている。
尚、名前以外はレントが考えた嘘である。
「リベルさんか。確認がとれた。もう授業が始まる時間だから、早く受けたい授業を探しなさい」
「はい。そうします」
この人は、私がレントの側役であることを知らない。
私は側役になってから日が浅く、直接関わった人間は多くない。
知名度の低さを利用して、ここでは一般生徒として振る舞うことになっている。
下手に側役だとバレると、魔女に感づかれてしまう。
タイムリミットは、私の正体が広まってしまうまで、だろう。
それまでに魔女を見つけ、母国へと送り返すか、牢獄にぶち込もう。
その先に待っている惰眠ライフのために。
「腕が鳴るわね」
そうはいっても、私には情報がない。
一先ずは学園の生徒として過ごし、情報を集めるところからだろう。
私はテキトーな講義を見つけて、それを受けることにした。
選んだのは精霊術に関する講義だ。
受けている生徒数も比較的多いし、目立たないようにすればカモフラージュにもなる。
私は一番後ろの席に着き、講義を受ける。
十分後。
「ふぁ……」
退屈だ。
内容はすでに知っていることの繰り返し。
言葉で説明されても、聞く意味のない講義だった。
わかっていたけど、凄く眠い。
前世で受けた学校の授業を思い出す。
興味のないことを延々と聞いていると、まるで子守唄のように眠気を誘われる。
時計を見る。
まだ講義開始から十数分しか経過していない。
講義時間は九十分。
残り八十分近く、この子守唄に耐えないといけない。
「……諦めよ」
どうせ聞いても意味ないし、ちょっと目を瞑っているくらい問題ないでしょう。
と、思ったのが最後。
私はそのまま眠ってしまった。
次に目を覚ましたのは、ちょうど授業が終わった頃だ。
周りの生徒たちが移動していて、その音で目が覚めた。
「ぅ……あ、やっと終わったのね」
生徒たちの半数が移動している。
この教室は、次の講義では使わないのだろう。
私もそれに合わせて出ようとした。
けど、阻まれた。
「おい、そこのお前」
「はい?」
「お前、編入生だろ?」
気づけば私の周りには、ガタイがいい男子生徒数名が集まっていた。
前後左右を挟まれ、移動できない。
「そうですけど……何でしょうか?」
「講義中に爆睡なんて、随分と舐めてるんじゃないのか? 平民の分際でよぉ」
「……」
ああ、そういうことか。
この男たちは貴族の生まれで、平民でよい成績を収め、学園に編入してきた私が気に入らないらしい。
編入初日で面倒な人たちに絡まれてしまったな。
「それはすみませんでした」
こういう時はとりあえず謝って、揉め事を回避しよう。
関わるほうが時間の無駄だ。
「以後気をつけます。次の講義を探したいので、移動してもよろしいですか?」
「舐めてんのか? 謝罪だけで許されるわけねーだろ?」
「……じゃあどうすればいいのですか?」
「そうだな。だったら、俺たちと一緒に遊んでくれよ」
男はいやらしい視線を私に向ける。
一秒で察した。
この男は、下半身に正直なのだろう。
「はぁ……」
私は運がない。
本当に、初日から面倒な相手に絡まれたものだ。




